事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗

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6.裏庭のいざこざ

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「……」

 私は、屋敷の陰から裏庭の様子を伺っていた。
 そこには、何人かのメイドらしき人達がいる。その人達は、明らかに一人の人物を囲っているように見える。

「ソルネア、あなたみたいな田舎者は、このバルドリュー伯爵家で働くに相応しくない人なのよ」
「田舎に帰って牛や豚と戯れているのが、あなたにはお似合いなの。そのメイド服も、まったく似合っていないわ。流石は、田舎の芋臭い娘ねぇ?」

 メイド達が囲んでいるのは、件のソルネアであるらしい。
 彼女は、四人のメイドを前にして怯えている。壁際まで追いつめられていて、後がないという感じだ。

「わ、私は……」
「口答えなんかしているんじゃないわよ!」
「きゃあっ!」

 ソルネアが何かを言おうとした瞬間、メイドの一人が彼女の体を強く押した。
 それによって、ソルネアは壁に叩きつけられた。彼女は痛みに、苦悶の表情を浮かべている。

「なんて生意気な女なのかしら? バルドリュー伯爵家の方々は、どうしてこんな女を雇ったのか、まったく理解できないわ」
「まあまあ、慈悲深い方々ですからね。慈善事業の一環ということなのではありませんか?」
「でも、役に立たないメイドがいるということは、私達にとっては不利益でしかありませんよ。もう少しメイド側の事情というものも考えて欲しいものですね」

 そんな彼女を見ながら、周りのメイド達は笑っていた。
 その下卑た笑みは、なんとも醜悪なものである。それを見た私の中では、ふつふつと怒りが沸き上がってきていた。
 それが抑えなければならないものだということはわかっている。だが、私の体は熱を帯びていた。心の底にある激情が、表に現れようとしている。

「あなたがいると、バルドリュー伯爵家のメイドの品位が下がるのよ」
「……品位を下げているのは、一体どちらの方なのかしらね」
「え?」

 一人のメイドの言葉に、私はゆっくりと物陰から出て行った。
 すると、その場にいる全員の視線が私の方を向く。

「あなたは確か、新人ラナリア……?」
「ふん、この女と同じ田舎者の新人メイドじゃない。まったく、本当にバルドリュー伯爵家の採用基準はどうなっているのだか……」
「……どうやらあなた達は、相当碌でもない人達みたいね?」
「なんですって?」
「な、なんて生意気な……」

 私の不遜ともいえる態度に、メイド達は苛立ちをあらわにしていた。
 残念なことではあるが、バルドリュー伯爵家の採用基準は確かに狂っているらしい。このようなメイド達を雇ったのは、人を見る目がなかったとしか言いようがないだろう。
 もっとも、人の本性を見抜くのは難しいことである。故に、それで彼女達を採用した人達を責めようとは思わないのだが。
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