無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗

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11.かつての研究成果

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「さて、ラナトゥーリ嬢。まずはあなたの見解を聞かせてもらえますか?」
「あ、はい」

 ナルルグさんの呼びかけに、私はゆっくりと頷いた。
 協議の結果、反射魔法の研究は比較的若いメンバーによって行われることになった。年配の魔術師達は騎士団への反感から話を乱しかねない。セリードさんはそう判断したようだ。
 ただドナウさんだけはメンバーに入っていた。ベテランを一人は入れておきたいというのも、セリードさんの考えであるようだ。

「まあまずは前提から聞くとしましょうか。反射魔法というのは、その名の通り魔法を反射する魔法ということで間違っていませんか?」
「はい、その通りです。自身や他者、武具などを対象にした魔法で、魔法から身体を守ること及び魔法を跳ね返して相手を攻撃することを目的とした魔法です」
「対魔法用の魔法ということですね……身体を保護する魔法の強化版といった所でしょうか?」
「ええ、そうですね。原理としては同じで、そこに反射する効果を追加するという想定をしています」
「なるほど」

 ナルルグさんの質問に、私は一つ一つ答えていく。
 学生時代の研究の知識は、まだしっかりと覚えている。そのため、この辺りの質問に特に怯むことはない。

「ラナトゥーリ嬢は学生時代に既にひな型を完成させているようですね……まずは、それを見せてもらってもいいでしょうか?」
「はい、もちろんです。どなたか、私に向かって魔法で攻撃していただけますか? できるだけ弱い魔法でお願いします」
「それなら、私がやりましょう」

 私の呼びかけに答えてくれたのは、ドナウさんであった。
 彼は、手の平に小規模の炎を発生させた。とても弱い火炎魔法といった所だろうか。

「ドナウさん、できれば火球にして飛ばしてもらえますか? それを跳ね返しますから、撃ったらすぐに逃げてください」
「わかりました。それなら壁を背にした方がいいでしょうな?」
「あ、はい。その通りです」

 私達は現在、魔法の実験場にいる。ここに限った話ではないが、王城は基本的に頑丈な素材で作られている。そのため、多少の魔法ではびくともしないだろう。だから、私は遠慮なく魔法を壁に跳ね返せばいいのだ。

「それでは、行きますよ?」
「はい……」

 私は手を広げて、その間に魔力を発生させる。そして魔力の膜を作り出す。これが今の私にできる反射魔法だ。

「はっ!」
「……」

 次の瞬間、ドナウさんの手から火球が飛んできた。意図を理解してもらえているからか、それは真っ直ぐに魔力の膜に向かってくる。
 程なくして、火球は魔力の膜に当たった。すると膜は少しだけ凹み、素早く元に戻っていく。
 その力によって、火球は来た方向へと跳ね返っていった。このように魔力を受け止めて、その力を利用して跳ね返すというのが、学生時代に私が考案した反射魔法のひな型だ。

「なるほど……これは、中々に見事な魔法だな?」
「これを学生時代に作ったなんてすごいですね……俺なんて、今でも無理だと思います」
「それはお前の精進が足らんというだけだ」

 魔法が跳ね返って当たった壁を見ながら、ドナウさんとナルルグさんはそのような会話を交わしていた。
 年齢は離れているが、この二人はかなり親密であるような気がする。良き先輩と後輩ということなのだろうか。

「これが反射魔法です。見ての通り、今はあのように特殊な膜を作り出すことによって魔法を跳ね返します。ただ、これには色々と欠点があって……」
「確かに、我々が目指すべき反射魔法とは少々異なりますな。ただ、あれはあれで一つの魔法といえるでしょう?」
「はい。一応、便宜的にあれは展開型反射魔法と名付けました。これを発展させて付与するものは付与型と呼びようにしています」

 展開型反射魔法は、反射魔法を開発する中で生まれた副産物のようなものだった。
 本来であれば、物体に特殊な魔法を付与して反射するようにしたかったのだが、それが難しかったため手元でできる魔法を考案したのだ。
 私にできたのは、そこまでであった。それを発展させる前に卒業の時期が差し迫り、結局構想していた反射魔法には辿り着けなかったのである。

「ただ正直な所、展開型も実戦で使える代物ではないと思います。魔法の威力が上がるとそもそも突き破られてしまいますから。魔力の膜をより強固にすればそれも防げますが……」
「コストパフォーマンスに見合っていないと?」
「ええ、それをするくらいなら防御するか回避するかして反撃した方がいいと思います」

 そもそも展開型の魔法も発展途上のものであった。色々と試してみた結果、実戦で運用できるようなものではないとわかったのだ。
 つまり、私はまだ何一つ魔法を完成させられていない。もちろん研究してそこまでわかったということが一定の成果ではあるのだが、私としては中途半端に終わってしまったという気持ちが強かったのである。
 それをこうして魔術師団で取り扱ってもらえるのは幸福なことだろう。学生時代にやり残した魔法を完成させられるかもしれない。その事実は私にとって、非常に嬉しいものだった。
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