事情があってメイドとして働いていますが、実は公爵家の令嬢です。

木山楽斗

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8.心を鎮めて

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「……さっさと私の手を離しなさい。この愚かな田舎者め!」
「そんな風に罵倒されて、離すと思っているんですか? 物事には、もっと頼み方というものがあるでしょう」
「減らず口ばかり叩いて、状況がわかっているの? 多勢に無勢よ」
「……」

 子爵令嬢であるフェリナーナは、私にたいして笑みを浮かべていた。
 確かに彼女の周りには、後三人の令嬢がいる。数で言えば、彼女達の方が多い。それは紛れもない事実である。
 だが、それを誇示する彼女に私は思わず笑ってしまう。その精神が、とてもくだらないものだと思ったからだ。

「数を誇ることしかできないんですか?」
「なんですって?」
「そうやって徒党を組んで威張り散らす精神が、実に意地汚いものですね。大勢で一人を嬲って……恥を知りなさい」
「偉そうにっ……」

 フェリーナのような者達は、徒党を組んで人を虐げる。その精神性が、私は気に入らなかった。
 一対一であるというなら、私もここまで怒りを覚えることはなかったのだろう。
 しかしここにいる者達は、集団で個人を攻撃している。それは、個人が個人を攻撃するよりもより悪質なことだ。元々許せることではなかったが、彼女達は最低だ。

「私は、あなた達が許せないっ……」
「あがっ……」

 私は、フェリーナの腕を握る力を強めた。
 私の体が、自然とそうしていた。私の中にある鬼が、そうさせていたのだ。

「は、離しなさいっ……この私に、何をっ!」
「あなたはさっき、ソルネアさんに何をしていたのかしらね?」
「や、やめて! う、腕が千切れる!」
「……」

 フェリーナの悲痛な叫びに、私はゆっくりと彼女の腕から手を離す。
 寸前の所で、私はなんとか冷静さを取り戻していた。ここに来たのが、その激情を抑えるためだということを思い出したのだ。
 目の前の令嬢は気に入らないが、それでも今のはやり過ぎである。私は呼吸を落ち着かせて感情を鎮めていく。

「はあ、はあ……この覚えておきなさい! 今のは高くつくわよ!」
「……」
「この私に逆らったらどうなるか、あなたはもうすぐ身を持って理解することになるわよ!」

 私が腕を離すと、フェリーナは少し後退りながらそのようなことを言ってきた。
 そのまま彼女は、素早く踵を返して私の元から離れていく。取り巻きのメイド達も焦った顔で彼女について行き、その場にはソルネアと私だけが取り残された。
 残されたソルネアは、不安そうな目で私を見てくる。そんな彼女に、どのような言葉をかけるべきか、私は思案するのだった。
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