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弟四章『地下に煌めく悪意の星々』
四章-7
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森の中を、二つの影が進んでいた。
王城を脱出した、ダナと侍女だった女だ。追っ手の存在を気にしながら、街道から離れた森の中を、今は慎重に歩いていた。
星座の魔術が破られた理由、原因――それらの疑問が頭の中で渦を巻いていたが、二人とも口には出さなかった。
もし疑問を口にしたら、疲労と焦りから口論に発展しかねない。それを理解しているから、ダナたちは無言で森の中を進んでいた。
城を出てから、数時間――二人が高台に上がったとき、前から馬蹄の音が聞こえてきた。
「隠れましょう」
侍女の意見に、ダナは従った。
木の陰に隠れていると、茶色の毛並みを持つ馬がやってきた。馬上にいるのは、短く切り揃えた茶色の髪の青年だ。
ダナは木の陰から顔を出すと、擦れた声で青年に問いかけた。
「ウーエイ?」
「おまえは……王城に潜入していたはずだ」
下馬をしたウーエイが、ダナと侍女に駆け寄った。
「なにがあった?」
「わからない。星座の魔術が、効果を失ってしまった。そのせいで、わたしたちは……工作活動をしていたことが露見してしまった」
「それで、脱出したのか。よく無事で……それで、ほかの者たちは?」
「わからない。無事だといいんだが」
ダナが首を振ると、ウーエイは彼女の肩に手を添えた。
「わかった。我らは今、ラオン国の隠れ里に滞在している。ウータムへ向かったらしい隊商の行方を探しているが……今は、おまえたちの保護が優先だな」
ウーエイはダナたちに、手招きをしてみせた。
「船に戻ったら、詳しい話を聞かせてくれ。馬は一頭しかいないから、すまないが交互に乗ってくれ」
ウーエイに促されるままに、ダナと侍女は隠れ里へと向かった。
*
フレディと騎士の騎馬を先頭に、俺たちは森の中を進んでいた。俺たちの馬車を囲むように、騎馬に跨がった数人の兵士らが併走している。
目指すは前に、ユタさんに案内された隠れ里だ。
俺は〈舌打ちソナー〉で周囲を警戒していたが、先に隠れ里の門の反応が返ってきた。
「フレディ、そろそろ隠れ里だ!」
「承知――騎士殿、油断されぬよう」
「わかっている」
片手で長剣を抜くと、騎士は少しだけ馬の速度を上げた。
町の門の側にいた男が、驚いた顔で立ち上がるのが見えた。慌てて中に駆け込もうとした男に、俺は《力》を放った。
男が頭を押さえながら蹲る横を、騎士とフレディの騎馬が通り過ぎた。
少し遅れて町に入ると、密偵らしい男たちを含めた男たちが、驚いた顔をしていた。先頭を征く騎士が、高らかに告げた。
「我らはラオン国国王の命により、逃げた賊がいないか調べさせてもらう!」
「あの、騎士様。ここに賊など来ておりませんが」
「それは、我らで判断をする。女二人――もしくは、その仲間だ。隠し立てするようなら、ただではおかぬ」
騎士の指示で、兵士たちが家々を調べ始めた。俺は馬車から降りると、〈舌打ちソナー〉で周囲の様子を確かめた。
殆どの者は騎士や兵士の動向を、不安げにしろ静かに見守っている。そんな中で、海の方角へと進む五人の人影があった。二人は剣士、一人は無手の男。
そして二人は、女のようだった。
「フレディ、騎士様がた! 海の方角へ!!」
俺の一声で、フレディと騎士たちが動いた。
海の方角へと向かう五人を、騎馬に跨がった者が追いかけた。彼らに遅れて駆け出した俺のあとを、アリオナさんが付いて来た。
俺が追いついたとき、フレディと騎士の騎馬が、港へ向かう者たちの前に廻り込んだところだった。遅れて兵士たちが、五人を取り囲む。
五人を見回した騎士が、「やはりいたか、ダナ!」と声を荒げた。捕らえろ――という騎士の指示に、兵士たちが包囲の輪を縮めた。
そんな中、中年の男が杖を構えた。
こいつもチャーンチなら――魔術師か!
その可能性に思い立った俺は、即座に《力》を放ち、ヤツの周囲の音を消した。
「――っ!?」
自分の声が消えたことで、中年の男の顔が驚愕の色で染まった。
「キンペイン導師!? 声が消された? くそ――ダナたちは、船に逃げてろ!」
「ウーエイ、でも――」
「わたしたちは、あとで追いつく。早く行け!」
ウーエイと呼ばれた青年は素早く抜剣すると、迫る兵士の一角を崩した。
その崩れた隙間を、ダナと侍女らしい女が駆け抜ける。
「待て――くっ!」
馬首を巡らそうとした騎士に、背の低い剣士が抜剣した直後に斬りかかる。その一撃を馬上から受け流した騎士は、逃げるダナたちを気にしながらも、目の前の剣士から目を逸らさない。
今の一太刀で、目の前の剣士が油断ならぬ相手だと察したようだ。
その後ろでは、ウーエイの手で兵士たちが打ち倒されていく。俺は抜剣すると、ウーエイに向けて駆け出した。
「フレディ――逃げた二人を!」
俺の声に気付いたのか、ウーエイが振り返った。互いに同時に振られた剣がかち合った直後、ウーエイの目が見開かれた。
「おまえ――はっ!?」
ああ……確か、ホウの港で盗人に革袋を盗まれたヤツか。あいつが……こいつがウーエイか。普通なら少しは驚いたり、戸惑ったりするところだろう。だが今の俺は、そんな感情なんか微塵も湧いていない。
敵であるチャーンチに対して、かける情というものなんか失っている。敵となった以上、完膚なきまでに打ち倒すまでだ。
「おまえ、兵士だったのか!?」
的外れなことを問われたが、返答するつもりも、義務もない。相手の剣を弾くと、俺はすかさず二撃目を打ち込んだ。
それにも対応したウーエイは、俺の剣を受け流そうとした――だが、俺だって無策で打ち込んでいない。
剣を振りきる勢いを無理矢理殺し、流される寸前の切っ先の進路を強引に変えた。
身体を大きく反らすように捻りつつ、腕を斜めに振り上げた。切っ先がウーエイの頬を弾く。
強引にやり過ぎて、刀身の刃でなく腹が当たってしまった。頬に浅い傷をつけただけに終わってしまった。
「クラネスくん、無事!?」
遅れてやってきたアリオナさんに、応じる余裕はない。
舌打ちしながら間合いを広げると、中年剣士がウーエイと背中合わせになった。
「ウーエイ。ここは退くぞ。キンペイン導師も、いいですな」
「しかし――どうやって」
「任せろ。ウーエイは騎士の相手を頼む」
剣士の言葉を切っ掛けに、二人は相手を切り替えた。
ウーエイは騎士に、そして剣士は俺に迫ってきた。剣士が繰り出す素早い連撃に、俺は防戦一方になった。
ただ、素早いだけで一撃の威力はない。それに動きも読みやすいから、後ろに下がりながらなら、防ぐのも容易い。
大振りの一撃を、俺は余裕で受け流した。後ろに跳んだ俺が着地をした瞬間、剣士が素早く横に動いた。
「きゃっ!?」
アリオナさんを背後から羽交い締めにした剣士は、右手の長剣を顔に寄せた。
「動くな――我らが逃げるまで、全員動くなよ。下手に動けば、この娘の命はない」
剣士は俺たちを脅しながら、ウーエイたちを振り返った。
「ウーエイ、早く行け!」
「ヴェム――わかった。すぐに追いついてこい!」
ウーエイが魔術師を連れて走り去ろうとしたとき、「やあぁぁぁっ!!」というアリオナさんの気合いが籠もった叫び声が響いた。
アリオナさんの両腕が、ヴェムという剣士の腕を呆気なく押し広げた。そして剣を持つ右腕を両手で掴むと、そのまま無造作にぶん投げた。
「ぐおっ!」
ヴェムが地面に倒れ込むと、ウーエイが振り返った。
「ヴェム!」
「き、気にするな、行け!!」
ウーエイに叫ぶヴェムへ、俺は間合いを詰めながら怒鳴った。
「てめえ――アリオナさんに、なにをしやがるっ!!」
羽交い締めなんてしやがって。俺は長剣をヴェムの右肩に突き立てた。そして、刀身を指で弾き、《力》を放つ。
「ぐ――っ!」
苦悶の声を挙げ、ヴェムは意識を失った。
動かなくなったヴェムを逃げながら見ていたのか、ウーエイが俺を睨んできた。
「貴様っ! 絶対に許さない――許さないからなっ!!」
魔術師に急かされ、ウーエイは港へと走り去っていった。
騎士は騎馬の馬首を巡らしたものの、二人を追いかけようとはしなかった。見れば、騎士の左腕から血が滴り落ちていた。
どうやら、鎧の隙間に一撃を受けたらしい。
俺は騎士にヴェムの拘束を頼むと、アリオナさんとウーエイを追いかけた。港ではフレディが、密偵らしい三人の男たちと剣を交えていた。
港には、ウーエイはもちろん、ダナたちの姿がなかった。
海上を進む小舟には、数人の人影が見えた。俺はフレディに剣を向ける三人に、《力》を放った。
衝撃を受けて動きを止めた三人に、フレディが剣の柄で一撃を加えていく。それで男たちが気を失うと、フレディは俺たちの元へ駆け寄った。
「若――申し訳ありません。逃がしました」
「まあ、あれは仕方ないでしょ。一対三で邪魔されたわけだし」
俺は洋上に浮かぶ帆船を見ながら、《力》を使おうか悩んだ。しかし、ここで《力》を使うと全員殺すしかない。無関係な者がいるか判断できない以上、そこまでやるのは気が引ける。
禍根そのものである帆船を、俺はしばらく睨み続けた。
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
禍根の残った終わりとなったわけですが。これでウーエイに、打倒クラネスへの明確な動機ができたわけですね。
余談ですが流石のクラネスも、ここでは女装してません。
一応、念のため。
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
次回もよろしくお願いします!
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よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
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