王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗

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5.舞踏会には戻らず

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「ところでラルリア嬢、舞踏会の方は良いのですか?」
「え? ああ、そういえば忘れていました」

 アドルヴ殿下の指摘に、私は思わず変な声を出してしまった。
 そういえば、私は舞踏会を抜け出してきた所だ。すっかりと忘れていた。一応戻った方が良いのだろうか。それは少々、微妙な所だ。

「まあでも、大丈夫だとは思います。そちらに関しては、リルルナが盛り上げているでしょうから」
「リルルナ嬢が、ですか?」
「ええ、彼女は人気者ですから」

 舞踏会で私は、あまりダンスに誘われていなかった。
 社交界において、私は人気がないのである。先程の二人のように、落ちこぼれと噂されて罵倒されているくらいだ。
 事実として、私は別に秀でた人間という訳でもない。リルルナに比べれば、ちっぽけな存在だ。

「リルルナは、容姿も端麗で、文武両道です。それから魔法の才能もある。彼女程に完璧な人間なんてそういないでしょう」
「確かに、リルルナ嬢は優れた令嬢ではありますね。しかしながら、僕はラルリア嬢が負けているとは思っていませんよ」
「いえ、私なんて大したものではありません。全てが普通です……ああいえ、少し見栄を張りましたね。勉学などに関してはともかく、背丈は低いですね」

 私はリルルナのように優れた人間ではない。
 勉学は並より少し上で、運動能力は並より少し下、魔法の才能も並以上くらいだ。
 背が高くスタイルが良い妹と比べて、ちんちくりんであるし、並んでいてどちらがダンスに誘われるかなんて明白である。

「まあ、何を評価するかは人次第ですよ。僕はラルリア嬢の人柄を好ましく思っています」
「そう思っていただけているなら、嬉しい限りではありますが……」
「そうだ。せっかくなら、一緒にダンスを踊りましょうか。僕は、丁度来たばかりでしてね。輪にどうやって入ろうかと悩んでいた所なのです」

 アドルヴ殿下は、笑顔で私に手を差し伸べてきた。
 しかし私は、すぐにそれを取ろうとは思えなかった。彼が気遣ってくれていることが、よくわかったからだ。

「いえ、アドルヴ殿下、私はもう会場に戻るつもりはありません。このまま宿に戻ろうと思っています。お誘いいただき、ありがとうございます」
「おや……」

 私はお礼を言って、アドルヴ殿下の横を通り過ぎた。
 彼の気持ちは嬉しく思うが、今回は遠慮しておくことにした。なんだかすごく疲れてしまったため、会場には戻る気にはなれなかったのだ。
 それに、アドルヴ殿下と踊ると目立つことになる。当然のことながら、彼は人気者だ。踊りたい人は大勢いるだろうし、ここはその人達に譲るとしよう。
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