10 / 30
10.それぞれの意見
しおりを挟む
「……本日付けでここに配属されることになりました。ラナトゥーリ・ウェルリグルです。よろしくお願いします」
私がゆっくりと頭を下げると、周囲から拍手が聞こえてきた。
予定通り、私は魔法の研究をすることになった。魔術師団は様々な分野の魔法を研究しており、それらはそれぞれの分野によってグループが分かれている。
私が配属されたのは、戦闘に関する魔法を研究しているグループだ。反射魔法はやはりその分野の魔法として扱われるらしい。
「ラナトゥーリ嬢の噂は、皆さんよく聞いていることでしょう。彼女は非常に優秀な魔術師です。学生時代に既に一定の成果を出していることからそれは明白です」
「反射魔法、でしたよね?」
「そんな魔法が開発できるのでしょうか?」
ここの責任者であるセリードさんの説明に、周囲の人達は口々に話し始めた。
私がしていた研究は、ここで注目されているらしい。議論が段々と白熱していっているし、それは間違いなさそうだ。
ただなんというか、周囲の人達の意見が明るくないのが少し心配である。反射魔法なんてできる訳がないと思われているのだろうか。
「まあ、皆さんもちろん色々と考えはあるのでしょうが、この反射魔法の開発は我らが魔術師団団長であるフラウバッセンさんからの直接の命令です。それを果たすのが我々の仕事ですからね」
「団長は騎士団に肩入れしているから、そんな命令を出したのではありませんか?」
「こらこら、そういうことはあまり言うべきことではありませんよ」
どうやら意見が明るくないのは、反射魔法がどちらかというと騎士団が必要としている魔法だからであるようだ。
団長同士にそういう風潮はないが、やはり団員にはまだ対立構造のようなものが残っているのかもしれない。周囲の人達の様子から、それが読み取れた。
学生時代は、そんなことはまったく気にしていなかったが、この魔法の研究は魔術師としてはそれ程いいものではないのかもしれない。もしかしてだからこそ、研究されていなかったのだろうか。
「それに反射魔法というものは、何も騎士団のための魔法という訳ではありません。我々魔術師も魔法を反射できればとても便利でしょう?」
「しかし我々には魔法を防ぐ術なんていくらでもあるではありませんか?」
「魔法を防ぐのと反射するのでは大きく違います。自分の魔力を消費せずに相手を攻撃できる。それが実現できれば、素晴らしいことではありませんか」
「それは、そうかもしれませんが……」
それによく考えてみれば、新人が研究していた魔法を研究させられるというのは、先輩方にとってはあまりいいものではないのかもしれない。
なんというか、段々と怖くなってきた。私は本当にここに馴染めるのだろうか。少々不安である。
「まあ、いいじゃないですか、ドナウさん。もう騎士団の対立とか時代じゃありませんよ」
「ナルルグ、それはお前が一昨年入ったばかりだから……」
「いやだから、それが古いんですよ。お互いの団長が仲良くやっているのに俺達が波風立てても仕方ないとは思いませんか? これから入って来る新人にとっては意味がわからないことですし」
「む……」
そんな場の空気は、ナルルグさんと呼ばれた人によって一変した。
よく見てみると、先程から否定的な意見を出していたのは年配の方ばかりである。若い人からは、それ程そういう意見は出ていない。
それはつまり、フラウバッセンさんが団長になる前から魔術師団にいたかどうかの違いなのだろう。対立が激しかった頃からいる人達は、きっと騎士団に対する反発が大きいということなのだろう。
「まあ、ナルルグ君の言う通りですよ。本来であれば、騎士団と魔術師団は協力し合うべき組織なのですからね」
最後にセリードさんがそう言って、その場は丸く収まった。
もしかしたらフラウバッセンさんは、騎士団と魔術師団の協力体制を作りたいから今回の魔法を研究するように命令したのではないか。私はそんなことを思うのだった。
私がゆっくりと頭を下げると、周囲から拍手が聞こえてきた。
予定通り、私は魔法の研究をすることになった。魔術師団は様々な分野の魔法を研究しており、それらはそれぞれの分野によってグループが分かれている。
私が配属されたのは、戦闘に関する魔法を研究しているグループだ。反射魔法はやはりその分野の魔法として扱われるらしい。
「ラナトゥーリ嬢の噂は、皆さんよく聞いていることでしょう。彼女は非常に優秀な魔術師です。学生時代に既に一定の成果を出していることからそれは明白です」
「反射魔法、でしたよね?」
「そんな魔法が開発できるのでしょうか?」
ここの責任者であるセリードさんの説明に、周囲の人達は口々に話し始めた。
私がしていた研究は、ここで注目されているらしい。議論が段々と白熱していっているし、それは間違いなさそうだ。
ただなんというか、周囲の人達の意見が明るくないのが少し心配である。反射魔法なんてできる訳がないと思われているのだろうか。
「まあ、皆さんもちろん色々と考えはあるのでしょうが、この反射魔法の開発は我らが魔術師団団長であるフラウバッセンさんからの直接の命令です。それを果たすのが我々の仕事ですからね」
「団長は騎士団に肩入れしているから、そんな命令を出したのではありませんか?」
「こらこら、そういうことはあまり言うべきことではありませんよ」
どうやら意見が明るくないのは、反射魔法がどちらかというと騎士団が必要としている魔法だからであるようだ。
団長同士にそういう風潮はないが、やはり団員にはまだ対立構造のようなものが残っているのかもしれない。周囲の人達の様子から、それが読み取れた。
学生時代は、そんなことはまったく気にしていなかったが、この魔法の研究は魔術師としてはそれ程いいものではないのかもしれない。もしかしてだからこそ、研究されていなかったのだろうか。
「それに反射魔法というものは、何も騎士団のための魔法という訳ではありません。我々魔術師も魔法を反射できればとても便利でしょう?」
「しかし我々には魔法を防ぐ術なんていくらでもあるではありませんか?」
「魔法を防ぐのと反射するのでは大きく違います。自分の魔力を消費せずに相手を攻撃できる。それが実現できれば、素晴らしいことではありませんか」
「それは、そうかもしれませんが……」
それによく考えてみれば、新人が研究していた魔法を研究させられるというのは、先輩方にとってはあまりいいものではないのかもしれない。
なんというか、段々と怖くなってきた。私は本当にここに馴染めるのだろうか。少々不安である。
「まあ、いいじゃないですか、ドナウさん。もう騎士団の対立とか時代じゃありませんよ」
「ナルルグ、それはお前が一昨年入ったばかりだから……」
「いやだから、それが古いんですよ。お互いの団長が仲良くやっているのに俺達が波風立てても仕方ないとは思いませんか? これから入って来る新人にとっては意味がわからないことですし」
「む……」
そんな場の空気は、ナルルグさんと呼ばれた人によって一変した。
よく見てみると、先程から否定的な意見を出していたのは年配の方ばかりである。若い人からは、それ程そういう意見は出ていない。
それはつまり、フラウバッセンさんが団長になる前から魔術師団にいたかどうかの違いなのだろう。対立が激しかった頃からいる人達は、きっと騎士団に対する反発が大きいということなのだろう。
「まあ、ナルルグ君の言う通りですよ。本来であれば、騎士団と魔術師団は協力し合うべき組織なのですからね」
最後にセリードさんがそう言って、その場は丸く収まった。
もしかしたらフラウバッセンさんは、騎士団と魔術師団の協力体制を作りたいから今回の魔法を研究するように命令したのではないか。私はそんなことを思うのだった。
16
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。
学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。
「好都合だわ。これでお役御免だわ」
――…はずもなかった。
婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。
大切なのは兄と伯爵家だった。
何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?
無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。
「いいんですか?その態度」
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~
詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?
小説家になろう様でも投稿させていただいております
8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位
8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位
8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位
に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる