37 / 66
37.負け惜しみ
しおりを挟む
「ラフェリア……これは全て、お前の差し金か?」
「さて、どうでしょうね?」
「忌々しい女め……お前は、いつもそうだった。あのラナキシアにそっくりだ」
「ラナキシア……」
そこでお父様は、母の名前を口にした。
お父様の口調からは、確かな怒りが読み取れる。それはつまり、母のことをひどく憎しんでいるということなのだろう。
「あの女は、いつも俺を見下してきた! そんなあいつが俺は大嫌いだった! やはりお前など産ませるべきではなかった! 俺にそんなつもりはなかったというのに、あの女は……まさかあの一度の過ちで、お前などができるなんて……」
お父様の言葉からは、後悔の念のようなものが伝わってきた。
彼は一体、どこから後悔しているのだろうか。私はそれを、少し考えていた。
私という存在ができるまで何があったのか、それを私は知っている。この屋敷で、噂になっていたからだ。
それを考えると、はらわたが煮え繰り返ってきた。お父様は一体、どれだけ自分勝手なのだろうか。
「あなたがお母様に何をしたのか、私は知っています。もしかしたら私という存在は、あなたの非道な行いに対するお母様の復讐心によって形作られているのかもしれませんね」
「生意気な所まで、あの女にそっくりだ。益々忌々しい。言っておくが、あの女は屑だ! 妻の風上にもおけない愚か者だ! 死んだ時は清々したさ! あいつの死ぬ顔を、お前にも見せてやりたかったくらいだ!」
既に破滅が決まっているからか、お父様はお母様のことを大々的に罵倒し始めた。
その発言の数々に、私の体は震えていた。お母様の記憶なんてものはないが、それでもお父様の言葉が許せない。
故に私は、自然と腕を大きく振り上げていた。
しかし、その手が振り下ろされることはなかった。なぜなら、そんな私の腕を掴む人がいたからである。
「ナルギス……?」
「……あんな男に手をあげる必要はない。そんなことをして、あなたの綺麗なこの手を汚す必要はない」
「ナルギス、あなた……」
私が言葉を発した次の瞬間、ナルギスの体は大きく前進していた。
そして彼の拳が、素早く振るわれる。その対象は当然ながら、お父様だ。
「なっ……ぬあああああああっ!」
ナルギスの拳に対して、お父様は情けない叫び声をあげた。
ただその拳は、お父様に届いていない。ナルギスは、寸前でその手を止めているのだ。
そこには、彼の理性が現れているのかもしれない。彼は怒りながらも、それでもお父様を傷つけないことを選んだのだろう。
「あがっ……」
しかしお父様は、その場にゆっくりと膝をつきそのまま動かなくなった。
ナルギスの気迫だけで、参ってしまったのだろう。やはり彼はどこまでも、矮小な人である。目の前にいる一人の誇り高き男性の背中を見ながら、私はそう思うのだった。
「さて、どうでしょうね?」
「忌々しい女め……お前は、いつもそうだった。あのラナキシアにそっくりだ」
「ラナキシア……」
そこでお父様は、母の名前を口にした。
お父様の口調からは、確かな怒りが読み取れる。それはつまり、母のことをひどく憎しんでいるということなのだろう。
「あの女は、いつも俺を見下してきた! そんなあいつが俺は大嫌いだった! やはりお前など産ませるべきではなかった! 俺にそんなつもりはなかったというのに、あの女は……まさかあの一度の過ちで、お前などができるなんて……」
お父様の言葉からは、後悔の念のようなものが伝わってきた。
彼は一体、どこから後悔しているのだろうか。私はそれを、少し考えていた。
私という存在ができるまで何があったのか、それを私は知っている。この屋敷で、噂になっていたからだ。
それを考えると、はらわたが煮え繰り返ってきた。お父様は一体、どれだけ自分勝手なのだろうか。
「あなたがお母様に何をしたのか、私は知っています。もしかしたら私という存在は、あなたの非道な行いに対するお母様の復讐心によって形作られているのかもしれませんね」
「生意気な所まで、あの女にそっくりだ。益々忌々しい。言っておくが、あの女は屑だ! 妻の風上にもおけない愚か者だ! 死んだ時は清々したさ! あいつの死ぬ顔を、お前にも見せてやりたかったくらいだ!」
既に破滅が決まっているからか、お父様はお母様のことを大々的に罵倒し始めた。
その発言の数々に、私の体は震えていた。お母様の記憶なんてものはないが、それでもお父様の言葉が許せない。
故に私は、自然と腕を大きく振り上げていた。
しかし、その手が振り下ろされることはなかった。なぜなら、そんな私の腕を掴む人がいたからである。
「ナルギス……?」
「……あんな男に手をあげる必要はない。そんなことをして、あなたの綺麗なこの手を汚す必要はない」
「ナルギス、あなた……」
私が言葉を発した次の瞬間、ナルギスの体は大きく前進していた。
そして彼の拳が、素早く振るわれる。その対象は当然ながら、お父様だ。
「なっ……ぬあああああああっ!」
ナルギスの拳に対して、お父様は情けない叫び声をあげた。
ただその拳は、お父様に届いていない。ナルギスは、寸前でその手を止めているのだ。
そこには、彼の理性が現れているのかもしれない。彼は怒りながらも、それでもお父様を傷つけないことを選んだのだろう。
「あがっ……」
しかしお父様は、その場にゆっくりと膝をつきそのまま動かなくなった。
ナルギスの気迫だけで、参ってしまったのだろう。やはり彼はどこまでも、矮小な人である。目の前にいる一人の誇り高き男性の背中を見ながら、私はそう思うのだった。
125
あなたにおすすめの小説
溺愛されている妹の高慢な態度を注意したら、冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになりました。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるラナフィリアは、妹であるレフーナに辟易としていた。
両親に溺愛されて育ってきた彼女は、他者を見下すわがままな娘に育っており、その相手にラナフィリアは疲れ果てていたのだ。
ある時、レフーナは晩餐会にてとある令嬢のことを罵倒した。
そんな妹の高慢なる態度に限界を感じたラナフィリアは、レフーナを諫めることにした。
だが、レフーナはそれに激昂した。
彼女にとって、自分に従うだけだった姉からの反抗は許せないことだったのだ。
その結果、ラナフィリアは冷血と評判な辺境伯の元に嫁がされることになった。
姉が不幸になるように、レフーナが両親に提言したからである。
しかし、ラナフィリアが嫁ぐことになった辺境伯ガルラントは、噂とは異なる人物だった。
戦士であるため、敵に対して冷血ではあるが、それ以外の人物に対して紳士的で誠実な人物だったのだ。
こうして、レフーナの目論見は外れ、ラナフェリアは辺境で穏やかな生活を送るのだった。
婚約者は妹の御下がりでした?~妹に婚約破棄された田舎貴族の奇跡~
tartan321
恋愛
私よりも美しく、そして、貴族社会の華ともいえる妹のローズが、私に紹介してくれた婚約者は、田舎貴族の伯爵、ロンメルだった。
正直言って、公爵家の令嬢である私マリアが田舎貴族と婚約するのは、問題があると思ったが、ロンメルは素朴でいい人間だった。
ところが、このロンメル、単なる田舎貴族ではなくて……。
【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。
凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」
リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。
その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。
当然、注目は私達に向く。
ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた──
「私はシファナと共にありたい。」
「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」
(私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。)
妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。
しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。
そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。
それとは逆に、妹は──
※全11話構成です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。
婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。
ぽっちゃりおっさん
恋愛
公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。
しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。
屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。
【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。
差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。
そこでサラが取った決断は?
妹の婚約者自慢がウザいので、私の婚約者を紹介したいと思います~妹はただ私から大切な人を奪っただけ~
マルローネ
恋愛
侯爵令嬢のアメリア・リンバークは妹のカリファに婚約者のラニッツ・ポドールイ公爵を奪われた。
だが、アメリアはその後に第一王子殿下のゼラスト・ファーブセンと婚約することになる。
しかし、その事実を知らなかったカリファはアメリアに対して、ラニッツを自慢するようになり──。
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません
天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。
ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。
屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。
家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。
「義妹に譲れ」と言われたので、公爵家で幸せになります
恋せよ恋
恋愛
「しっかり者の姉なら、婚約者を妹に譲ってあげなさい」
「そうだよ、バネッサ。君なら、わかるだろう」
十五歳の冬。父と婚約者パトリックから放たれた無慈悲な言葉。
再婚相手の連れ子・ナタリアの図々しさに耐えてきたバネッサは、
その瞬間に決意した。
「ええ、喜んで差し上げますわ」
将来性のない男も、私を軽んじる家族も、もういらない。
跡継ぎの重責から解放されたバネッサは、その類まれなる知性を見込まれ、
王国の重鎮・ヴィンセント公爵家へ嫁ぐことに。
「私は、私を一番に愛してくれる場所で幸せになります!」
聡明すぎる令嬢による、自立と逆転のハッピーエンド。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる