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9.美しい人
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「……それにしても、静かなものですね」
「静か、ですか?」
ベランダで机を挟んで、私はジオート様と椅子に座っていた。
そこで彼は、舞踏会の会場である中を見ながら呟いてきた。
確かに、ここは静かである。喧騒に溢れた会場とは、正反対の場所だ。
「僕は、静かな場所が好きなんです。実の所、舞踏会などといった場はそんなに得意ではなくて……」
「そうなのですか……私は、舞踏会は嫌いではありません。色々な方に出会えますから」
「それは素晴らしいことですね。貴族として僕はまだまだ半人前のようです」
ジオート様は、自虐的な笑みを浮かべていた。
ただ、別に舞踏会などといった場の好き嫌いで貴族としての資質が決まるという訳ではないだろう。特に彼のような嫡子であるならば、むしろ政の腕前の方が重要であるはずだ。
それにジオート様には、どこか人を惹きつける不思議な雰囲気がある。
そういったカリスマ的な雰囲気を持っているのは、貴族としては強力であるといえるだろう。
「そんなことはありませんよ。私も失敗ばかりですから」
「そうなのですか?」
「ええ、誰彼構わず話しかけていくことが多いのですけれど、それで相手に嫌われることもありますからね」
「しかし、僕からしてみたらそういう失敗を恐れない勇気というものが、非常に素晴らしいものであるように感じられます。あなたは尊敬できる人ですね」
ジオート様は、私のことをとても評価してくれていた。
それ自体は、ありがたいことである。ただ、少し褒め過ぎであるような気もする。故にこれは、お世辞であると考えた方がいいだろうか。
ただ先程の件もあるので、彼が本心を喋っている可能性もあると思ってしまう。そういう風に思わせる彼の雰囲気は、やはり得なのではないだろうか。
「こういうことを言うのは嫌味のように思われるかもしれませんが、僕はよく人に美しいと言われるんです」
「え? あ、それはその……そうでしょうね? ジオート様はお美しいと思います」
「ありがとうございます」
そこでジオート様は、唐突に自分の評価を伝えてきた。
それは別に自信を持って言っている訳ではない。どこか遠慮がちな言葉だったため、彼は別にナルシストではないのだろう。
しかしそれでも、自分の美しさを自覚せざるを得なかった。それだけそう言われてきたということなのだろう。
「ですが、本当に美しいのはきっとエレティア嬢のような人だと僕は思うんです」
「え?」
「僕の中身は、ドロドロとしたものですからね。美しいなんてことはないんです」
ジオート様は、また自嘲的な笑みを浮かべていた。
そのどこか悲しい笑顔に、私は少し押し黙ってしまう。なんと声をかけていいのか、わからなかったのだ。
「静か、ですか?」
ベランダで机を挟んで、私はジオート様と椅子に座っていた。
そこで彼は、舞踏会の会場である中を見ながら呟いてきた。
確かに、ここは静かである。喧騒に溢れた会場とは、正反対の場所だ。
「僕は、静かな場所が好きなんです。実の所、舞踏会などといった場はそんなに得意ではなくて……」
「そうなのですか……私は、舞踏会は嫌いではありません。色々な方に出会えますから」
「それは素晴らしいことですね。貴族として僕はまだまだ半人前のようです」
ジオート様は、自虐的な笑みを浮かべていた。
ただ、別に舞踏会などといった場の好き嫌いで貴族としての資質が決まるという訳ではないだろう。特に彼のような嫡子であるならば、むしろ政の腕前の方が重要であるはずだ。
それにジオート様には、どこか人を惹きつける不思議な雰囲気がある。
そういったカリスマ的な雰囲気を持っているのは、貴族としては強力であるといえるだろう。
「そんなことはありませんよ。私も失敗ばかりですから」
「そうなのですか?」
「ええ、誰彼構わず話しかけていくことが多いのですけれど、それで相手に嫌われることもありますからね」
「しかし、僕からしてみたらそういう失敗を恐れない勇気というものが、非常に素晴らしいものであるように感じられます。あなたは尊敬できる人ですね」
ジオート様は、私のことをとても評価してくれていた。
それ自体は、ありがたいことである。ただ、少し褒め過ぎであるような気もする。故にこれは、お世辞であると考えた方がいいだろうか。
ただ先程の件もあるので、彼が本心を喋っている可能性もあると思ってしまう。そういう風に思わせる彼の雰囲気は、やはり得なのではないだろうか。
「こういうことを言うのは嫌味のように思われるかもしれませんが、僕はよく人に美しいと言われるんです」
「え? あ、それはその……そうでしょうね? ジオート様はお美しいと思います」
「ありがとうございます」
そこでジオート様は、唐突に自分の評価を伝えてきた。
それは別に自信を持って言っている訳ではない。どこか遠慮がちな言葉だったため、彼は別にナルシストではないのだろう。
しかしそれでも、自分の美しさを自覚せざるを得なかった。それだけそう言われてきたということなのだろう。
「ですが、本当に美しいのはきっとエレティア嬢のような人だと僕は思うんです」
「え?」
「僕の中身は、ドロドロとしたものですからね。美しいなんてことはないんです」
ジオート様は、また自嘲的な笑みを浮かべていた。
そのどこか悲しい笑顔に、私は少し押し黙ってしまう。なんと声をかけていいのか、わからなかったのだ。
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