妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗

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25.不気味な笑みの理由

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 私の毎日というものは、イフェネアお姉様の顔を見て始まり、その顔を見て終わる。
 一緒の部屋で過ごすということは、そういうことだ。大きな広いベッドの中で、私はお姉様と身を寄せ合っている。

 恥ずかしい話ではあるけれど、私はいつもお母さんとそうやって一緒に眠っていた。
 もしかしたらこの部屋よりも狭いかもしれない家の中で、寒い日は特にお互いを温め合っていたのである。
 今となっては、そんな日々が懐かしく思えてくる。その日々が戻って来ることは、きっともうないのだろうけれど。

「クラリア、何かあったの?」
「え?」
「浮かない顔をしているわ。私で良ければ、力になるけれど」

 そんな風に感傷に浸っていると、イフェネアお姉様が話しかけてきた。
 それに私は、どう答えていいかわからない。確かに心の中に不安というものは存在しているが、それは素直に話せる程に簡単なものではなかったのだ。

「……ウェリダンお兄様のことで少し気になることがあるんです」
「あら、あの子がどうかしたのかしら?」
「その、いつも笑っているので、どうしてなのかと思って……」

 私の口から出てきたのは、不安ではなくてウェリダンお兄様のことだった。
 実の所、それも気になっていたことである。あの笑みというものは、一体どうして生まれたものなのだろうか。
 楽しい時も寂しい時も苦しい時も、きっとウェリダンお兄様は笑っている。あの不気味な笑みというものは、生まれつきだったのだろうか。

「昔はそうでもなかったのだけれどね」
「そうなんですか?」
「ええ、というよりも、あの子は感情を表に出すのが苦手だったのよ。いつも無表情で……無機質だったの。それを友達に指摘された時からかしら。あんな風に笑うようになったのは」
「なるほど、それであんな不気味な笑顔を……ああいえ、すみません」
「いいえ、大丈夫よ。私も少なからず、そう思っている所があるから」

 私の失言に、イフェネアお姉様は苦笑いを浮かべていた。
 やはり、あの笑顔はあまり良い笑顔という訳でもないのかもしれない。無理をして笑っているということなのだろうか。だとしたら、少々悲しいものである。

「でもあの笑顔は、親しい人の前でしか見せないものなのよ? 舞踏会とかそういった場では、なんとか表情は作れているの。でもまあ、それは心からの笑顔ではないけれど……」
「心からの笑顔、ですか……」
「ええ、でもウェリダンは感情がないという訳ではないから、きっとその出力の仕方がわからないのでしょうね……今は変な癖がついているというか」
「なるほど……」

 ウェリダンお兄様のことが少しだけわかって、私は色々と考えることになった。
 感情を表に出すことができないというのは、私には経験がないことだ。楽しい時は笑っていたし、悲しい時は泣いていた。それはもしかしたら、幸せなことだったのかもしれない。
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