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9.祖母の弟子
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「いやまさか、アルフェンド王国の聖女と議論を交わすことができるとは思っていませんでした」
「ダルトナスさん、私はもうクビになったので元聖女ですよ」
「ああ、そうでしたね……」
馬車での道中、私はダルトナスさんと魔法についての会話を交わしていた。
王子の家庭教師をする程に優秀な彼との話は、とても有意義であった。この道中で彼と出会えたことは、私にとって非常に幸福なことだったといえるだろう。
「……あんた達も飽きないね」
そこでお祖母様は、ゆっくりと目を覚ました。
私達が議論を交わしている間、お祖母様は寝ていた。といっても、本当に寝ていたかどうかはわからない。もしかしたら、不貞寝していただけという可能性もある。
「ペリーナ様は、本当に相変わらずであるようですね。こういった議論は、いつでも楽しいというのに……」
「アタシはあんた達と違って、無駄な会話なんてする必要がないと思っているからね」
「そうやって昔から付き合ってくれないんですよねぇ」
「あ、わかります。お祖母様、こういうお話には付き合わないんですよ」
「アタシにわかることなら、大抵の場合は答えるさ。あんた達がやっている答えの出ない議論をしないというだけだ」
ダルトナスさんは、お祖母様と本当に親しい関係であったらしい。そのお陰もあって、私とも話が合う。
お祖母様のことをよく知っている人は、意外にも少ない。私が後知っているのは、亡きエルベルト様くらいだろうか。
「ダルトナスさんは、お祖母様と二十年振りくらいの再会なのですよね? えっと、どういった関係でお知り合いになったのですか?」
「え? ああ……」
そこで私は、ダルトナスさんに質問をした。
するとお祖母様の目が鋭くなる。やはり私に、過去のことを詮索されたくはないようだ。
「まあ、ペリーナ様は私の師匠のようなものですよ。当時調子に乗っていた私は、ペリーナ様によってひどく打ちのめされました」
「打ちのめされた?」
「ペリーナ様は、私よりも遥かに優秀な魔法使いでしたからね。足元にも及ばず、そこからは修練の日々でした」
ダルトナスさんは、とても懐かしそうにしていた。
それらの日々は、彼にとっていい思い出なのだろう。それがよく伝わってくる。
「あんたは生意気なガキだった……そう考えると、今は落ち着いているような気もするね」
「それはまあ、私も年を取りましたからね」
「年を取った……ふん、そうかい」
お祖母様はぶっきら棒な振りをしているが、とても嬉しそうだ。
やはり、旧知の弟子と再会できたのが嬉しいのだろう。それを理解して、私は笑顔になるのだった。
「ダルトナスさん、私はもうクビになったので元聖女ですよ」
「ああ、そうでしたね……」
馬車での道中、私はダルトナスさんと魔法についての会話を交わしていた。
王子の家庭教師をする程に優秀な彼との話は、とても有意義であった。この道中で彼と出会えたことは、私にとって非常に幸福なことだったといえるだろう。
「……あんた達も飽きないね」
そこでお祖母様は、ゆっくりと目を覚ました。
私達が議論を交わしている間、お祖母様は寝ていた。といっても、本当に寝ていたかどうかはわからない。もしかしたら、不貞寝していただけという可能性もある。
「ペリーナ様は、本当に相変わらずであるようですね。こういった議論は、いつでも楽しいというのに……」
「アタシはあんた達と違って、無駄な会話なんてする必要がないと思っているからね」
「そうやって昔から付き合ってくれないんですよねぇ」
「あ、わかります。お祖母様、こういうお話には付き合わないんですよ」
「アタシにわかることなら、大抵の場合は答えるさ。あんた達がやっている答えの出ない議論をしないというだけだ」
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「ダルトナスさんは、お祖母様と二十年振りくらいの再会なのですよね? えっと、どういった関係でお知り合いになったのですか?」
「え? ああ……」
そこで私は、ダルトナスさんに質問をした。
するとお祖母様の目が鋭くなる。やはり私に、過去のことを詮索されたくはないようだ。
「まあ、ペリーナ様は私の師匠のようなものですよ。当時調子に乗っていた私は、ペリーナ様によってひどく打ちのめされました」
「打ちのめされた?」
「ペリーナ様は、私よりも遥かに優秀な魔法使いでしたからね。足元にも及ばず、そこからは修練の日々でした」
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それらの日々は、彼にとっていい思い出なのだろう。それがよく伝わってくる。
「あんたは生意気なガキだった……そう考えると、今は落ち着いているような気もするね」
「それはまあ、私も年を取りましたからね」
「年を取った……ふん、そうかい」
お祖母様はぶっきら棒な振りをしているが、とても嬉しそうだ。
やはり、旧知の弟子と再会できたのが嬉しいのだろう。それを理解して、私は笑顔になるのだった。
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