「平民が聖女になれただけでも感謝しろ」とやりがい搾取されたのでやめることにします。

木山楽斗

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33.彼女の最期(モブside)

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「あなたが馬車を襲ったのですか?」
「ええ、そうですよ」

 ニルーアの質問に、ルナーラはゆっくりと頷いた。
 その動作の一つ一つに、ニルーアは警戒する。彼女が何をしてくるつもりか、わからないからだ。
 馬車を襲ったと言ったことから、敵意があるのは明らかなことである。故にニルーアは、逃げる算段を立てていた。とにかく馬車から出て、遠くへと駆け出そうとしていたのだ。

「え?」

 そう思って体を動かそうとしたニルーアは、自分の体がまったく動かないことに気付いた。
 彼女は、ゆっくりとルナーラの方を見る。すると彼女の仏頂面が目に入った。その表情からは、感情がまったく読み取れない。

「逃げ出されたら困りますから、拘束させてもらいました」
「こ、拘束……魔法で、という訳ですか」
「一つ申し上げておきます。国王と二人の王子は既に亡くなっています」
「……え?」
「私が手にかけました」

 ルナーラの突然の言葉に、ニルーアは固まってしまった。
 自分の父親と兄の訃報、それはにわかには信じられることではない。
 だが、彼女は本能で理解した。ルナーラは嘘を言っていないと。

「な、何故、そんなことを……」
「あなた達兄妹がいると、私が王位を継げませんからね。伯父様に関しても、素直に王位を譲ってくれなかったので」
「そ、それじゃあ、まさか……」

 父と兄の死を悼む暇もなく、ニルーアはこれから自分の身に起こることを想像して、絶句することになった。
 ルナーラからは、冷たい感情が伝わってくる。それは以前までのような妬みや憎しみなどではなく、淡々としたものだった。
 それがニルーアには、屈辱よりも恐怖をもたらしてきた。自分の死が差し迫っていることを、彼女は深く理解したのである。

「や、やめてください。私は……王位なんて、いりませんから。どうか助けてください」
「残念ながら、あなたの存在は最早邪魔でしかありません」
「この国からも離れますから!」
「あなたも王族の一人であるならば、少しくらいは覚悟を決めておくべきでしたね……しかし驚きましたよ。護衛の一人もいないなんて……まあ、お陰で楽ではありましたが」

 ルナーラに手の平を向けられて、ニルーアは息を呑んだ。
 彼女が何をしようとしているのかはわからなかった。しかし何をするにしても、それが自分を終わらせることであることは間違いない。故に必死に逃げようとするが、体は自由に動かなかった。

「さようなら」
「あっ――!」

 最期にニルーアの頭に過ったのは、どうして自分がこんなことになってしまったのかということであった。
 それが彼女にはわからなかった。最期まで彼女は、自分が今までやってきたことを省みることはなかったのである。
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