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73.一瞬の隙
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私とエムリーは、準備を終えて馬車の前に立っていた。
結局、この別荘での暮らしは、中途半端に終わってしまった。それは非常に、残念である。
ただ、とにかく今は安全第一だ。ルヴィード子爵家に戻り、守りを強固にする。それが今の私達に必要な措置だ。
「さてと、それではお二人とも気を付けて」
「護衛がいるし、遠回りしてでも人気が多い道を行かせるようにしている。とにかく安全なのが肝心だからな」
「お二人とも、ありがとうございます」
諸々の手配は、マグナード様やブライト殿下がしてくれた。
二人とも、とても頼りになる。その辺りは、流石公爵令息と王子といった所だろうか。
「……うん?」
「マグナード様、どうかされましたか?」
「いや、あれは……」
「え?」
マグナード様は、驚いたような顔をしていた。
それがどうしてなのか、私は彼の視線が向いている方向を見たことによって理解した。
そこには、とある男性がいる。彼の名前は、ロダルト・ラプトルト子爵令息。かつて私やエムリーの婚約者だった人だ。
「ロ、ロダルト様? どうして、こちらに?」
あまりに驚いたため、私は思わずそのような質問をしてしまった。
しかし、よく考えてみればそれは過ちだ。私がそのように問いかけてしまったため、周囲の判断は確実に遅れた。
私と彼が知り合いである。使用人達は、そう思ったことだろう。相手は身なり的には貴族であるし、それによって躊躇いが生まれた。
それは時間にしてみれば、一瞬だったかもしれない。しかし、ロダルト様が動き出すのには充分過ぎる時間だったといえるだろう。
ロダルト様は銀色に輝く刃を取り出した。彼はそのまま、こちらに向かってくる。
理由などはわからないが、ロダルト様は私を狙っているようだ。もしかして、一連の事件は全て彼が引き起こしたものだというのだろうか。
そんな風にともすれば呑気に考えている私の方に、ロダルト様は確実に近づいて来ていた。
私の時間は、驚く程にゆっくりと流れている。しかし思考と違って、肉体は動いてくれない。長く感じる時間は、ただ自分が逃げられないということを悟るためのものでしかなかった。
「イルリア……君は僕のものだ!」
「……させるかっ!」
私が思わず目を瞑ろうとした瞬間、マグナード様が動いたのが見えた。
彼は、私を庇うように前に立とうとしていたような気がする。
そして次の瞬間、鈍い音が聞こえてきた。恐らく、私以外の誰かの体にロダルト様の凶刃が突き刺さったのだろう。
結局、この別荘での暮らしは、中途半端に終わってしまった。それは非常に、残念である。
ただ、とにかく今は安全第一だ。ルヴィード子爵家に戻り、守りを強固にする。それが今の私達に必要な措置だ。
「さてと、それではお二人とも気を付けて」
「護衛がいるし、遠回りしてでも人気が多い道を行かせるようにしている。とにかく安全なのが肝心だからな」
「お二人とも、ありがとうございます」
諸々の手配は、マグナード様やブライト殿下がしてくれた。
二人とも、とても頼りになる。その辺りは、流石公爵令息と王子といった所だろうか。
「……うん?」
「マグナード様、どうかされましたか?」
「いや、あれは……」
「え?」
マグナード様は、驚いたような顔をしていた。
それがどうしてなのか、私は彼の視線が向いている方向を見たことによって理解した。
そこには、とある男性がいる。彼の名前は、ロダルト・ラプトルト子爵令息。かつて私やエムリーの婚約者だった人だ。
「ロ、ロダルト様? どうして、こちらに?」
あまりに驚いたため、私は思わずそのような質問をしてしまった。
しかし、よく考えてみればそれは過ちだ。私がそのように問いかけてしまったため、周囲の判断は確実に遅れた。
私と彼が知り合いである。使用人達は、そう思ったことだろう。相手は身なり的には貴族であるし、それによって躊躇いが生まれた。
それは時間にしてみれば、一瞬だったかもしれない。しかし、ロダルト様が動き出すのには充分過ぎる時間だったといえるだろう。
ロダルト様は銀色に輝く刃を取り出した。彼はそのまま、こちらに向かってくる。
理由などはわからないが、ロダルト様は私を狙っているようだ。もしかして、一連の事件は全て彼が引き起こしたものだというのだろうか。
そんな風にともすれば呑気に考えている私の方に、ロダルト様は確実に近づいて来ていた。
私の時間は、驚く程にゆっくりと流れている。しかし思考と違って、肉体は動いてくれない。長く感じる時間は、ただ自分が逃げられないということを悟るためのものでしかなかった。
「イルリア……君は僕のものだ!」
「……させるかっ!」
私が思わず目を瞑ろうとした瞬間、マグナード様が動いたのが見えた。
彼は、私を庇うように前に立とうとしていたような気がする。
そして次の瞬間、鈍い音が聞こえてきた。恐らく、私以外の誰かの体にロダルト様の凶刃が突き刺さったのだろう。
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