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1.祖父の願いは
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父が妾に執着し始めたのは、私が生まれてからすぐのことであったらしい。
母との婚約というものは、家同士が決めたものであり、そこに愛などはなかったそうだ。
父の本命は妾であり、実の娘である私にさえも、親愛の情は持っていないらしい。それは幼少期の頃から、薄々わかっていたことである。
「……奴の好きにさせるつもりはない。アルティア、オルファン侯爵家はお前が守るのだ」
「お祖父様、それは……」
「まだ幼きお前に、そのような重圧を背負わせることは申し訳ないと思っている。だが、それでも私は縋るしかない。オルファン侯爵家の誇りを託せるのは、最早お前だけだ」
幼少期、お祖父様が今際の際に私に言い残したのは、そのような言葉であった。
早くに妻――私にとってはお祖母様を亡くしたお祖父様は、一人で父を育ててきたらしい。
結果として、その教育は上手くいなかったようである。父はひどく自分本位に育ち、お祖父様の教えを軽んじるようになったそうなのだ。
「お父様は、妹のイルミナに家を渡すつもりだと思います。例え彼女が妾との間に生まれた子供であっても……」
「それに関しては、対策してある。オルファン侯爵家に関わりがある者達に対して、奴はそこまで強い影響力を持っていない。私の意向に背くようなことをすれば、すぐにその権力を失うということは、奴でも流石に理解するだろう」
「……そうですか」
お祖父様は、色々と用意をしていたようだった。
それは、父がオルファン侯爵家を継げば、碌なことにならないということがわかっていたからなのだろう。
だから、父の次の代――私に託そうとしていたのだ。当時の私は、そこまで深く考えられていた訳ではなかったけれど。
「とはいえ、私の影響力というものがどれだけ持つかはわからないがな」
「お祖父様……」
「アルティア、例えどのようなことが起こっても忘れるな。お前には誇り高きオルファン侯爵家の血が流れているということを……それをどうか次の世代へと繋げてくれ。それが私の最期の願いだ」
「……わかりました」
あの時の私は、お祖父様の言葉にただ頷くことしかできなかった。
だけど今なら、その気持ちが少しだけわかる気がする。お祖父様は、とても大切なことを教えてくれたのだ。少なくとも父とは違い、尊敬できる人であったと今は思っている。
だから私は、オルファン侯爵家にいるのだ。その誇りを絶やさないために、私はお母様とともにこの忌まわしき家に縋りついている。
母との婚約というものは、家同士が決めたものであり、そこに愛などはなかったそうだ。
父の本命は妾であり、実の娘である私にさえも、親愛の情は持っていないらしい。それは幼少期の頃から、薄々わかっていたことである。
「……奴の好きにさせるつもりはない。アルティア、オルファン侯爵家はお前が守るのだ」
「お祖父様、それは……」
「まだ幼きお前に、そのような重圧を背負わせることは申し訳ないと思っている。だが、それでも私は縋るしかない。オルファン侯爵家の誇りを託せるのは、最早お前だけだ」
幼少期、お祖父様が今際の際に私に言い残したのは、そのような言葉であった。
早くに妻――私にとってはお祖母様を亡くしたお祖父様は、一人で父を育ててきたらしい。
結果として、その教育は上手くいなかったようである。父はひどく自分本位に育ち、お祖父様の教えを軽んじるようになったそうなのだ。
「お父様は、妹のイルミナに家を渡すつもりだと思います。例え彼女が妾との間に生まれた子供であっても……」
「それに関しては、対策してある。オルファン侯爵家に関わりがある者達に対して、奴はそこまで強い影響力を持っていない。私の意向に背くようなことをすれば、すぐにその権力を失うということは、奴でも流石に理解するだろう」
「……そうですか」
お祖父様は、色々と用意をしていたようだった。
それは、父がオルファン侯爵家を継げば、碌なことにならないということがわかっていたからなのだろう。
だから、父の次の代――私に託そうとしていたのだ。当時の私は、そこまで深く考えられていた訳ではなかったけれど。
「とはいえ、私の影響力というものがどれだけ持つかはわからないがな」
「お祖父様……」
「アルティア、例えどのようなことが起こっても忘れるな。お前には誇り高きオルファン侯爵家の血が流れているということを……それをどうか次の世代へと繋げてくれ。それが私の最期の願いだ」
「……わかりました」
あの時の私は、お祖父様の言葉にただ頷くことしかできなかった。
だけど今なら、その気持ちが少しだけわかる気がする。お祖父様は、とても大切なことを教えてくれたのだ。少なくとも父とは違い、尊敬できる人であったと今は思っている。
だから私は、オルファン侯爵家にいるのだ。その誇りを絶やさないために、私はお母様とともにこの忌まわしき家に縋りついている。
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