身分違いの恋に燃えていると婚約破棄したではありませんか。没落したから助けて欲しいなんて言わないでください。

木山楽斗

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1.軽率な考え

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「申し訳ないのだが、僕は君との婚約を破棄したいと考えている」

 婚約者であるランドラ・アルガールに呼び出された私は、そのようなことを告げられていた。
 婚約を破棄したい。その言葉は驚くべきものである。

「ランドラ様、正気ですか?」
「正気だとも」
「この婚約は、アルガール侯爵家とオンラルト侯爵家によって決められたものです。それをあなたの一存で破棄するということの大きさが、本当にわかっているのですか?」
「確かに、僕は大きなことをしようとしている。しかし、それでも僕はこの想いを止めることができない」
「想い……」

 ランドラ様の言葉に、私は少し考える。
 想い、それは婚約破棄のことを指しているとは思えない。もっと特別な意味があるように思える。

「ランドラ様には、想い人がいらっしゃるということでしょうか?」
「ああ、その通りだ」
「その人物と添い遂げたいから、私との婚約は破棄したい。そういうことなのですね?」
「まあ、そういうことだ」

 ランドラ様が婚約破棄をするまでに至った理由が見えてきた。それは、非常に単純で明快な理由である。
 その心情が、理解できない訳ではない。愛が存在しない私との婚約よりも、自らの想いに従いたいと思うのは当たり前だといえるだろう。

「その方は、一体どなたなのですか?」
「ルーフィアという女性だ」
「ルーフィア……失礼ながら、私の記憶にはない名前ですね。一体、どちらのご令嬢なのでしょうか?」
「いや、彼女は貴族ではない」
「は?」

 私は思わず、素っ頓狂な声をあげてしまった。
 彼の想い人が貴族ではない。その事実に、私は驚いていた。

「相手は平民、ということでしょうか?」
「ああ、平民だ。アルガール侯爵家の領地のとある村に住んでいる女性でね」
「農民ですか?」
「うむ、農家の娘だ」

 ランドラ様は、嬉々としてルーフィアという女性のことを語った。
 だが、これはそのように語っていいことではない。由々しき事態だ。

「ランドラ様は、農家の娘を侯爵夫人に迎えようというのですか?」
「ああ、そう考えているが、何か問題でもあるのか?」
「問題がないと思っているなら、それが一番の問題でしょうね。平民を妻に迎える。それは非常に危険なことです。身分の違いというものは、大きなものであるとは思いませんか?」
「ふむ……」

 私の指摘に、ランドラ様は眉をひそめた。
 なんとなく、彼は事態の重さを理解していないような気がする。
 覚悟があるならまだ良いのだが、このような半端な気持ちでそれを実行しようというなら、それは愚かとしか言いようがない。

「まあ確かに身分違いの恋というものは、中々に難しいものであるかもしれないな。とはいえ、だからこそ燃えるというものではないか? 僕はどれだけ困難であっても、身分違いの恋がしたい。この想いに身を任せたいと思っている」

 話にならなかった。どうやら、ランドラ様は軽率な考えで平民を妻に迎えようとしているらしい。
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