「君の代わりはいくらでもいる」と言われたので、聖女をやめました。それで国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。

木山楽斗

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67.聖女の過去

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「もしよろしければ、参考までに聞かせていただけませんか? ルルメアさんが、どういう道を歩んできたのかを」
「え?」
「護衛対象に、こんなことを聞くのは間違っているのかもしれませんが、私は興味があるのです。先人がどのような道を歩いて来たのか、それを知ることで私は一つ成長できるのではないか、と思って……」

 そこで、マルギアスさんはそんなことを言ってきた。
 それは、理解できないことではない。私も一応は、成功者である。そんな私の話は、もしかしたらためになるものなのかもしれない。
 別に話すこと自体は構わない。別荘まではしばらくかかるそうだし、暇つぶしには丁度いいだろう。
 ただ、私の話がそんなにためになるとは思えない。私が聖女になるまでの道のりは、そんなに立派なものではないからだ。

「わかりました。でも、つまらない話だと思いますよ」
「ありがとうございます。つまらないなんて、そんなことはないと思いますよ」
「え、ええ」

 私の言葉に対して、マルギアスさんは笑ってくれた。それは、本当に眩しい笑みである。
 しかし、その期待を裏切ることにはなるだろう。私が聖女になるまで。その話を聞いて、大抵の人はあまりいい顔をしないからだ。

「実の所、別に大義だとか、そういうものがあって聖女になった訳ではないんです」
「大義などがない……それはつまり、ただ漠然と目標としてあっただけということですか?」
「……なんというか、私は生きるために聖女になったんです」
「生きるため?」

 私の説明に、マルギアスさんは首を傾げる。それは、そうだろう。こんなことを言われても、理解できるはずなんてない。
 ただ、最初にこれは言っておくべきことだ。なぜなら、その方が後の話がわかりやすくなるからである。

「私は、とある村の平民でした。父は私が生まれる前に事故で亡くなり、母と子の二人だけの農民。それが私の出自です」
「そうですか……」
「別に、それ自体は珍しいことではないと思います。でも、私は少し特別だったんです」
「特別?」
「ええ、私には人よりも莫大な魔力が宿っていたのです」

 マルギアスさんに話しながら、私は故郷のことを思い出す。
 あそこでの日々が幸福だったと聞かれると、それは少し微妙な所だ。どちからというと、悪い思い出の方が多いのである。

「それは、素晴らしいことだと思うかもしれません。でも、特別であることが、いいことであるとは限らないのです」
「……というと?」
「私の魔力は、人々から畏怖される対象だったんです」
「そんな……」

 私の言葉に、マルギアスさんは驚いていた。
 だが、これは紛れもない事実である。私はこの魔力のせいで、村の人達から恐れられていたのだ。
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