聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗

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 私は、レイグスに自分の身に起きた出来事を伝えていた。

「なるほど、どうして、お前がここに帰って来たか、よく理解できたぜ……」

 全てを聞き終えて、レイグスは一言そう呟いた。
 予想通り、私の行動に納得してもらえたようだ。

「なんて、ひどい話なんだ……そのビクトンという奴が、俺は許せない!」
「レイグス、落ち着いて……」

 レイグスは、ビクトンの行いにかなり怒っていた。
 基本的に、彼はとても真っ直ぐな人物だ。そのため、あの第三王子のような悪辣な人間は許せないのだろう。
 私に起こったことを自分のことのように怒ってくれることは、素直に嬉しい。だが、今はその怒りを収めて欲しかった。あまり、目立ちたくないからだ。

「あ、悪かった……騒いじゃ駄目だったな」
「別にいいよ。レイグスが怒ってくれていること自体は、嬉しいことだし……」
「そうか……」

 私とレイグスは、お互いに顔を少し赤くしていた。
 私達は、ただの幼馴染ではない。それ以上の関係なのだ。
 お互いに、それを明白に言葉にしたことはない。だが、なんとなく察している。そのような曖昧な関係なのだ。
 久し振りに会っても、それは変わっていなかった。この関係性が変わるのは、いつになるのだろうか。

「……そういえば、レイグスは背が伸びたね」
「え? あ、ああ、そうだな……結構伸びたと思う」

 そこで、私は強引に話題を転換した。
 恥ずかしい空気は嫌だったので、彼の成長に関する話に切り替えたのだ。
 最後に会った時より、レイグスの背は伸びていた。成長期であるのだろう。前よりも、少し見上げる形になったのは、少し不思議な感覚だと思っていたのだ。

「でも、背だったら、お前も伸びたんじゃないのか?」
「私は、あまり変わっていないよ。前よりは伸びたかもしれないけど、レイグス程露骨ではないと思う」
「そうか……でも、なんだか大人っぽくなっているような……いや、なんでもない」
「う、うん……」

 レイグスの言葉に、私はまた顔を赤くしてしまう。
 それを見て理解したのか、彼まで顔を赤くしていた。
 なんというか、私達は進歩がない。どうして、こうもすぐに恥ずかしくなるようなことを言ってしまうのだろうか。

「と、とにかく、私は一度家に帰ろうと思っているんだ。お父さんとお母さんに早く会いたいし……」
「そ、そうか……それなら、家まで送っていくぜ」
「うん、それなら、行こうか」

 これ以上、ここで話している必要もないと思ったので、私は家に帰ることにした。
 両親にも、今回の帰省は伝えていない。だが、二人ともきっと温かく迎えてくれるだろう。
 これから、私もこちらで暮らす予定だ。しばらく離れていたが、また家族での暮らしになることを、二人は喜んでくれるだろうか。
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