5 / 15
5.
しおりを挟む
「まあ、僕が言うのはおかしいかもしれませんが、とりあえず座りませんか? いつまでも立ちながら話すのもなんですし」
「あ、申し訳ありません」
「いえいえ、お気になさらず」
ずっと立ちながら話していたので、ゼルーグ殿下はそんな提案をしてきた。
これは、私の落ち度でしかない。本来であるなら、私の方からそういった提案をするべきであっただろう。
貴族としての振る舞いなどに関しては、本や教材などによって一応頭の中に入っている。だが、それを自由自在に引き出せる程の経験が私にはないのだ。
「あなたがどういった扱いを受けてきたかは僕もある程度知っています。ですから、あなたの振る舞いに関して、僕は特に気にしません。ですから、どうかあなたも無礼だとかそういったことはお気になさらないでください」
「で、でも……」
「そもそも無礼であるというなら、僕の方が無礼です。突然あなたを訪ねた訳ですからね」
「それは……」
ゼルーグ殿下は、私にとても優しかった。
無礼であっても構わない。そう言われると、気は幾分か楽になる。
とはいえ、こういうことを鵜呑みにして気を抜いていい訳はないだろう。相手は王族である。その意識は、常に持っているべきだ。
「というか、こう言っては失礼かもしれませんが、対人経験があまりないあなたがそこまで気が回るということに僕は驚いているくらいです」
「それに関しては、本で知識を得ていましたからですね」
「……本を読んだだけで、そこまで立ち振る舞いというものがわかるものなのですか?」
「それしかやることがなかったので……」
「なるほど……」
私の言葉に、ゼルーグ殿下は少し悲しそうな顔をした。
彼は、私の境遇を知っていると言っていた。閉じ込められていたという事実を改めて認識して、心を痛めてくれているのかもしれない。
やはり、彼は優しい人であるようだ。なんとなくそれは理解できた。
だが、それで彼を完全に信用できるという訳ではない。私を妻にしたいという要求がどういうことであるか、その真意を聞くまで油断することはできないのだ。
「さて、それでは僕がここに来た真意について語らなければなりませんね」
「ええ、お願いします」
「少々長い話になるかもしれません。構いませんか?」
「はい、問題ありません。ゼルーグ殿下のご都合が許す限り、こちらは大丈夫です」
「そうですか。それなら、まずは僕がとある人物にあったことから話すと致しましょう」
「とある人物?」
ゼルーグ殿下は、そこで穏やかな笑みを浮かべた。
その笑みには、少し儚いような印象がある。恐らく、彼があったその人物というのは、既に会えない人になっているのだろう。
そしてその人物とは、彼がここに来た理由だと考えられる。そう考えた時に浮かんでくる人物がいた。
しかし、本当にそうなのだろうか。そう思いながら、私は彼の言葉を待つのだった。
「あ、申し訳ありません」
「いえいえ、お気になさらず」
ずっと立ちながら話していたので、ゼルーグ殿下はそんな提案をしてきた。
これは、私の落ち度でしかない。本来であるなら、私の方からそういった提案をするべきであっただろう。
貴族としての振る舞いなどに関しては、本や教材などによって一応頭の中に入っている。だが、それを自由自在に引き出せる程の経験が私にはないのだ。
「あなたがどういった扱いを受けてきたかは僕もある程度知っています。ですから、あなたの振る舞いに関して、僕は特に気にしません。ですから、どうかあなたも無礼だとかそういったことはお気になさらないでください」
「で、でも……」
「そもそも無礼であるというなら、僕の方が無礼です。突然あなたを訪ねた訳ですからね」
「それは……」
ゼルーグ殿下は、私にとても優しかった。
無礼であっても構わない。そう言われると、気は幾分か楽になる。
とはいえ、こういうことを鵜呑みにして気を抜いていい訳はないだろう。相手は王族である。その意識は、常に持っているべきだ。
「というか、こう言っては失礼かもしれませんが、対人経験があまりないあなたがそこまで気が回るということに僕は驚いているくらいです」
「それに関しては、本で知識を得ていましたからですね」
「……本を読んだだけで、そこまで立ち振る舞いというものがわかるものなのですか?」
「それしかやることがなかったので……」
「なるほど……」
私の言葉に、ゼルーグ殿下は少し悲しそうな顔をした。
彼は、私の境遇を知っていると言っていた。閉じ込められていたという事実を改めて認識して、心を痛めてくれているのかもしれない。
やはり、彼は優しい人であるようだ。なんとなくそれは理解できた。
だが、それで彼を完全に信用できるという訳ではない。私を妻にしたいという要求がどういうことであるか、その真意を聞くまで油断することはできないのだ。
「さて、それでは僕がここに来た真意について語らなければなりませんね」
「ええ、お願いします」
「少々長い話になるかもしれません。構いませんか?」
「はい、問題ありません。ゼルーグ殿下のご都合が許す限り、こちらは大丈夫です」
「そうですか。それなら、まずは僕がとある人物にあったことから話すと致しましょう」
「とある人物?」
ゼルーグ殿下は、そこで穏やかな笑みを浮かべた。
その笑みには、少し儚いような印象がある。恐らく、彼があったその人物というのは、既に会えない人になっているのだろう。
そしてその人物とは、彼がここに来た理由だと考えられる。そう考えた時に浮かんでくる人物がいた。
しかし、本当にそうなのだろうか。そう思いながら、私は彼の言葉を待つのだった。
22
あなたにおすすめの小説
不愛想な婚約者のメガネをこっそりかけたら
柳葉うら
恋愛
男爵令嬢のアダリーシアは、婚約者で伯爵家の令息のエディングと上手くいっていない。ある日、エディングに会いに行ったアダリーシアは、エディングが置いていったメガネを出来心でかけてみることに。そんなアダリーシアの姿を見たエディングは――。
「か・わ・い・い~っ!!」
これまでの態度から一変して、アダリーシアのギャップにメロメロになるのだった。
出来心でメガネをかけたヒロインのギャップに、本当は溺愛しているのに不器用であるがゆえにぶっきらぼうに接してしまったヒーローがノックアウトされるお話。
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
【完結】「お前に聖女の資格はない!」→じゃあ隣国で王妃になりますね
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【全7話完結保証!】
聖王国の誇り高き聖女リリエルは、突如として婚約者であるルヴェール王国のルシアン王子から「偽聖女」の烙印を押され追放されてしまう。傷つきながらも母国へ帰ろうとするが、運命のいたずらで隣国エストレア新王国の策士と名高いエリオット王子と出会う。
「僕が君を守る代わりに、その力で僕を助けてほしい」
甘く微笑む彼に導かれ、戸惑いながらも新しい人生を歩み始めたリリエル。けれど、彼女を追い詰めた隣国の陰謀が再び迫り――!?
追放された聖女と策略家の王子が織りなす、甘く切ない逆転ロマンス・ファンタジー。
婚約破棄されたら兄のように慕っていた家庭教師に本気で口説かれはじめました
鳥花風星
恋愛
「他に一生涯かけて幸せにしたい人ができた。申し訳ないがローズ、君との婚約を取りやめさせてほしい」
十歳の頃に君のことが気に入ったからと一方的に婚約をせがまれたローズは、学園生活を送っていたとある日その婚約者であるケイロンに突然婚約解消を言い渡される。
悲しみに暮れるローズだったが、幼い頃から魔法の家庭教師をしてくれている兄のような存在のベルギアから猛烈アプローチが始まった!?
「ずっと諦めていたけれど、婚約解消になったならもう遠慮はしないよ。今は俺のことを兄のように思っているかもしれないしケイロンのことで頭がいっぱいかもしれないけれど、そんなこと忘れてしまうくらい君を大切にするし幸せにする」
ローズを一途に思い続けるベルギアの熱い思いが溢れたハッピーエンドな物語。
国王一家は堅実です
satomi
恋愛
オスメーモ王国…そこは国王一家は麗しくいつも輝かんばかりのドレスなどを身につけている。
その実態は、国王一家は国民と共に畑を耕したり、国民(子供)に読み書きを教えたり庶民的な生活をしている。
国王には現在愛する妻と双子の男女の子に恵まれ、幸せに生活している。
外部に行くときは着飾るが、領地に戻れば庶民的で非常に無駄遣いをしない王族である。
国庫は大事に。何故か、厨房担当のワーグが王家の子どもたちからの支持を得ている。
私の物をなんでも欲しがる義妹が、奪った下着に顔を埋めていた
ばぅ
恋愛
公爵令嬢フィオナは、義母と義妹シャルロッテがやってきて以来、屋敷での居場所を失っていた。
義母は冷たく、妹は何かとフィオナの物を欲しがる。ドレスに髪飾り、果ては流行りのコルセットまで――。
学園でも孤立し、ただ一人で過ごす日々。
しかも、妹から 「婚約者と別れて!」 と突然言い渡される。
……いったい、どうして?
そんな疑問を抱く中、 フィオナは偶然、妹が自分のコルセットに顔を埋めている衝撃の光景を目撃してしまい――!?
すべての誤解が解けたとき、孤独だった令嬢の人生は思わぬ方向へ動き出す!
誤解と愛が入り乱れる、波乱の姉妹ストーリー!
(※百合要素はありますが、完全な百合ではありません)
聖女は神の力を借りて病を治しますので、神の教えに背いた病でいまさら泣きついてきても、私は知りませんから!
甘い秋空
恋愛
神の教えに背いた病が広まり始めている中、私は聖女から外され、婚約も破棄されました。
唯一の理解者である王妃の指示によって、幽閉生活に入りましたが、そこには……
私がいなくなっても構わないと言ったのは、あなたの方ですよ?
睡蓮
恋愛
セレスとクレイは婚約関係にあった。しかし、セレスよりも他の女性に目移りしてしまったクレイは、ためらうこともなくセレスの事を婚約破棄の上で追放してしまう。お前などいてもいなくても構わないと別れの言葉を告げたクレイであったものの、後に全く同じ言葉をセレスから返されることとなることを、彼は知らないままであった…。
※全6話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる