不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?

木山楽斗

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59.驚くべき変化

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 マグナード様のご厚意で、私はビルドリム公爵家の別荘に招待された。
 森の中の別荘はとても涼しく、避暑地としては最適な場所だ。
 ちなみに、ブライト殿下とミレリア嬢も招待されている。例の件などで仲良くなった人達が、集まったという形だ。

「……驚きましたね。まさか、エムリー嬢を連れて来るなんて」
「ええ、私もこんなことになるとは思っていませんでした」
「以前までとは、本当に別人のようだ。記憶喪失……知識としては知っていましたが、実例を見るのは初めてです」

 そんな別荘に、私はエムリーを連れて来ていた。
 ここに来る前、実家で過ごしていたのだが、エムリーは私のことをかなり頼りにしていた。
 彼女を置いて行くのは忍びない。そう思った私は、マグナード様にお願いして、同行を許可してもらったのだ。

「そんなに違うものなのか?」
「ええ、以前の彼女はなんというか、野心に溢れる鋭い女性でしたから」
「それは信じられないな。今の彼女は、天真爛漫な少女でしかない」
「だから僕も驚いているんです」

 ブライト殿下やミレリア嬢は、以前のエムリーをそれ程よく知らない。
 故にマグナード様の驚きは、あまり伝わっていないのだろう。

 ちなみに、今のエムリーはミレリア嬢と一緒に花冠を作っている。
 かつての妹から考えると、まったく似合わない遊びだ。以前なら花を踏み潰すような性格だったはずなのだが。

「まあ、善良になったならそれでいいんじゃないか。このまま記憶を取り戻さない方が、イルリア嬢としてはいいんじゃないか」
「そういうものではないでしょう」
「だが、記憶を取り戻してもらう必要がどこにある? 以前の悪辣なエムリー嬢に戻ったら、また悪いことをするかもしれないんだぞ?」
「仮にそうだとしても、ブライト殿下の意見は無神経だと思ってしまいます」
「取り繕っても仕方ないだろう。お前は変な所で真面目だよな……」

 ブライト殿下は、とても実直な意見を出してくれた。
 彼の言っていることは、その通りであるような気もする。
 ただ、それでいいと心から思えないのもまた事実だ。これに関しては、難しい問題であるように思える。

「それについては、あまり考えないことにしています。そもそも、記憶がどうやったら戻るのかなんてわかりませんからね。天に任せるしかないことでしょう」
「まあ、それもそうか」

 結局の所、エムリーの記憶について考えることは意味がないことだ。
 私の判断によって、何かが変わることはない。悩んでも無駄なのだから、気軽に構えておくくらいが丁度いいだろう。
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