32 / 44
32.失ったもの
しおりを挟む
「わ、私は何を……」
魔法が解けたラナルナ嬢は、少し困惑しながら周囲を見渡していた。
訳がわからないといった様子だ。お祖母様の魔法によって、意識が飛んでいたのだろう。
「ラナルナ、あんたにいいことを教えておいてやろう。妖術というものは、人間に扱える術ではない。それを使うということにはそれなりのリスクがあるのさ」
「リスク……」
そんなラナルナ嬢の様子を特に気にすることもなく、お祖母様は説明を始めた。
それは以前、私にも教えてくれたことだ。妖術にはリスクがある。強力である分、それに見合った代償があるのだ。
しかしその代償が具体的になんであるかは、私も知らない。ただ、その代償が大きいのは確実だ。
「まあ、あんたがこうしてここにいることもそうさ。結局あんたは、妖術を使えなくなった訳だろう?」
「くっ……」
お祖母様の言葉に、ラナルナ嬢はその表情を歪めていた。
牢屋に入れられている。侯爵令嬢である彼女にとって、それはかなり屈辱的なことなのだろう。
ただ、それはリスクという訳ではない。強力な妖術が一定期間だけ使えるというなら、特に不利益はないといえるだろう。
「人間が妖術を使う際には、魔力の代わりに生命力が消費される。あんたは既に、その生命力を使い果たしているのさ」
「せ、生命力?」
「ああ、心配しなくてもいい。別にそれがなくなったとしても死んだりはしないさ。生命力というのは便宜上の呼び名だからね。妖術を使った者に起こる現象を定義するのには、そういう言い方が一番しっくりとくるのさ」
お祖母様は、少し邪悪な笑みを浮かべていた。
それはこれから語ることが残酷なことであることを表している。
「結論を言っておこう。あんたはこれから、老ける」
「ふ、老ける?」
「老化していくのさ。妖術が生命力を奪ったことによって、身体機能が一気に衰える。ただ不思議なことに、それで寿命が尽きるという訳ではないのさ。老けた後は、普通通りの寿命を迎える。まあ要するに、若さを失うのさ」
「なっ……!」
お祖母様の言葉に、ラナルナ嬢は目を丸めていた。
その表情は、絶望に歪んでいる。それはそうだろう。妖術の代償は、とても大きなものだ。
といっても、それは自業自得といえるだろう。彼女は過ぎたる力を使い過ぎたのだ。
「ふ、ふざけないで! わ、私が老けるなんて……」
「おや、もう症状は現れているようだね……」
「そ、そんな馬鹿な……違う! そんな訳が!」
お祖母様に反論するために鉄格子に近づいたことによって、私は理解した。彼女が、確かに少し老けているということを。
ただ、それはまだまだ序の口なのだろう。これから彼女は、長い時間をかけて大きな代償を支払うことになるのだ。
魔法が解けたラナルナ嬢は、少し困惑しながら周囲を見渡していた。
訳がわからないといった様子だ。お祖母様の魔法によって、意識が飛んでいたのだろう。
「ラナルナ、あんたにいいことを教えておいてやろう。妖術というものは、人間に扱える術ではない。それを使うということにはそれなりのリスクがあるのさ」
「リスク……」
そんなラナルナ嬢の様子を特に気にすることもなく、お祖母様は説明を始めた。
それは以前、私にも教えてくれたことだ。妖術にはリスクがある。強力である分、それに見合った代償があるのだ。
しかしその代償が具体的になんであるかは、私も知らない。ただ、その代償が大きいのは確実だ。
「まあ、あんたがこうしてここにいることもそうさ。結局あんたは、妖術を使えなくなった訳だろう?」
「くっ……」
お祖母様の言葉に、ラナルナ嬢はその表情を歪めていた。
牢屋に入れられている。侯爵令嬢である彼女にとって、それはかなり屈辱的なことなのだろう。
ただ、それはリスクという訳ではない。強力な妖術が一定期間だけ使えるというなら、特に不利益はないといえるだろう。
「人間が妖術を使う際には、魔力の代わりに生命力が消費される。あんたは既に、その生命力を使い果たしているのさ」
「せ、生命力?」
「ああ、心配しなくてもいい。別にそれがなくなったとしても死んだりはしないさ。生命力というのは便宜上の呼び名だからね。妖術を使った者に起こる現象を定義するのには、そういう言い方が一番しっくりとくるのさ」
お祖母様は、少し邪悪な笑みを浮かべていた。
それはこれから語ることが残酷なことであることを表している。
「結論を言っておこう。あんたはこれから、老ける」
「ふ、老ける?」
「老化していくのさ。妖術が生命力を奪ったことによって、身体機能が一気に衰える。ただ不思議なことに、それで寿命が尽きるという訳ではないのさ。老けた後は、普通通りの寿命を迎える。まあ要するに、若さを失うのさ」
「なっ……!」
お祖母様の言葉に、ラナルナ嬢は目を丸めていた。
その表情は、絶望に歪んでいる。それはそうだろう。妖術の代償は、とても大きなものだ。
といっても、それは自業自得といえるだろう。彼女は過ぎたる力を使い過ぎたのだ。
「ふ、ふざけないで! わ、私が老けるなんて……」
「おや、もう症状は現れているようだね……」
「そ、そんな馬鹿な……違う! そんな訳が!」
お祖母様に反論するために鉄格子に近づいたことによって、私は理解した。彼女が、確かに少し老けているということを。
ただ、それはまだまだ序の口なのだろう。これから彼女は、長い時間をかけて大きな代償を支払うことになるのだ。
25
あなたにおすすめの小説
婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。
三葉 空
恋愛
ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……
私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?
睡蓮
恋愛
セレスとクレイは婚約関係にあった。しかし、セレスよりも他の女性に目移りしてしまったクレイは、ためらうこともなくセレスの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたクレイであったものの、後に全く同じ言葉をセレスから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。
※全6話完結です。
聖女をクビにされ、婚約者も冷たいですが、優しい義兄がいるので大丈夫です【完結】
小平ニコ
恋愛
ローレッタは『聖女』として忙しいながらも充実した日々を送っていたが、ある日突然上司となった無能貴族エグバートの機嫌を損ね、『聖女』をクビとなり、住んでいた寮も追放されてしまう。
失意の中、故郷に戻ったローレッタ。
『聖女』でなくなったことで、婚約者には露骨に冷たい態度を取られ、その心は深く傷つく。
だが、優しい義兄のおかげで少しずつ元気を取り戻し、なんとか新しい生活に馴染み始めたころ、あのエグバートから手紙が届いた。『大変なことになっているから、今すぐ戻ってこい』と。
公爵令嬢ですが、実は神の加護を持つ最強チート持ちです。婚約破棄? ご勝手に
ゆっこ
恋愛
王都アルヴェリアの中心にある王城。その豪奢な大広間で、今宵は王太子主催の舞踏会が開かれていた。貴族の子弟たちが華やかなドレスと礼装に身を包み、音楽と笑い声が響く中、私——リシェル・フォン・アーデンフェルトは、端の席で静かに紅茶を飲んでいた。
私は公爵家の長女であり、かつては王太子殿下の婚約者だった。……そう、「かつては」と言わねばならないのだろう。今、まさにこの瞬間をもって。
「リシェル・フォン・アーデンフェルト。君との婚約を、ここに正式に破棄する!」
唐突な宣言。静まり返る大広間。注がれる無数の視線。それらすべてを、私はただ一口紅茶を啜りながら見返した。
婚約破棄の相手、王太子レオンハルト・ヴァルツァーは、金髪碧眼のいかにも“主役”然とした青年である。彼の隣には、勝ち誇ったような笑みを浮かべる少女が寄り添っていた。
「そして私は、新たにこのセシリア・ルミエール嬢を伴侶に選ぶ。彼女こそが、真に民を導くにふさわしい『聖女』だ!」
ああ、なるほど。これが今日の筋書きだったのね。
聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~
キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。
パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。
最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。
さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。
その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。
王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。
こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。
※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。
※カクヨムにも掲載中です。
出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね
猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」
広間に高らかに響く声。
私の婚約者であり、この国の王子である。
「そうですか」
「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」
「… … …」
「よって、婚約は破棄だ!」
私は、周りを見渡す。
私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。
「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」
私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。
なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。
【完結】幽霊令嬢は追放先で聖地を創り、隣国の皇太子に愛される〜私を捨てた祖国はもう手遅れです〜
遠野エン
恋愛
セレスティア伯爵家の長女フィーナは、生まれつき強大すぎる魔力を制御できず、常に体から生命力ごと魔力が漏れ出すという原因不明の症状に苦しんでいた。そのせいで慢性的な体調不良に陥り『幽霊令嬢』『出来損ない』と蔑まれ、父、母、そして聖女と謳われる妹イリス、さらには専属侍女からも虐げられる日々を送っていた。
晩餐会で婚約者であるエリオット王国・王太子アッシュから「欠陥品」と罵られ、公衆の面前で婚約を破棄される。アッシュは新たな婚約者に妹イリスを選び、フィーナを魔力の枯渇した不毛の大地『グランフェルド』へ追放することを宣言する。しかし、死地へ送られるフィーナは絶望しなかった。むしろ長年の苦しみから解放されたように晴れやかな気持ちで追放を受け入れる。
グランフェルドへ向かう道中、あれほど彼女を苦しめていた体調不良が嘘のように快復していくことに気づく。追放先で出会った青年ロイエルと共に土地を蘇らせようと奮闘する一方で、王国では異変が次々と起き始め………。
義母の企みで王子との婚約は破棄され、辺境の老貴族と結婚せよと追放されたけど、結婚したのは孫息子だし、思いっきり歌も歌えて言うことありません!
もーりんもも
恋愛
義妹の聖女の証を奪って聖女になり代わろうとした罪で、辺境の地を治める老貴族と結婚しろと王に命じられ、王都から追放されてしまったアデリーン。
ところが、結婚相手の領主アドルフ・ジャンポール侯爵は、結婚式当日に老衰で死んでしまった。
王様の命令は、「ジャンポール家の当主と結婚せよ」ということで、急遽ジャンポール家の当主となった孫息子ユリウスと結婚することに。
ユリウスの結婚の誓いの言葉は「ふん。ゲス女め」。
それでもアデリーンにとっては、緑豊かなジャンポール領は楽園だった。
誰にも遠慮することなく、美しい森の中で、大好きな歌を思いっきり歌えるから!
アデリーンの歌には不思議な力があった。その歌声は万物を癒し、ユリウスの心までをも溶かしていく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる