29 / 30
29.王子との婚約
しおりを挟む
「さて……今日は婚約の話ということでしたか?」
「……ええ、一応そのつもりです」
ウェルド様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
今回私が彼の元を訪ねたのは、婚約の話をするためである。
その本題に早く移るべきだったのだが、お互いになんとなく世間話から始めてしまい、結構遠回りになってしまった。やはりまだ私達の間には、気恥ずかしさのようなものがあるのだろう。
「……確かにエクティスから、そういう話は聞いています。まあ、私も色々とありましたがそろそろ身を固めなければならない立場ですからね」
「エクティス様から、その辺りの事情は聞いています」
「……」
ウェルド様は、私の言葉に黙ってしまった。それに目もそらしている。やはりその辺りのことは、触れられたくないのだろうか。
「……申し訳ない。今の言い訳です」
「言い訳?」
「……私もそろそろ覚悟を決める時だということでしょうか」
ウェルド様は、ゆっくりとため息をついた。
いや、今のは深呼吸だろうか。とにかく、彼はそこで言葉を区切ったのだ。
「エクティスに限った話ではありませんが、私達兄弟は基本的に仲が良いのです」
「あ、はい。それは知っています」
「お互いの趣味や趣向も把握しています。故に……私はあなたのことをエクティスからよく聞かされていました」
「……え?」
ウェルド様の言葉に、私は少し驚いてしまった。
会話の流れ的に考えると、それはつまり私が彼の好みであるということになる。しかしそんなことがあるのだろうか。なんというか、すぐには受け入れられない。
「もちろん、その話はそこまで気にしていませんでした。私は婚約というものを半ば諦めていましたから。しかし、あなたはここで働くようになりました。初めて会った時にも、驚きましたよ。思わず表情が固まってしまいました……」
「……ああ」
私は、あの時のウェルド様の表情を思い出していた。
あの険しい表情は、驚いたからだったようだ。そう思うと、なんだか少し可愛いような気もしてくる。
「話していく内に、私はエクティスが言っていたことが理解できてきました。私は、あなたに惹かれていたのです」
「……そうだったのですね」
ウェルド様の言葉に対して、私は思ったよりも驚いていなかった。
それは心のどこかで、私がそれを理解していたからなのだろう。今改めて考えてみると、彼の今までの行動はなんというか不可解な部分も多い。
「……研究が始まる際に挨拶に来たのも、騎士団を案内してくれたのも、それが理由だったのでしょうか?」
「……ええ、そうですね。そうだったのだと思います」
私の指摘に、ウェルド様はゆっくりと頷いた。
よく考えてみれば、騎士団長自らが挨拶に来たりするというのはおかしな話だ。やはり普通は、部下に任せるだろう。
「……私は、あなたと結婚したいと思っています。あなたのような強く真の通った女性に妻になってもらいたいと思っているのです」
ウェルド様は、私の目を真っ直ぐに見てきた。
本当に、彼は私に惹かれてくれているようだ。
それは、私にとって嬉しい事実である。私もウェルド様の妻にならなりたいと思っていたからだ。
「しかし、それは難しいのでしょう?」
「……え?」
「噂は聞いています。なんでも恋人がいるとか」
「あ、いえ……」
ウェルド様の言葉に、私は大きく首を振った。
どうやら、彼は勘違いしていたようである。恐らく、ルシウスが私の恋人だという噂を鵜呑みにしていたのだろう。
ということは、彼は今日私が訪ねてきたのは婚約を断るためだと思っていたのだろうか。それはなんというか、とても悪いことをしてしまった。
「あの子は弟です」
「弟……」
「私には恋人なんていません。だから私は、ウェルド様と婚約することができるんです」
「それは……」
私の言葉に、ウェルド様は目を丸くしていた。
そこで私は気付く。今の自分の言葉が、実質的に彼の告白に対する答えであると。
なんというか、それは少々締まらない返答ではある。しかしそれは紛れもなく私の答えだった。
「……私は、ウェルド様の妻になりたいと思っています。あなたの妻としての日々を、私に
送らせてください」
「……ラナトゥーリ嬢、私はあなたを必ず幸せにします」
「はい、ウェルド様……」
私はウェルド様の言葉に、ゆっくりと頷いた。
色々と問題はあるが、きっと大丈夫だろう。彼の決意に満ちた顔を見て、私はそれを確信するのだった。
「……ええ、一応そのつもりです」
ウェルド様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
今回私が彼の元を訪ねたのは、婚約の話をするためである。
その本題に早く移るべきだったのだが、お互いになんとなく世間話から始めてしまい、結構遠回りになってしまった。やはりまだ私達の間には、気恥ずかしさのようなものがあるのだろう。
「……確かにエクティスから、そういう話は聞いています。まあ、私も色々とありましたがそろそろ身を固めなければならない立場ですからね」
「エクティス様から、その辺りの事情は聞いています」
「……」
ウェルド様は、私の言葉に黙ってしまった。それに目もそらしている。やはりその辺りのことは、触れられたくないのだろうか。
「……申し訳ない。今の言い訳です」
「言い訳?」
「……私もそろそろ覚悟を決める時だということでしょうか」
ウェルド様は、ゆっくりとため息をついた。
いや、今のは深呼吸だろうか。とにかく、彼はそこで言葉を区切ったのだ。
「エクティスに限った話ではありませんが、私達兄弟は基本的に仲が良いのです」
「あ、はい。それは知っています」
「お互いの趣味や趣向も把握しています。故に……私はあなたのことをエクティスからよく聞かされていました」
「……え?」
ウェルド様の言葉に、私は少し驚いてしまった。
会話の流れ的に考えると、それはつまり私が彼の好みであるということになる。しかしそんなことがあるのだろうか。なんというか、すぐには受け入れられない。
「もちろん、その話はそこまで気にしていませんでした。私は婚約というものを半ば諦めていましたから。しかし、あなたはここで働くようになりました。初めて会った時にも、驚きましたよ。思わず表情が固まってしまいました……」
「……ああ」
私は、あの時のウェルド様の表情を思い出していた。
あの険しい表情は、驚いたからだったようだ。そう思うと、なんだか少し可愛いような気もしてくる。
「話していく内に、私はエクティスが言っていたことが理解できてきました。私は、あなたに惹かれていたのです」
「……そうだったのですね」
ウェルド様の言葉に対して、私は思ったよりも驚いていなかった。
それは心のどこかで、私がそれを理解していたからなのだろう。今改めて考えてみると、彼の今までの行動はなんというか不可解な部分も多い。
「……研究が始まる際に挨拶に来たのも、騎士団を案内してくれたのも、それが理由だったのでしょうか?」
「……ええ、そうですね。そうだったのだと思います」
私の指摘に、ウェルド様はゆっくりと頷いた。
よく考えてみれば、騎士団長自らが挨拶に来たりするというのはおかしな話だ。やはり普通は、部下に任せるだろう。
「……私は、あなたと結婚したいと思っています。あなたのような強く真の通った女性に妻になってもらいたいと思っているのです」
ウェルド様は、私の目を真っ直ぐに見てきた。
本当に、彼は私に惹かれてくれているようだ。
それは、私にとって嬉しい事実である。私もウェルド様の妻にならなりたいと思っていたからだ。
「しかし、それは難しいのでしょう?」
「……え?」
「噂は聞いています。なんでも恋人がいるとか」
「あ、いえ……」
ウェルド様の言葉に、私は大きく首を振った。
どうやら、彼は勘違いしていたようである。恐らく、ルシウスが私の恋人だという噂を鵜呑みにしていたのだろう。
ということは、彼は今日私が訪ねてきたのは婚約を断るためだと思っていたのだろうか。それはなんというか、とても悪いことをしてしまった。
「あの子は弟です」
「弟……」
「私には恋人なんていません。だから私は、ウェルド様と婚約することができるんです」
「それは……」
私の言葉に、ウェルド様は目を丸くしていた。
そこで私は気付く。今の自分の言葉が、実質的に彼の告白に対する答えであると。
なんというか、それは少々締まらない返答ではある。しかしそれは紛れもなく私の答えだった。
「……私は、ウェルド様の妻になりたいと思っています。あなたの妻としての日々を、私に
送らせてください」
「……ラナトゥーリ嬢、私はあなたを必ず幸せにします」
「はい、ウェルド様……」
私はウェルド様の言葉に、ゆっくりと頷いた。
色々と問題はあるが、きっと大丈夫だろう。彼の決意に満ちた顔を見て、私はそれを確信するのだった。
15
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。
学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。
「好都合だわ。これでお役御免だわ」
――…はずもなかった。
婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。
大切なのは兄と伯爵家だった。
何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
異世界転生した私は甘味のものがないことを知り前世の記憶をフル活用したら、甘味長者になっていた~悪役令嬢なんて知りません(嘘)~
詩河とんぼ
恋愛
とあるゲームの病弱悪役令嬢に異世界転生した甘味大好きな私。しかし、転生した世界には甘味のものないことを知る―――ないなら、作ろう!と考え、この世界の人に食べてもらうと大好評で――気づけば甘味長者になっていた!?
小説家になろう様でも投稿させていただいております
8月29日 HOT女性向けランキングで10位、恋愛で49位、全体で74位
8月30日 HOT女性向けランキングで6位、恋愛で24位、全体で26位
8月31日 HOT女性向けランキングで4位、恋愛で20位、全体で23位
に……凄すぎてびっくりしてます!ありがとうございますm(_ _)m
悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?
無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。
「いいんですか?その態度」
悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる