王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗

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13.犬猿の仲(モブside)

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「いつも思っていることですが……あなたのような人が王太子というのは、レジエート王国にとって不幸なことでしょうね?」
「君にそんなことを言われる筋合いなんてものは、ないと思っているけれどね。これでも僕は、この国のために身を粉にして働いている。君のような心無い者に何を言われても、だ」
「そういう恩着せがましい言い方はよくありませんね……品性がないのでしょうか」

 アドルヴとリルルナは、お互いに好き放題言い合っていた。
 他者がいる場であれば自重する二人であるが、こうして誰もいない状態で顔を合わせると、いつもそうなった。
 別に二人は、嫌い合っているという訳でもないのだが、どうにも馬が合わない所がある。いや、ある意味では合っているともいえるのだが。

「……」
「……」
「……みっともない言い合いはやめましょうか」
「ああ、そうしよう」

 言い合う時間が無駄な時間であるということは、二人も理解していた。
 当初はそうではなかったが、長年言い合っている内にいくらか理性的になったのだ。
 それならそもそも言い合う必要なんてないのだが、二人の性格上衝突は避けられないものであった。なんとも不毛な時間である。

「いやしかしだ。元はと言えば、君がこんな夜分遅くに僕の部屋を訪ねて来るのが問題なのではないだろうか」
「気色の悪いことを言わないでください。誰が好き好んであなたなんかの部屋を訪ねますか。昼間でも嫌なくらいです」
「つまり、そうしたということには何かしらの意味があるということだな。何を企んでいる」
「あなたと違って、私は企みなんてしませんよ」

 少しでも火種があれば、二人の言い争いは再燃する。
 ただ、これは話を進めながらの言い合いだ。二人の中では、先程までの会話とは違うものなのである。

「そもそもの問題というのは、あなたが伯父様のことを誑かしてお姉様との婚約を決めさせたことにあります」
「……それは王族として、真っ当な判断をしたまでに過ぎない。父上もお認めになってくれたことだ」
「伯父様を相手に洗脳を働くなんて大罪ですよ? 国が国なら極刑ものです」
「人聞きの悪いことを言わないでもらいたい。いいか。僕はただ、ラルリアとの婚約こそが王族――引いてはこの国において最も有益なものだと……」
「語るに落ちましたね。そうではないから、今このような状態になっているのではないですか!」

 言葉を詰まらせたアドルヴに対して、リルルナの怒号が飛んだ。
 夜遅くであるため、声は小さいがそこから確かな怒りが読み取れる。
 それはアドルヴにとっても、よく理解できることだった。目の前にいる相手との婚約、それを望んでいないのはお互い様だったのだ。
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