堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。

木山楽斗

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32.失ったもの

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「わ、私は何を……」

 魔法が解けたラナルナ嬢は、少し困惑しながら周囲を見渡していた。
 訳がわからないといった様子だ。お祖母様の魔法によって、意識が飛んでいたのだろう。

「ラナルナ、あんたにいいことを教えておいてやろう。妖術というものは、人間に扱える術ではない。それを使うということにはそれなりのリスクがあるのさ」
「リスク……」

 そんなラナルナ嬢の様子を特に気にすることもなく、お祖母様は説明を始めた。
 それは以前、私にも教えてくれたことだ。妖術にはリスクがある。強力である分、それに見合った代償があるのだ。
 しかしその代償が具体的になんであるかは、私も知らない。ただ、その代償が大きいのは確実だ。

「まあ、あんたがこうしてここにいることもそうさ。結局あんたは、妖術を使えなくなった訳だろう?」
「くっ……」

 お祖母様の言葉に、ラナルナ嬢はその表情を歪めていた。
 牢屋に入れられている。侯爵令嬢である彼女にとって、それはかなり屈辱的なことなのだろう。
 ただ、それはリスクという訳ではない。強力な妖術が一定期間だけ使えるというなら、特に不利益はないといえるだろう。

「人間が妖術を使う際には、魔力の代わりに生命力が消費される。あんたは既に、その生命力を使い果たしているのさ」
「せ、生命力?」
「ああ、心配しなくてもいい。別にそれがなくなったとしても死んだりはしないさ。生命力というのは便宜上の呼び名だからね。妖術を使った者に起こる現象を定義するのには、そういう言い方が一番しっくりとくるのさ」

 お祖母様は、少し邪悪な笑みを浮かべていた。
 それはこれから語ることが残酷なことであることを表している。

「結論を言っておこう。あんたはこれから、老ける」
「ふ、老ける?」
「老化していくのさ。妖術が生命力を奪ったことによって、身体機能が一気に衰える。ただ不思議なことに、それで寿命が尽きるという訳ではないのさ。老けた後は、普通通りの寿命を迎える。まあ要するに、若さを失うのさ」
「なっ……!」

 お祖母様の言葉に、ラナルナ嬢は目を丸めていた。
 その表情は、絶望に歪んでいる。それはそうだろう。妖術の代償は、とても大きなものだ。
 といっても、それは自業自得といえるだろう。彼女は過ぎたる力を使い過ぎたのだ。

「ふ、ふざけないで! わ、私が老けるなんて……」
「おや、もう症状は現れているようだね……」
「そ、そんな馬鹿な……違う! そんな訳が!」

 お祖母様に反論するために鉄格子に近づいたことによって、私は理解した。彼女が、確かに少し老けているということを。
 ただ、それはまだまだ序の口なのだろう。これから彼女は、長い時間をかけて大きな代償を支払うことになるのだ。
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