13 / 24
13.犬猿の仲(モブside)
しおりを挟む
「いつも思っていることですが……あなたのような人が王太子というのは、レジエート王国にとって不幸なことでしょうね?」
「君にそんなことを言われる筋合いなんてものは、ないと思っているけれどね。これでも僕は、この国のために身を粉にして働いている。君のような心無い者に何を言われても、だ」
「そういう恩着せがましい言い方はよくありませんね……品性がないのでしょうか」
アドルヴとリルルナは、お互いに好き放題言い合っていた。
他者がいる場であれば自重する二人であるが、こうして誰もいない状態で顔を合わせると、いつもそうなった。
別に二人は、嫌い合っているという訳でもないのだが、どうにも馬が合わない所がある。いや、ある意味では合っているともいえるのだが。
「……」
「……」
「……みっともない言い合いはやめましょうか」
「ああ、そうしよう」
言い合う時間が無駄な時間であるということは、二人も理解していた。
当初はそうではなかったが、長年言い合っている内にいくらか理性的になったのだ。
それならそもそも言い合う必要なんてないのだが、二人の性格上衝突は避けられないものであった。なんとも不毛な時間である。
「いやしかしだ。元はと言えば、君がこんな夜分遅くに僕の部屋を訪ねて来るのが問題なのではないだろうか」
「気色の悪いことを言わないでください。誰が好き好んであなたなんかの部屋を訪ねますか。昼間でも嫌なくらいです」
「つまり、そうしたということには何かしらの意味があるということだな。何を企んでいる」
「あなたと違って、私は企みなんてしませんよ」
少しでも火種があれば、二人の言い争いは再燃する。
ただ、これは話を進めながらの言い合いだ。二人の中では、先程までの会話とは違うものなのである。
「そもそもの問題というのは、あなたが伯父様のことを誑かしてお姉様との婚約を決めさせたことにあります」
「……それは王族として、真っ当な判断をしたまでに過ぎない。父上もお認めになってくれたことだ」
「伯父様を相手に洗脳を働くなんて大罪ですよ? 国が国なら極刑ものです」
「人聞きの悪いことを言わないでもらいたい。いいか。僕はただ、ラルリアとの婚約こそが王族――引いてはこの国において最も有益なものだと……」
「語るに落ちましたね。そうではないから、今このような状態になっているのではないですか!」
言葉を詰まらせたアドルヴに対して、リルルナの怒号が飛んだ。
夜遅くであるため、声は小さいがそこから確かな怒りが読み取れる。
それはアドルヴにとっても、よく理解できることだった。目の前にいる相手との婚約、それを望んでいないのはお互い様だったのだ。
「君にそんなことを言われる筋合いなんてものは、ないと思っているけれどね。これでも僕は、この国のために身を粉にして働いている。君のような心無い者に何を言われても、だ」
「そういう恩着せがましい言い方はよくありませんね……品性がないのでしょうか」
アドルヴとリルルナは、お互いに好き放題言い合っていた。
他者がいる場であれば自重する二人であるが、こうして誰もいない状態で顔を合わせると、いつもそうなった。
別に二人は、嫌い合っているという訳でもないのだが、どうにも馬が合わない所がある。いや、ある意味では合っているともいえるのだが。
「……」
「……」
「……みっともない言い合いはやめましょうか」
「ああ、そうしよう」
言い合う時間が無駄な時間であるということは、二人も理解していた。
当初はそうではなかったが、長年言い合っている内にいくらか理性的になったのだ。
それならそもそも言い合う必要なんてないのだが、二人の性格上衝突は避けられないものであった。なんとも不毛な時間である。
「いやしかしだ。元はと言えば、君がこんな夜分遅くに僕の部屋を訪ねて来るのが問題なのではないだろうか」
「気色の悪いことを言わないでください。誰が好き好んであなたなんかの部屋を訪ねますか。昼間でも嫌なくらいです」
「つまり、そうしたということには何かしらの意味があるということだな。何を企んでいる」
「あなたと違って、私は企みなんてしませんよ」
少しでも火種があれば、二人の言い争いは再燃する。
ただ、これは話を進めながらの言い合いだ。二人の中では、先程までの会話とは違うものなのである。
「そもそもの問題というのは、あなたが伯父様のことを誑かしてお姉様との婚約を決めさせたことにあります」
「……それは王族として、真っ当な判断をしたまでに過ぎない。父上もお認めになってくれたことだ」
「伯父様を相手に洗脳を働くなんて大罪ですよ? 国が国なら極刑ものです」
「人聞きの悪いことを言わないでもらいたい。いいか。僕はただ、ラルリアとの婚約こそが王族――引いてはこの国において最も有益なものだと……」
「語るに落ちましたね。そうではないから、今このような状態になっているのではないですか!」
言葉を詰まらせたアドルヴに対して、リルルナの怒号が飛んだ。
夜遅くであるため、声は小さいがそこから確かな怒りが読み取れる。
それはアドルヴにとっても、よく理解できることだった。目の前にいる相手との婚約、それを望んでいないのはお互い様だったのだ。
404
あなたにおすすめの小説
【完】婚約してから十年、私に興味が無さそうなので婚約の解消を申し出たら殿下に泣かれてしまいました
さこの
恋愛
婚約者の侯爵令嬢セリーナが好きすぎて話しかけることができなくさらに近くに寄れないジェフェリー。
そんなジェフェリーに嫌われていると思って婚約をなかった事にして、自由にしてあげたいセリーナ。
それをまた勘違いして何故か自分が選ばれると思っている平民ジュリアナ。
あくまで架空のゆる設定です。
ホットランキング入りしました。ありがとうございます!!
2021/08/29
*全三十話です。執筆済みです
【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様
すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。
彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。
そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。
ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。
彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。
しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。
それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。
私はお姉さまの代わりでしょうか。
貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。
そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。
8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された
この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。
https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE
MAGI様、ありがとうございます!
イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。
【完結】「お姉様は出かけています。」そう言っていたら、お姉様の婚約者と結婚する事になりました。
まりぃべる
恋愛
「お姉様は…出かけています。」
お姉様の婚約者は、お姉様に会いに屋敷へ来て下さるのですけれど、お姉様は不在なのです。
ある時、お姉様が帰ってきたと思ったら…!?
☆★
全8話です。もう完成していますので、随時更新していきます。
読んでいただけると嬉しいです。
妹に幸せになって欲しくて結婚相手を譲りました。
しあ
恋愛
「貴女は、真心からこの男子を夫とすることを願いますか」
神父様の問いに、新婦はハッキリと答える。
「いいえ、願いません!私は彼と妹が結婚することを望みます!」
妹と婚約者が恋仲だと気付いたので、妹大好きな姉は婚約者を結婚式で譲ることに!
100%善意の行動だが、妹と婚約者の反応はーーー。
美形揃いの王族の中で珍しく不細工なわたしを、王子がその顔で本当に王族なのかと皮肉ってきたと思っていましたが、実は違ったようです。
ふまさ
恋愛
「──お前はその顔で、本当に王族なのか?」
そう問いかけてきたのは、この国の第一王子──サイラスだった。
真剣な顔で問いかけられたセシリーは、固まった。からかいや嫌味などではない、心からの疑問。いくら慣れたこととはいえ、流石のセシリーも、カチンときた。
「…………ぷっ」
姉のカミラが口元を押さえながら、吹き出す。それにつられて、広間にいる者たちは一斉に笑い出した。
当然、サイラスがセシリーを皮肉っていると思ったからだ。
だが、真実は違っていて──。
はずれのわたしで、ごめんなさい。
ふまさ
恋愛
姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。
婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。
こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。
そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。
可愛い姉より、地味なわたしを選んでくれた王子様。と思っていたら、単に姉と間違えただけのようです。
ふまさ
恋愛
小さくて、可愛くて、庇護欲をそそられる姉。対し、身長も高くて、地味顔の妹のリネット。
ある日。愛らしい顔立ちで有名な第二王子に婚約を申し込まれ、舞い上がるリネットだったが──。
「あれ? きみ、誰?」
第二王子であるヒューゴーは、リネットを見ながら不思議そうに首を傾げるのだった。
玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる