聖女の代わりがいくらでもいるなら、私がやめても構いませんよね？

２１

　私は、レイグスとともに、宿屋に泊っていた。
　昼間に話した心配事を、彼はまったく悩んでいなかった。確かに、これ以上気にしないようにしようと言っていたため、それは正しいのかもしれない。
　だが、それで考えていたことが私と二人きりになって緊張するということなのはどうなんだろうか。今は、そういうことを気にする空気ではないと思うのだが。

「レイグス、もう少し危機感というか、緊張感というか、そういうものを持ってくれた方が、私はありがたいんだけど……」
「いや、そんなことを考えていても仕方ないだろう。なるようにしかならないんだから……」
「そうかもしれないけど……」

　レイグスの言うことは、理解できない訳ではない。
　こんなことは考えるべきではないのである。いくら考えても、解決できる訳ではないのだから、気にしない方がいいのだ。

「でも、それで考えるのがそういうことなの？」
「それについては、申し訳ないとは思っている。確かに、昼間の話を気にしないにしても、そんなことを考えている場合ではないということは、段々と理解できてきた」
「それなら……まあ、いいのかな？」

　一番の問題は、レイグスが考えていることの内容だった。
　しかし、それは本人も反省しているようだ。それなら、私からあまり言うのはやめておいた方がいいだろう。

「まあ、でも、少しは仕方ないと思ってくれ」
「仕方ない？」
「昼間の話を抜きにしたら、本当に今回は二人きりの旅だろう？　しかも、同じ部屋なんて、緊張するのは当然。お前も、そう思わないか？」
「それは……」

　レイグスの言葉に、私は少しだけ考える。
　確かに、彼の言うことには一理あるかもしれない。
　宿で同じ部屋という状況は、中々すごい状況だ。昼間のことや、これから王都で何をするかを考えなければ、緊張することはおかしいことではない。

「確かに、そうかもしれない。私も言い過ぎていたみたいだね。ごめん」
「いや、別にわかってもらえればそれでいいさ」

　私は、レイグスに謝っていた。
　彼の言うことも一理あるので、頭ごなしに否定するべきではなかっただろう。
　なんというか、私はあまり心に余裕を持っていなかった。もう少し、広い心で物事を考えるべきだろう。

「ふう……」
「……大丈夫か？」
「え？」

　そこで、私は一度深呼吸をした。
　すると、レイグスが少し真剣な顔で心配してきた。
　別に、深呼吸一つで、ここまで心配する必要はないだろう。私は、そんなに変なことをしたのだろうか。