123 / 123
弟四章『地下に煌めく悪意の星々』
エピローグ
しおりを挟むエピローグ
ウーエイたちを逃した二日後、俺たちはウータムにある王城に召喚されていた。
謁見の間に並ぶ俺たちに、並んで座るハイン国王とエルサ姫が真っ直ぐな目を向けていた。
すでに俺たちと同行した騎士から話を聞いていたのだろう、ハイン国王は厳しい表情ながらも穏やかに告げた。
「クラネス・カーターを初めとした、勇敢なる者たちよ。此度の件、大義であった。逃がした者たちがいるとのことだが、それでも何人かを捕まえることができたのは、御主らの活躍があってのことだ」
「ありがとうございます。ただ、大物を取り逃したのは悔やまれます。これで諦めるとは思えませぬので、老婆心ながら申し上げますが、くれぐれも警戒を怠ることがなきよう、お願い申し上げます」
「ふむ。クラネスの忠告、わたしも同意見だ。二度と巫山戯た真似が出来ぬよう、奴らの侵入を防いでみせよう。それで、だ。そのためにも是非に、御主らの協力を願いたい。そのためにも、このウータムの近くにある土地を、新たな領地として譲渡をしようと考えておるが――受けてくれるか?」
「……それは」
俺に商人を辞めて、貴族として国を護れってことだ。
だけど、それは――今まで拒否し続けてきたことでもある。国王に対し、俺の意見は――不敬に当たるのだろうけど、ここで自分の願望を挫くのは、転生した命とはいえ――いや、転生した命だからこそ、自分の意志を曲げたくない。
俺は国王へ深々と頭を下げながら、口を開いた。
「折角のお誘いではありますが……わたしには荷が勝ちすぎます。ですが、その役目は、共に戦ってくれたエリー――フォンダント侯爵家の末娘こそ相応しいと考えます」
「クラネス……さん。それは――」
なにかを言いかけたエリーさんの発言を、俺は片手で制した。
「わたくしは、今後も助力を惜しみはしません。旅をすることで、情報収集をすることも可能でしょう」
「ふむ……なるほどな。フォンダント侯爵家の御令嬢殿。そなたの考えを聞きたい」
「わたくしは――」
言葉を途切れさせたエリーさんは、姿勢を正した。
「確かに、フォンダント侯爵家を存続させるためには、クラネスさんや国王様の案が最良なのでしょう。ですが、わたくしとしては、このままクラネスさんの隊商に同行したいと思っております。チャーンチの同行を探るため――わたくしの魔術は有用でしょう。ここラオン国は、わたくしが逃げ落ちた場所ではありますが、今やチャーンチの魔の手から身を護れる、安住の土地となりました。そのための努力を、続けさせて下さい」
エリーさんの返答に、ハイン国王は唸り声をあげた。
重く苦しい空気を払うように、国王の隣でエルサ姫がポンと手を打った。
「エレノア・フォンダント様の決意、このエルサは感服致しましたわ。逃げたチャーンチの動向も気になりますし、情報収集は国を護ることの要となりましょう。お父様――ここはむしろ、彼らを協力するべきだと思いますわ」
エルサ姫の意見を聞いて、ハイン国王は複雑な顔をした。
国防、人材の確保、そして恩義と忠誠心――それらを頭の中で天秤にかけたのだろう、ハイン国王は大きな溜息を吐いた。
「わかった。御主らの意志を尊重しよう。だが、奴らの動向は探ってもらうぞ。定期連絡の手段は、ミロス公爵から伝えさせよう」
「ありがとうござます。あともう一つ、お願いが御座います」
「……なんだ、申してみよ」
「はい。周辺国だけでなく、一つでも多くの国に、チャーンチや彼らの工作内容を伝えて欲しいのです。それにより、チャーンチ自体の活動を封じ込めることができるかもしれません」
「ふむ……要するに、チャーンチのことを周知させることで、共同で警戒をすることができると?」
「はい。ほかにも、多くの国が共同で、チャーンチに圧力をかけることもできるでしょう」
「なるほどな。巧くいくかはわからぬが、やってみる価値はあろう」
ハイン国王が小さく頷くと、報酬らしい革袋が渡されたことで、俺たちとの謁見が終わった。
さて――有言実行をしなくちゃな。俺は一種の覚悟を旨に、王城をあとにした。
*
夜の帳が降りた森の中を、一人の男が歩いていた。
王城の使用人が着ている服装が、泥や植物の汁で汚れている。疲労の濃い顔には、狂気の色が宿っていた。
頭髪の薄い、小太りの男は、木の幹に凭れながら、虚空を睨んだ。
「ダナ――ダナめ! このダレスが、仲間たちの恨みを――そうだ、このダレスが恨みを晴らしてやる!」
暗がりの中、男の口には狂気じみた笑みが浮かんでいた。
完
----------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
というわけで、エピローグでございます。次回は……これからプロットを作りますので、でき次第となります(滝汗
二週間前後お待ちください
自国で活動している工作員――スパイなどを警戒、むしろ捕縛や暗殺までするのが、国防としては正常な対応ですね。そのための要員を確保するのも重要になります。
情報戦の一つですね。
情報戦として効果の高いものは、同じことを繰り返して喧伝する――ことですね。現代ではマスメディアを通して行われます。
これはマスメディアを使えば、大勢の思考を、無意識に特定の方向へ誘導できますから。工作活動としては、もっとも簡単で、効果のある方法です。
これを得意としているのは、現実世界では隣の赤い国とその近隣の国なんですが。自国だけじゃなく、他国のマスコミや映像制作会社に自国の人間を送り込み、資金提供をし――ってやってたりします。
マーベルなんかもスポンサードになってたからか、中国推しな作品も多くなってましたしね。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
1
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ
のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
転生したら実は神の息子だった俺、無自覚のまま世界を救ってハーレム王になっていた件
fuwamofu
ファンタジー
ブラック企業で過労死した平凡サラリーマン・榊悠斗は、気づけば剣と魔法の異世界へ転生していた。
チート能力もない地味な村人として静かに暮らすはずだった……が、なぜか魔物が逃げ出し、勇者が跪き、王女がプロポーズ!?
実は神の息子で、世界最強の存在だったが、その力に本人だけが気づいていない。
「無自覚最強」な悠斗が巻き起こす勘違い系異世界英雄譚、ここに開幕!
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
弱者の庭〜引きこもり最強種専用施設の管理人始めました〜
自来也
ファンタジー
人間が好きすぎて魔界を追放された元・魔王。
世界を救って燃え尽き気味の元・勇者。
派手に振られて落ち込んでいる精霊王。
逆セクハラが過ぎて追放された千年狐。
可愛すぎて人間が苦手になった真竜。
戦場のトラウマで休養中の傭兵――。
そんな“最強だけどちょっとズレてる”面々が集まる、
異世界のちょっと変わった施設《弱者の庭》。
異世界転生してきた平凡な青年・アルキは、
このゆる〜い最強たちの管理人に任命されてしまった。
日常はバタバタだけど、どこかあたたかい。
そして――住人が一人、また一人と“卒業”を迎えていく。
傷ついた彼らと過ごすのんびりスローライフ。
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~
楠富 つかさ
ファンタジー
ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。
そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。
「やばい……これ、動けない……」
怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。
「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」
異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる