旦那様の不手際は、私が頭を下げていたから許していただけていたことをご存知なかったのですか?

木山楽斗

文字の大きさ
24 / 50

24.愚かなる行い

しおりを挟む
「……ウルガド兄上は、愚かな人間でした。義姉上の献身にも気付かず、一人で思い上がり、あなたを切り捨てた」

 エルガドは、ゆっくりと言葉を発していた。
 そこにある感情は、悲しみであるだろう。兄に対するウルガド様への侮蔑なども、あるかもしれない。
 しかしそれは、裏返しであるように思えた。ヴォンドラ伯爵家を守る者として、エルガドは兄に期待していたのではないだろうか。

「お義母上は、僕のことを疎んでいました。しかしそれは、当然のことです。彼女の感情に対して、思う所はありません。ひどい扱いを受けたことに関しては、不満がないという訳ではありませんが……しかしながら彼女も結局、愚かな選択をしたといえます」
「前ヴォンドラ伯爵夫人は、少々気性が荒かったからな。それを上手く制御できていたのは、前ヴォンドラ伯爵だった。彼が早逝したのは、私も残念でならないよ」
「色々と考えて、僕はヴォンドラ伯爵家から逃げ出すことにしました。それで、父上が生前渡してくれた手紙に従って、エルヴァイン公爵を訪ねたのです」

 エルガドは、懐から一通の手紙を取り出した。
 それが件のヴォンドラ伯爵の手紙ということだろうか。
 それを見ながら、エルヴァイン公爵は目を細めている。そこに何か、重大なことでも書いてあったのだろうか。

「前ヴォンドラ伯爵は、自分が亡くなった後にエルガドがどうなるか気掛かりだったのだろう。その手紙には私に対する懇願が記されていた。友人の最期の頼みを無下にすることはできない。例えそれが、ヴォンドラ伯爵家を追い詰めることであっても」
「追い詰める?」
「父上は、僕に関することを公表するように手紙に記していたのです」
「なっ……」

 前ヴォンドラ伯爵の手紙は、凡そ正気ではないように思えた。
 いくら息子が大事だからといって、家を蔑ろにするなんて、驚くべきことである。
 不憫な暮らしをしていた息子への手向け、ということなのだろうか。それをエルガドは、あまり望んでいる訳でもないように思えるのだが。

「……僕の存在が見つかってから、父上と義母上の仲は険悪になりました。故に父上は、母上との子供である兄上がヴォンドラ伯爵を継ぐことを快く思っていなかったのかもしれません」
「まあ、この手紙にそれが記されていなかったとしても、私はエルガドが私の元に来た時点で事実を公表することに決めていたのだがね。ウルガド達のエルガドに対する扱いには憤りを覚えている。存在を隠していたことはともかくとして、それ以外の面でね」

 エルヴァイン公爵の視線は、エルガドの体に向いていた。
 その視線により、私は理解する。彼がどのような扱いを受けてきたのかを。
 まさかヴォンドラ伯爵は、そこまで予測して手紙を残していたのだろうか。それはなんというか、あまりにも悲しい事実である。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

「お前を愛することはない」と言われたお飾りの妻ですが、何か?

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することはない!」「そんな事を言うために女性の寝室に押し入ったのですか? もう寝るつもりで化粧を落として髪をほどいて寝着に着替えてるのに! 最っ低!」 仕事大好き女が「お飾りの妻最高!」と恋愛感情無しで結婚したらこうなるよね、というお話。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

結婚5年目のお飾り妻は、空のかなたに消えることにした

三崎こはく
恋愛
ラフィーナはカールトン家のお飾り妻だ。 書類上の夫であるジャンからは大量の仕事を押しつけられ、ジャンの愛人であるリリアからは見下され、つらい毎日を送っていた。 ある日、ラフィーナは森の中で傷ついたドラゴンの子どもを拾った。 屋敷に連れ帰って介抱すると、驚いたことにドラゴンは人の言葉をしゃべった。『俺の名前はギドだ!』 ギドとの出会いにより、ラフィーナの生活は少しずつ変わっていく―― ※他サイトにも掲載 ※女性向けHOT1位感謝!7/25完結しました!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】私に可愛げが無くなったから、離縁して使用人として雇いたい? 王妃修行で自立した私は離縁だけさせてもらいます。

西東友一
恋愛
私も始めは世間知らずの無垢な少女でした。 それをレオナード王子は可愛いと言って大層可愛がってくださいました。 大した家柄でもない貴族の私を娶っていただいた時には天にも昇る想いでした。 だから、貴方様をお慕いしていた私は王妃としてこの国をよくしようと礼儀作法から始まり、国政に関わることまで勉強し、全てを把握するよう努めてまいりました。それも、貴方様と私の未来のため。 ・・・なのに。 貴方様は、愛人と床を一緒にするようになりました。 貴方様に理由を聞いたら、「可愛げが無くなったのが悪い」ですって? 愛がない結婚生活などいりませんので、離縁させていただきます。 そう、申し上げたら貴方様は―――

9番と呼ばれていた妻は執着してくる夫に別れを告げる

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から言いたいことを言えずに、両親の望み通りにしてきた。 結婚だってそうだった。 良い娘、良い姉、良い公爵令嬢でいようと思っていた。 夫の9番目の妻だと知るまでは―― 「他の妻たちの嫉妬が酷くてね。リリララのことは9番と呼んでいるんだ」 嫉妬する側妃の嫌がらせにうんざりしていただけに、ターズ様が側近にこう言っているのを聞いた時、私は良い妻であることをやめることにした。 ※最後はさくっと終わっております。 ※独特の異世界の世界観であり、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう

音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。 幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。 事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。 しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。 己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。 修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。

処理中です...