不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?

木山楽斗

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2.婚約者の心配

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「……イルリア、こんな所にいたのか」
「ロダルト様……」

 エムリーとの話が終わった後、私は学園の中庭で一人空を見上げていた。
 放課後ということもあって、辺りに人はいない。残っている人は、ごく少数といった所だろう。

 そんな時に私に話しかけてきたのは、婚約者であるロダルト様だ。
 彼は、少し不安そうな顔をして私のことを見ている。

「浮かない顔をしているけど、どうかしたのかい?」
「いえ……最近は色々とありましたから」

 ロダルト様の言葉に、私は短く返答を返す。
 浮かない顔をしている自覚などはなかった。エムリーの計画が打ち砕かれて、今はむしろ嬉しいはずであるというのに、どうして私はそんな顔をしているのだろうか。
 まあ、大きな出来事が終わって、力が抜けてしまっているというだけと考えるべきなのかもしれない。燃え尽き症候群のようなものだろうか。

「……色々と噂はあるけれど、僕はそのようなものは気にしていない。ああいうのは、君のことを知らない者達が言っているだけに過ぎないことだ」

 そこでロダルト様は、私の噂について触れてきた。
 エムリーが流した噂は、ひどいものである。それによって私が傷ついていると判断したのだろう。
 それに関して、悩んでいないという訳でもないため、ロダルト様の気遣いは嬉しかった。本当の私を理解してくれる人が一人でもいるなら、とてもありがたい。

「ありがとうございます、ロダルト様。そう言っていただけると、心が少し軽くなります」
「いや、婚約者のことを気遣うのは当然のことさ。これでも僕は紳士になることを目指しているからね」
「ロダルト様は、もう充分に紳士であると思いますよ」

 ロダルト様は、とても優しく穏和な人である。
 彼のような紳士的な人間がルヴィード子爵家を継いでくれるというのも、とても安心できる要素だ。彼が悪辣な人間であったならば、もっと考えなければならなかった所である。

「そういえば、君の妹――エムリー嬢の婚約が決まったみたいだね。僕の方にも手紙が届いたよ。おめでとう、と言っていいのかな?」
「ええ、そうですね。おめでたいことであるとは思っています。エムリー自身は、複雑な心境かもしれませんが」
「まあ、婚約というものが誰にとっても幸福なものであるとは限らないからね。婚約者次第という面もある訳だし」
「そういうことなら、私の婚約は幸福なものですね」
「それは光栄だね」

 それから私は、ロダルト様としばらくの間話し合っていた。
 良き婚約者を得られたことは、本当に幸運としか言いようがない。私は、そんなことを思うのだった。
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