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プロローグ
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『適正がないと言われた俺が、受け継いだ勇者の力で悪魔たちを薙ぎ倒す話』
プロローグ
――フォーセルという領域……別の世界線では大地と呼称される世界がある。
そのフォーセルの秩序が、乱れつつあった。魔力という、摂理を超えた力で満ちた世界だ。人々に神秘の力をもたらす源となる魔力だが、それを根源とした魔素と呼ばれる存在が、秩序を乱す要因として利用されていた。
魔族、魔王――悪魔。それらの存在が大地に現れている。そして、それら魔のものと戦うのも、魔素を取り込んで強大な力を得る、勇者たちだ。
勇者たちを統べるのは、神の僕を名乗る集団だ。
世界の秩序を正すのは、人の手によって成されるべきだ。けっして超越者による、管理するかのような行為を許すべきではない――。
その想いを胸に、我は境界を越えた。二つの光球が、虚空に満ちる暗黒の世界からフォーセルへと飛び込んだ。
フォーセルにサローウェンという王国がある。
その一地方にあるカラドという小さな町では、年に一度の収穫祭が開催されていた。大通りには屋台が並び、芸人や吟遊詩人が、各々の技を披露していた。
そんな人波の中を、ひょろっとした青年が歩いていた。ラシドル・ノーランは小さな商店の跡取りだ。
パッとしない青年で、ぼんやりとした青い瞳は、頭上に垂れ下がった祭りの飾りへと向けられていた。
そんなラシドルの背後では、数人の町娘がヒソヒソとした会話を繰り広げていた。
(ほら、キャサリン。今なら誰もいないって。告白するなら今よ)
(で、でも……)
(この祭りで告白しなきゃ、いつするのよ)
そんな話をしている町娘たちの前で、ラシドルの身体が僅かに痙攣した。
町娘の何人かは、ラシドルの身体に、なにかが落ちて来たように見えた。町娘が固唾を呑んで見守っていると、少しふらつきながらラシドルが振り返った。
町娘たちの姿を目で捉えながら、ラシドルは「ふむ」と小さく声を発した。
(あの娘……キャサリンか。これは都合がよい)
ラシドルは町娘たちに近寄ると、キャサリンと向き合った。
「キャサリン……わたしには、君が必要だ」
「え……」
「つが……いや、婚姻を君としたい。受けてくれないか?」
「……はい」
あまりの展開に、状況が飲み込めないままキャサリンはうなづいた。
その数年後。
カラドの町にある、牧場を改築した織物場には、十数名の男女が黙々と仕事に取り組んでいた。
機織りは女の仕事――という概念はあるが、ラシドルは人を雇い、機織り機を複数台購入し、小規模ながら工場制手工業を興したのだ。
当初こそ不安定だったが、二年後には安定した生産力と品質のお陰で、町一番の収益を得るまでになっていた。
すっかり経営者としての風格を得たラシドルは、工場の前で五歳になったばかりの息子の手を引いていた。
自宅を兼ねた工場の前には、息子より一ヶ月早く娘が生まれた、鍛冶職人の家がある。その妻が、娘を連れて散歩をしていた。
「あら、ラシドル――こんにちは。奥様、二人目が出来たんですってね。おめでとうございます」
「こんにちは、マリーさん。ありがとうございます。それにしても、昨日に魔物が出たという話ですのに散歩ですか。うちは、ヌアダがどうしても――と、聞かなくて」
「うちもそうなんですよ。うちで大人しくして欲しいんですけどねぇ。でもヌアダは大きくなったら、勇者の試しをするのでしょう? フォルナから聞いてますよ」
「ははっ。どうも、そうらしいですね」
勇者の試しというのは、十五歳となった子どもが教会で受けることができる、儀式の一つだ。ここで適正の有無を判断して勇者としての道を歩む――のだが、一応は希望者のみが受けるという習わしになっている。
ラシドルは「へへへ」と笑うヌアダの頭を撫でながら、鷹揚に肩をすくめた。
その直後、町の端にある警鐘が鳴った。
「魔物だっ! 魔物が出たぞっ!!」
町の東に太ったトカゲを思わせる、巨大な魔物が現れた。二階建ての家屋を軽く超える巨体が、咆哮をあげながら町の中へと入ってきた。
ラシドルはフォルナを連れたマリーに、ヌアダを託した。
「……息子を連れて、避難を」
「ラシドル? あなたは――」
「わたしには、やることがあります」
「父ちゃん?」
戸惑うヌアダに、ラシドルはかすかに微笑んだ。
それから程なく、魔物は勇者が来る前に斃された。町の生存者は、誰もその光景を見ていない。無残に首が吹き飛んだ魔物だけが、何者かに斃されたという証拠として横たわっていた。
*
魔物が斃されたあと、ヌアダは父親であるラシドルを探していた。
「とうちゃぁああん!」
力場の光を発する鎧に身を包んだ勇者が、魔物の検分をしていた。
「どうやって斃したんだ……」
半ば呆然としている勇者の横を通り過ぎたヌアダは、血まみれで横たわった男の姿に足を止めた。
胴体に深い切り傷のあるラシドルは、誰が見ても絶命している。だが、ヌアダはそれを信じられなかった。
「とうちゃん……とうちゃんっ!」
ラシドルの身体を揺すぶるが、当然の如く反応はない。
何度も「とうちゃん」と呼びかけるヌアダは、涙を流しながら祈った。
(かみさま……どうか、とうちゃんを助けてください。お願いです、なんでもします。毎日、祈りを捧げます。とうちゃんとかあちゃんの手伝いもします。わがままいいません、だから……だから、とうちゃんを助けてください)
ヌアダは祈り続けたが、奇跡は起きなかった。
小さな光球がヌアダの周囲を回って、すぐに消えたが――そのことに、誰も気付かなかった。
-----------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
というわけで、新作です。中の人としては、始めてかもしれないと思う勇者物です。
しばらくは週一更新になると思いますが、気長にお付き合い下さいませ。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
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――フォーセルという領域……別の世界線では大地と呼称される世界がある。
そのフォーセルの秩序が、乱れつつあった。魔力という、摂理を超えた力で満ちた世界だ。人々に神秘の力をもたらす源となる魔力だが、それを根源とした魔素と呼ばれる存在が、秩序を乱す要因として利用されていた。
魔族、魔王――悪魔。それらの存在が大地に現れている。そして、それら魔のものと戦うのも、魔素を取り込んで強大な力を得る、勇者たちだ。
勇者たちを統べるのは、神の僕を名乗る集団だ。
世界の秩序を正すのは、人の手によって成されるべきだ。けっして超越者による、管理するかのような行為を許すべきではない――。
その想いを胸に、我は境界を越えた。二つの光球が、虚空に満ちる暗黒の世界からフォーセルへと飛び込んだ。
フォーセルにサローウェンという王国がある。
その一地方にあるカラドという小さな町では、年に一度の収穫祭が開催されていた。大通りには屋台が並び、芸人や吟遊詩人が、各々の技を披露していた。
そんな人波の中を、ひょろっとした青年が歩いていた。ラシドル・ノーランは小さな商店の跡取りだ。
パッとしない青年で、ぼんやりとした青い瞳は、頭上に垂れ下がった祭りの飾りへと向けられていた。
そんなラシドルの背後では、数人の町娘がヒソヒソとした会話を繰り広げていた。
(ほら、キャサリン。今なら誰もいないって。告白するなら今よ)
(で、でも……)
(この祭りで告白しなきゃ、いつするのよ)
そんな話をしている町娘たちの前で、ラシドルの身体が僅かに痙攣した。
町娘の何人かは、ラシドルの身体に、なにかが落ちて来たように見えた。町娘が固唾を呑んで見守っていると、少しふらつきながらラシドルが振り返った。
町娘たちの姿を目で捉えながら、ラシドルは「ふむ」と小さく声を発した。
(あの娘……キャサリンか。これは都合がよい)
ラシドルは町娘たちに近寄ると、キャサリンと向き合った。
「キャサリン……わたしには、君が必要だ」
「え……」
「つが……いや、婚姻を君としたい。受けてくれないか?」
「……はい」
あまりの展開に、状況が飲み込めないままキャサリンはうなづいた。
その数年後。
カラドの町にある、牧場を改築した織物場には、十数名の男女が黙々と仕事に取り組んでいた。
機織りは女の仕事――という概念はあるが、ラシドルは人を雇い、機織り機を複数台購入し、小規模ながら工場制手工業を興したのだ。
当初こそ不安定だったが、二年後には安定した生産力と品質のお陰で、町一番の収益を得るまでになっていた。
すっかり経営者としての風格を得たラシドルは、工場の前で五歳になったばかりの息子の手を引いていた。
自宅を兼ねた工場の前には、息子より一ヶ月早く娘が生まれた、鍛冶職人の家がある。その妻が、娘を連れて散歩をしていた。
「あら、ラシドル――こんにちは。奥様、二人目が出来たんですってね。おめでとうございます」
「こんにちは、マリーさん。ありがとうございます。それにしても、昨日に魔物が出たという話ですのに散歩ですか。うちは、ヌアダがどうしても――と、聞かなくて」
「うちもそうなんですよ。うちで大人しくして欲しいんですけどねぇ。でもヌアダは大きくなったら、勇者の試しをするのでしょう? フォルナから聞いてますよ」
「ははっ。どうも、そうらしいですね」
勇者の試しというのは、十五歳となった子どもが教会で受けることができる、儀式の一つだ。ここで適正の有無を判断して勇者としての道を歩む――のだが、一応は希望者のみが受けるという習わしになっている。
ラシドルは「へへへ」と笑うヌアダの頭を撫でながら、鷹揚に肩をすくめた。
その直後、町の端にある警鐘が鳴った。
「魔物だっ! 魔物が出たぞっ!!」
町の東に太ったトカゲを思わせる、巨大な魔物が現れた。二階建ての家屋を軽く超える巨体が、咆哮をあげながら町の中へと入ってきた。
ラシドルはフォルナを連れたマリーに、ヌアダを託した。
「……息子を連れて、避難を」
「ラシドル? あなたは――」
「わたしには、やることがあります」
「父ちゃん?」
戸惑うヌアダに、ラシドルはかすかに微笑んだ。
それから程なく、魔物は勇者が来る前に斃された。町の生存者は、誰もその光景を見ていない。無残に首が吹き飛んだ魔物だけが、何者かに斃されたという証拠として横たわっていた。
*
魔物が斃されたあと、ヌアダは父親であるラシドルを探していた。
「とうちゃぁああん!」
力場の光を発する鎧に身を包んだ勇者が、魔物の検分をしていた。
「どうやって斃したんだ……」
半ば呆然としている勇者の横を通り過ぎたヌアダは、血まみれで横たわった男の姿に足を止めた。
胴体に深い切り傷のあるラシドルは、誰が見ても絶命している。だが、ヌアダはそれを信じられなかった。
「とうちゃん……とうちゃんっ!」
ラシドルの身体を揺すぶるが、当然の如く反応はない。
何度も「とうちゃん」と呼びかけるヌアダは、涙を流しながら祈った。
(かみさま……どうか、とうちゃんを助けてください。お願いです、なんでもします。毎日、祈りを捧げます。とうちゃんとかあちゃんの手伝いもします。わがままいいません、だから……だから、とうちゃんを助けてください)
ヌアダは祈り続けたが、奇跡は起きなかった。
小さな光球がヌアダの周囲を回って、すぐに消えたが――そのことに、誰も気付かなかった。
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
というわけで、新作です。中の人としては、始めてかもしれないと思う勇者物です。
しばらくは週一更新になると思いますが、気長にお付き合い下さいませ。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
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