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9.進むべき道
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ウェルド様と別れてから、フラウバッセンさんは王城の様々な場所を見せてくれた。
その中でもやはりためになったのは、これから私が働く魔術師団関係の場所である。私がここでどのように働いていくのかの参考になった。
「ラナトゥーリ嬢は、希望などありますか?」
「希望、ですか……」
一通りの案内が終わった後、フラウバッセンさんはそのように言ってきた。
ひとえに魔術師団といっても、その業務は様々である。国を守る結界の管理、魔法関連の施設の運営、魔法そのものの研究。その中で私が何をしたいかというのは、すぐに決められるようなことではなかった。
「フラウバッセンさん、いくつか質問してもいいですか?」
「ええ、もちろんです。何が聞きたいのでしょうか?」
「私個人としては、魔法の研究には興味があります。その真理を解き明かしたり、新たな魔法を開発することに憧れがあるんです」
「おや、そうなのですか」
今まで見てきた業務の中で私が最も面白そうだと思ったのは、魔法の研究であった。
魔法の性質を解き明かしたり、新たなる魔法を開発する。それは魔法を学んでいく中で、きっと誰もが覚える感情であるだろう。
「ただそういう道に進む前に、ある程度実務を経験する必要があるのではないかと思ったのです。魔法の研究といっても、魔術師団が行っているのはこの国を発展させるための魔法である訳ですし、色々と経験してからの方が何が必要なのかわかる気がして……」
「……まあ、確かにそういう面もあるかもしれませんね。ただ、ラナトゥーリ嬢の才覚であるなら特に問題はないように思いますがね」
「そうなのですか?」
私の懸念に対して、フラウバッセンさんは笑顔を浮かべていた。
そこで彼は一度立ち上がり、執務用らしき机からいくつかの書類を取り出してこちらに戻って来た。
その書類の内容に、私は驚く。それは見覚えがあり過ぎるものだったからだ。
「まあ、まだ記憶にも新しいとは思いますが、こちらはあなたの卒業論文です」
「え、ええ……」
「反射魔法及びそれを応用した反射装備の開発、これは非常に素晴らしい内容でした」
「それは……ありがとうございます」
学園在学中に、私はとある魔法の研究をしていた。
それは、魔法を跳ね返す魔法及びその魔法を特定の武具に付与する研究だ。
しかしながら、その魔法に関しては結局未完成のまま終わってしまった。正直な所その卒業論文も、それ程褒められるような内容ではないのである。
「その魔法に関しては、結局開発に失敗してしまいました」
「ええ、そのようですね。いくつかの課題も残っているように見受けられます。ただ、これをほとんど一人で開発しようとしていたという事実に、私は着目しているのです」
「そうなんですか?」
「発想力というものは、魔法の開発においてとても重要なものです。その発想力があなたには備わっていると私は思いました。ですからもしもよければ、あなたにはこの魔法の研究を続けてもらいたい」
「……え?」
フラウバッセンさんの言葉に、私は驚いていた。
話の流れから、魔法の研究を勧められることはわかっていた。しかしながら、それが学園で考えていた魔法そのものだとは思っていなかったのである。
「この魔法は、非常に有益なものになります。対魔法戦闘において、とても有利に働く魔法ですからね……」
「それは……そうだと思いますが」
「特に騎士団は、是非ともこの魔法が欲しいと思っているでしょう。対魔法の手段は重要です。もしもこの魔法の開発に成功すれば、彼らの要になるかもしれません」
フラウバッセンさんは、楽しそうに笑っていた。
よく考えてみれば、魔法学の権威と呼ばれる彼も数々の魔法を開発したことで知られている人物だ。
そのような人物がこれ程までに勧めてくれているのだから、私の進むべき道はそちらということなのだろう。元々自分でもやってみたいことであったし、ここはその勧めに乗った方がいいかもしれない。
「……わかりました。それなら、私に反射魔法の研究をさせていただけますか?」
「ええ、もちろんです」
私の言葉に、フラウバッセンさんは力強く頷いてくれた。
こうして私は、かつて学園で取り組んでいた研究と再び向き合うことになったのだった。
その中でもやはりためになったのは、これから私が働く魔術師団関係の場所である。私がここでどのように働いていくのかの参考になった。
「ラナトゥーリ嬢は、希望などありますか?」
「希望、ですか……」
一通りの案内が終わった後、フラウバッセンさんはそのように言ってきた。
ひとえに魔術師団といっても、その業務は様々である。国を守る結界の管理、魔法関連の施設の運営、魔法そのものの研究。その中で私が何をしたいかというのは、すぐに決められるようなことではなかった。
「フラウバッセンさん、いくつか質問してもいいですか?」
「ええ、もちろんです。何が聞きたいのでしょうか?」
「私個人としては、魔法の研究には興味があります。その真理を解き明かしたり、新たな魔法を開発することに憧れがあるんです」
「おや、そうなのですか」
今まで見てきた業務の中で私が最も面白そうだと思ったのは、魔法の研究であった。
魔法の性質を解き明かしたり、新たなる魔法を開発する。それは魔法を学んでいく中で、きっと誰もが覚える感情であるだろう。
「ただそういう道に進む前に、ある程度実務を経験する必要があるのではないかと思ったのです。魔法の研究といっても、魔術師団が行っているのはこの国を発展させるための魔法である訳ですし、色々と経験してからの方が何が必要なのかわかる気がして……」
「……まあ、確かにそういう面もあるかもしれませんね。ただ、ラナトゥーリ嬢の才覚であるなら特に問題はないように思いますがね」
「そうなのですか?」
私の懸念に対して、フラウバッセンさんは笑顔を浮かべていた。
そこで彼は一度立ち上がり、執務用らしき机からいくつかの書類を取り出してこちらに戻って来た。
その書類の内容に、私は驚く。それは見覚えがあり過ぎるものだったからだ。
「まあ、まだ記憶にも新しいとは思いますが、こちらはあなたの卒業論文です」
「え、ええ……」
「反射魔法及びそれを応用した反射装備の開発、これは非常に素晴らしい内容でした」
「それは……ありがとうございます」
学園在学中に、私はとある魔法の研究をしていた。
それは、魔法を跳ね返す魔法及びその魔法を特定の武具に付与する研究だ。
しかしながら、その魔法に関しては結局未完成のまま終わってしまった。正直な所その卒業論文も、それ程褒められるような内容ではないのである。
「その魔法に関しては、結局開発に失敗してしまいました」
「ええ、そのようですね。いくつかの課題も残っているように見受けられます。ただ、これをほとんど一人で開発しようとしていたという事実に、私は着目しているのです」
「そうなんですか?」
「発想力というものは、魔法の開発においてとても重要なものです。その発想力があなたには備わっていると私は思いました。ですからもしもよければ、あなたにはこの魔法の研究を続けてもらいたい」
「……え?」
フラウバッセンさんの言葉に、私は驚いていた。
話の流れから、魔法の研究を勧められることはわかっていた。しかしながら、それが学園で考えていた魔法そのものだとは思っていなかったのである。
「この魔法は、非常に有益なものになります。対魔法戦闘において、とても有利に働く魔法ですからね……」
「それは……そうだと思いますが」
「特に騎士団は、是非ともこの魔法が欲しいと思っているでしょう。対魔法の手段は重要です。もしもこの魔法の開発に成功すれば、彼らの要になるかもしれません」
フラウバッセンさんは、楽しそうに笑っていた。
よく考えてみれば、魔法学の権威と呼ばれる彼も数々の魔法を開発したことで知られている人物だ。
そのような人物がこれ程までに勧めてくれているのだから、私の進むべき道はそちらということなのだろう。元々自分でもやってみたいことであったし、ここはその勧めに乗った方がいいかもしれない。
「……わかりました。それなら、私に反射魔法の研究をさせていただけますか?」
「ええ、もちろんです」
私の言葉に、フラウバッセンさんは力強く頷いてくれた。
こうして私は、かつて学園で取り組んでいた研究と再び向き合うことになったのだった。
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