「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。

木山楽斗

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27.彼の立場は

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「こ、こんなことが……」

 魔法使い達がいなくなったことによって、ニルーア様の味方はほとんどいなくなっていた。
 後は、付き人や御者くらいだろうか。その人達が力づくで私を連れて行ける訳もないし、もう打つ手などはないだろう。
 それなら、帰ってもらいたいものである。これ以上無駄な時間を過ごさせないで欲しい。

「ニルーア様、そろそろ諦めてください。私は、あなたが何もしなければ何かをするつもりはありません。ただこの村で、人並みの生活を続けられればそれで良いのです」
「この化け物が……あなたなんかに、人並みがありますか!」

 ニルーア様は、私に対してまたも罵倒の言葉を口にしていた。
 本当に、威勢だけは良い人だ。そういった点に関しては、ほんの少しだけ感心する。まだ心が折れていないのは、大したものだ。
 そんな彼女は、そこでその視線を泳がせた。そして彼女の視線は、一点に止まる。それは、私から少しずれた位置だ。

「そういえば、あなたは……」
「む……」

 彼女が視線を向けたのは、ラベルグ様だった。
 彼の顔を見て、王女様は笑っている。それは明らかに、何か悪事を思いついた顔だ。

「あなたは騎士団の一員でしたね。それも、ドルメア公爵家の隠し子の……」
「公爵家?」
「隠し子って……」

 ニルーア様は、ラベルグ様の身分を口にした。 
 その事実に、村の皆が少し騒ぎ始めた。ラベルグ様の事情は、隠していたことだからだ。
 それはニルーア様にとっても、予想外だったのだろう。彼女は目を丸めていた。ただ、すぐに笑みを作った。相も変わらず、下卑た笑みだ。

「あなたはこちら側ではありませんか。騎士団はお兄様がトップに立っています。それに曲りなりにもいとこでしょう? あなたには、私に協力する義務がある」
「……」
「見た所、その女と親しくしているようではありませんか。あなたなら連れて行くこともできるでしょう。さあ、早くその女を従えなさい。この私に頭を下げさせるのです!」

 ニルーア様は、ラベルグ様の立場を盾に命令を下そうとしていた。
 考えてみれば、彼は難しい立場である。騎士団としても、ドルメア公爵家の隠し子としても、王女には逆らい辛い立場だ。
 そんな彼が、私に襲い掛かってきたらどうしようか。私は少し焦っていた。ラベルグ様と一戦交えるなんて御免だ。できればそのようなことにはなって欲しくない。

 そう思って、私は隣に立つラベルグ様の顔を見た。
 彼は鋭い視線をニルーア様に向けている。その目には、迷いや憂いはない。どうやら彼の中では、既にどうするかは決まっているようだ。
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