無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗

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29.王子との婚約

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「さて……今日は婚約の話ということでしたか?」
「……ええ、一応そのつもりです」

 ウェルド様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。
 今回私が彼の元を訪ねたのは、婚約の話をするためである。
 その本題に早く移るべきだったのだが、お互いになんとなく世間話から始めてしまい、結構遠回りになってしまった。やはりまだ私達の間には、気恥ずかしさのようなものがあるのだろう。

「……確かにエクティスから、そういう話は聞いています。まあ、私も色々とありましたがそろそろ身を固めなければならない立場ですからね」
「エクティス様から、その辺りの事情は聞いています」
「……」

 ウェルド様は、私の言葉に黙ってしまった。それに目もそらしている。やはりその辺りのことは、触れられたくないのだろうか。

「……申し訳ない。今の言い訳です」
「言い訳?」
「……私もそろそろ覚悟を決める時だということでしょうか」

 ウェルド様は、ゆっくりとため息をついた。
 いや、今のは深呼吸だろうか。とにかく、彼はそこで言葉を区切ったのだ。

「エクティスに限った話ではありませんが、私達兄弟は基本的に仲が良いのです」
「あ、はい。それは知っています」
「お互いの趣味や趣向も把握しています。故に……私はあなたのことをエクティスからよく聞かされていました」
「……え?」

 ウェルド様の言葉に、私は少し驚いてしまった。
 会話の流れ的に考えると、それはつまり私が彼の好みであるということになる。しかしそんなことがあるのだろうか。なんというか、すぐには受け入れられない。

「もちろん、その話はそこまで気にしていませんでした。私は婚約というものを半ば諦めていましたから。しかし、あなたはここで働くようになりました。初めて会った時にも、驚きましたよ。思わず表情が固まってしまいました……」
「……ああ」

 私は、あの時のウェルド様の表情を思い出していた。
 あの険しい表情は、驚いたからだったようだ。そう思うと、なんだか少し可愛いような気もしてくる。

「話していく内に、私はエクティスが言っていたことが理解できてきました。私は、あなたに惹かれていたのです」
「……そうだったのですね」

 ウェルド様の言葉に対して、私は思ったよりも驚いていなかった。
 それは心のどこかで、私がそれを理解していたからなのだろう。今改めて考えてみると、彼の今までの行動はなんというか不可解な部分も多い。

「……研究が始まる際に挨拶に来たのも、騎士団を案内してくれたのも、それが理由だったのでしょうか?」
「……ええ、そうですね。そうだったのだと思います」

 私の指摘に、ウェルド様はゆっくりと頷いた。
 よく考えてみれば、騎士団長自らが挨拶に来たりするというのはおかしな話だ。やはり普通は、部下に任せるだろう。

「……私は、あなたと結婚したいと思っています。あなたのような強く真の通った女性に妻になってもらいたいと思っているのです」

 ウェルド様は、私の目を真っ直ぐに見てきた。
 本当に、彼は私に惹かれてくれているようだ。
 それは、私にとって嬉しい事実である。私もウェルド様の妻にならなりたいと思っていたからだ。

「しかし、それは難しいのでしょう?」
「……え?」
「噂は聞いています。なんでも恋人がいるとか」
「あ、いえ……」

 ウェルド様の言葉に、私は大きく首を振った。
 どうやら、彼は勘違いしていたようである。恐らく、ルシウスが私の恋人だという噂を鵜呑みにしていたのだろう。
 ということは、彼は今日私が訪ねてきたのは婚約を断るためだと思っていたのだろうか。それはなんというか、とても悪いことをしてしまった。

「あの子は弟です」
「弟……」
「私には恋人なんていません。だから私は、ウェルド様と婚約することができるんです」
「それは……」

 私の言葉に、ウェルド様は目を丸くしていた。
 そこで私は気付く。今の自分の言葉が、実質的に彼の告白に対する答えであると。
 なんというか、それは少々締まらない返答ではある。しかしそれは紛れもなく私の答えだった。

「……私は、ウェルド様の妻になりたいと思っています。あなたの妻としての日々を、私に
送らせてください」
「……ラナトゥーリ嬢、私はあなたを必ず幸せにします」
「はい、ウェルド様……」

 私はウェルド様の言葉に、ゆっくりと頷いた。
 色々と問題はあるが、きっと大丈夫だろう。彼の決意に満ちた顔を見て、私はそれを確信するのだった。
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