堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。

木山楽斗

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36.妖魔という存在

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「えっと……それでお祖母様、妖魔とは一体なんなのですか?」
「ああ、まあ、そのことについて説明するとしようか」

 アズガルト様が気絶しているため、私はお祖母様に気になっていることを質問した。
 お祖母様が人間でない妖魔という種族であることはわかったのだが、そもそも私には妖魔がわからない。
 それがなんなのか、私は聞いておきたかった。今ならきっと、お祖母様はなんでも答えてくれる気がするし。

「何から話したらいいのか……妖魔というのは、人間とは異なる種族なんだよ。人間よりも遥かに長く生き、妖術という力を使うのが特徴的だね」
「妖術、ですか? しかしお祖母様が使われているのは魔法ではありませんか?」
「アタシは妖魔としては落ちこぼれでね。生まれつき、妖術が使えなかったのさ。故に魔法を学んだ。変わり者の妖魔なのさ」

 お祖母様は、珍しく自虐的だった。
 妖術が使えない。それは人間でいえば、魔法が使えないようなものなのだろうか。
 忌々しいことではあるが、そういう人達がどういう扱いをされるのか、私も知らない訳ではない。お祖母様も、色々とあったということだろうか。

「魔法使いとしては、お祖母様は一流ではありませんか」
「そうでもないさ。アタシは単に長く生きていて時間があったというだけだ。魔法の修練を積む時間も知識を得る時間も、人一倍あった。才能という観点からいえば、人間にアタシ達妖魔は敵わないよ。あんた達は一瞬でアタシを飛び越せる程の成長性がある。妖魔が滅びたのも、それが一因だ」
「滅びた……」

 お祖母様の言葉に、私は驚いた。まさか妖魔が既に滅びた存在であるとは、思っていなかったからだ。
 しかし、それは当然かもしれない。妖魔という存在を、私は初めて聞いた。それくらい聞いたことがないなら、滅びていてもおかしくはない。

「遠い昔に、妖魔と人間の間で戦いがあったのさ。人間の基準からいえば、長い戦いだったね。百年くらいだろうか」
「百年……」
「妖魔は人間に負けた。妖術では魔法に勝てなかったのさ。妖魔は自らの技術を磨いたりしない存在だったからね。持って生まれたもので戦い抜こうとしたが、人間の成長性に負けたんだ」
「そうだったのですね……」

 妖魔の存在は、長い歴史の中で消失していったのだろう。
 滅びたその種族を、人間は後世に伝えなかったのだ。恐らく、一部の有力者を除いて。

「しかし、お祖母様はつくづく妖魔としては異端なのですね?」
「うん?」
「妖魔は自らの技術を磨かないのでしょう? 今でも魔法の修練を積んでいるお祖母様は、その理から大きく外れた存在ではありませんか」
「ふっ……」

 私の言葉に、お祖母様は少し嬉しそうな顔をしていた。
 目の前にいる彼女は、誇り高き魔法使いだ。私はまた改めてそれを実感するのだった。
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