聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね?

木山楽斗

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10(モブ視点)

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 王都の王城では、日々様々な業務が行われている。
 そんな中で、最も激務であると言われているのが、聖女とその部下である魔術師達の部門だ。
 私は、その一員のカルリア・コルテッサである。聖女の下についている魔術師の中の有象無象の一人である私は、日々の苦しい業務に悲鳴をあげていた。

「カルリア、聞いたか? アルメア様が聖女をやめたらしい」
「そんな……」

 私がその話を聞いたのは、アルメア様が王城を既に去った後だった。
 愚かなる指導者である第三王子ビクトンの元で、私達がやって来られたのは、アルメア様のおかげだ。
 彼女が王子の無理な要求をなんとかまとめて、私達に的確に仕事を回していることで、聖女の体制は維持されていたのである。その彼女が、やめてしまった。それは、とてもまずいことである。

「王子と口論になった結果、そういう結論に達したらしい。色々と抗議していたみたいだが、きっと疲れてしまわれたのだろうな……」
「ええ、一番苦労していたのはあの方だもの。仕方ないことよね……」

 何も言わず立ち去って行った彼女を、私達は責めることができなかった。
 日々の激務に加えて、アルメア様はビクトンとの話し合いまでしていたのだ。そんな毎日を続けていれば、いつか限界が来ることは明白である。
 恐らく、彼女は疲れてしまったのだろう。それで、全てを投げ捨てたくなったのだ。
 そんな彼女に対する感情は、悲しみや心配だけである。ゆっくりと休んで欲しい。心からそう思えるのだ。

「後任の聖女は誰になるのかしら?」
「わからない。だが、聖女の才覚を持っている人は、まだいる。その中から選ばれるのではないだろうか」
「聖女の才覚……でも、それは……」
「ああ、普通の体制なら、何も問題はないだろう。だが、ビクトン様のことを考えると、あまり上手くいくとは思えないな……」

 次の聖女が誰であろうとも、上手くいくとは思えなかった。ビクトンという自分勝手な上司に、耐えられないはずだからだ。
 彼は、下の者のことなど何も考えていない。そんな彼が上に立っている限り、誰が聖女になっても何れ限界が来るはずだ。
 途中までは、アルメア様と同じように上手くいくかもしれない。だが、そうなっても、その聖女は彼女と同じように去ってしまうだろう。
 結局、その繰り返しになることは目に見えている。今のままでは、聖女の体制が破綻するのも時間の問題だろう。

「もしかしたら、俺達も引く時を考えておかなければならないかもしれないな……」
「引く時……」

 私達も、限界が来るかもしれない。
 その時のことは、常に考えておかなければならないだろう。
 自分が抜ければ、残った者が苦しむ。苦楽を共にしてきた者達に、そのような苦しみはできれば味合わせたくはない。
 しかし、それでも仕方ないことだと割り切るべきだ。そうしなければ、本当に壊れてしまうからである。
 そのようなことになる前に、ここから抜け出す選択をすることをしっかりと考えておこう。
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