最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか

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弟四章『地下に煌めく悪意の星々』

四章-6

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   6

 王城の中は、大捕物の様相となっていた。
 地下にある星座の魔方陣を破壊――俺とアリオナさんの共同作業である――してから、一時間も経っていない。
 こんなに早く騒ぎになるとは思っていなかった。
 こうなると、見つかる前に逃げだそうとする者が出てくるはずだ。
 俺たちは手分けをして、アマンサを探した。
 侍女が集まる炊事場と出入り口、そして裏口である地下通路への出入り口――の三箇所を同時に探し、いなければそこから王城全体を捜索する――そんな段取りだ。
 アリオナさんは、フレディと。エリーさんはクレイシー。そして、俺は単独での行動となった。これは純粋に、戦力差で割り振ったチーム分けだ。
 俺の担当は、炊事場だ。
 慣れないスカートでは、走り難くて仕方が無い。だけど、今は時は金なり、だ。炊事場へと駆け込むと、料理人や使用人たちが不安げな顔をしていた。
 炊事場を見回すと、一番奥にある大鍋の影に隠れるように、アマンサが辺りの様子を伺っていた。


「アマンサさん、王城が騒がしいですが、なにかあったんですか?」


「さ、さあ……あたしにもわからないよ」


「そうですか、少し聞いてみましょうか」


「え? あ、ちょっと……」


 俺はアマンサの制止を無視して、廊下にいる衛兵に近寄った。〈舌打ちソナー〉で監視を続けている限りでは、アマンサはまだ先ほどの場所から動いていない。
 俺は衛兵に、そっと耳打ちをした。


「アマンサという使用人が、チャーンチの一員なんです」


「なに? 本当か?」


「……はい。エルサ姫様に近しい女の衛兵と親しいようですので、彼女の名を使って呼び出しましょう」


「……ダナ、か。わかった。頼んで良いか?」


「お任せを。悟られぬよう、三、四人ほど衛兵を集めて下さい」


 俺が軽く頭を下げると、衛兵は小走りに去って行った。
 衛兵が近くにいた仲間たちに声をかける姿を見てから、俺は炊事場に戻った。《力》で声質を女性のものに変えながら、アマンサに話しかけた。


「アマンサさん、聞いてきましたよ」


「……それで、なにが起きてるんだい?」


「王城に賊が入ったようです。それで、衛兵のダナという女性が、アマンサさんを探していると言っていました」


「ダナが? あ……ああ、あの衛兵さんだね。ええっと、それではちょっと行ってくるかね」


「さっきの衛兵さんに、案内をして貰ったほうが早いかもしれませんよ。まだ、その辺りに居るかも……」


「あ、ああ……参考にさせてもらうよ。それじゃ、行ってくるとするか」


 炊事場から出て行くアマンサの後ろを、俺は少し離れてついて行った。
 アマンサが炊事場を出た瞬間に、五人の衛兵がアマンサを取り囲んだ。即座に状況が理解できなかったのか、戸惑いの顔を浮かべていた。
 しかし、すぐに衛兵たちの鬼気迫る気配に気付いたのか、踵を返した。だけど、俺だってそれを警戒して、あとを付いて来たんだ。
 指を鳴らした音に、〈範囲指定〉をした《力》を込めた。《力》による衝撃に襲われ、アマンサの身体が痙攣したかのように震えた。


「あ――くぅ……」


 顔を顰めながら苦悶の声を漏らすアマンサが、足を止めた。
 そこへ、衛兵たちがアマンサを取り囲んだ。俺はアマンサの背後へ移動すると、自分の声を変えずに、衛兵たちへ忠告を告げた。


「アマンサは魔術を使えるかもしれませんから、口に猿ぐつわを」


「ああ、わかった」


 衛兵の一人が、アマンサに束縛用の縄を猿ぐつわの代用にした。
 連行されるアマンサを眺めつつ、俺は《力》で周囲の声を拾い始めた。周囲に怪しい会話はない。俺は声を拾う範囲を変えながら、二階へと向かった。
 階段を登り切って会話などを拾っていると、独り言らしい男の声が聞こえてきた。


『くそ――こんなときに、ダナたちは何処へ行ったんだ』


 声の主は、西側の廊下か。俺が早足にそちらへ向かうと、微かに汚物臭が漂って来た。 男は雨戸が開けられた窓から、しきりに外を見ている。横には鳥かごがあるが、その中は空だ。
 俺はそっと近寄ると、《力》で自分の声を女性のものに変えた。


「すいません……ダナという衛兵さんのお知り合いですか?」


「アマンサ……あ、ああ。そうだ。ダ――その衛兵とは、よく喋るんだ。それで、なにか言っていたか?」


「用があるので、あなたを呼んで来て欲しいと。御案内しますので、一緒にどうぞ」


「あ、ああ。頼む」


 俺は男を連れて、一階へと降りた。
 そこで階段を降りたところで、フレディとアリオナさんと会うことができた。三人で目配せをした俺は、指で小さく後ろの男を示した。
 俺は男に、「こっちです」と先を促した。フレディとアリオナさんが、俺たちの後ろに付いた。
 俺は十字路で足を止めると、男を振り返った。


「すいません、ちょっといいですか?」


「なんだ?」


 男が立ち止まりながら、訝しげに眉を顰めた。この立ち振る舞い――少なくとも武人の類いではないだろう。工作員だから、戦う力より諜報活動に特化してるんだろう。
 俺は男の顔を見ながら、素早く間合いを詰め、腹部に拳を喰らわせた。
 苦悶の声をあげた男を、背後からフレディとアリオナさんが後ろから拘束した。両腕を捻り上げられ、力任せに床へと押さえつけた。
 フレディもなかなかの腕力があるけど、やはりアリオナさんの力には逆らえないようだ。
 俯せになる形で床に押さえつけられると、俺は近くの衛兵を呼んだ。


「彼も賊です。アマンサの仲間ですから、別々にして下さい。なにか相談をされても、困りますし」


「……わかった。だが、なぜわかった?」


「……情報源があったので。今は、彼を牢屋に」


「ああ」


 衛兵が男を縛り上げる。男は衛兵たちに引っ張られるように立ち上がった。
 衛兵たちに連行される途中、男は俺を振り返った。


「おいっ! 情報源って、ダナのことか!?」


 男の問いに答えず、俺は視線を逸らした。
 そんな態度に、男は怒鳴り声をあげ続けた。


「くそ! ダナなんだな。あいつ、裏切りやがったっ!! ちくしょう!」


 やけに大声を張り上げる男が連れて行かれるのを、俺は目で追っていた。
 恐らく――あの怒鳴り声は、仲間に情報を伝えるためのものだ。例え違っていたとしても、そう思って行動したほうがいいだろう。
 俺は〈舌打ちソナー〉で、王城の周囲を中心に反応を見た。あの声を聞いて王城を出た者は、工作員の可能性が高い。


「フレディ、アリオナさんと城の出入り口を見張って。俺はエリーさんとクレイシーに王城の外縁を見張るよう言ってから、上の階を調べて来る」


「承知しました」


 フレディとアリオナさんが庭へ向かうのを見送りつつ、俺はエリーさんたちを探した。



 アマンサと諜報員らしい男を捕まえてから、約一時間後。
 俺たちが捕らえたチャーンチは、アマンサを含めて五名となった。その途中で衛兵を率いたエルサ姫と出会い、諸々があったあと――。
 俺たちは国王とエルサ姫と謁見をすることになった。エリーさんが、エルサ姫に挨拶をしたのが切っ掛けだったんだけど。
 それはまあ、いいんだけど――。
 謁見の間は、かなりビミョーな空気が流れていた。
 床に跪いた俺たちに、ハイン国王はなにかを堪えるような顔で告げた。


「此度、我が娘を操った不届き者らを……だ、捕らえることに尽力した、そなたらには感謝の念、しかない……わけだが」


 そこまで告げて、ハイン国王は今まで堪えていた感情を、押さえきれなくなったらしい。


「いやしかし、そのために女装まで、する、するとは――流石、ミロスが目を掛けているだけのことはある、な!」


 所々、吹き出すように笑い声を漏らすハイン国王に、ミロス公爵も笑みを堪えきれずに、深々と頭を垂れた。


「お褒めに預かり、光栄に御座います! 我が甥っ子がお役に立てたようでなにより!」


「ええ、ミロス公爵様。本当に……フフ。エ――エリー様にも、大変なご苦労を……プッ……させてしまいましたね。し、失礼」


「いえ。エルサ姫のお助けができて、光栄ですわ」


「ええ、ありがとうございます……フフ」


 エルサ姫も笑いを漏らしているが……それもこれも、すべて俺が女装をしたままだからなんだけどね。
 かつらは取っているから、男であることは丸わかりだ。それが化粧をしたままの顔で謁見しているのだから、笑いを堪えたくなるのもわかる。

 ……納得はしないけど。

 大体、俺を女装させた張本人である、ミロス公爵に笑われるのは釈然としないというか、甚だ理不尽な展開じゃないかと思う。
 実はさっきも、


「よく似合っているではないか! おまえがその気なら、そっちの仕事も紹介するぞ」


 などと言ってきやがった。
 態度には出さなかったと思うけど、その勧めは丁重にお断りをした。
 そんな屈辱に満ちた雰囲気だったが、ハイン国王は真顔になった。


「して、オーランという者から話は聞いているが――チャーンチという集団は、このラオン国に入り込んでいるのだな?」


 ハイン国王の問いに、俺は大きく頷いた。


「はい。ダナという衛兵やエルサ姫の侍女だった者たちは、捕らえておりません。逃げられたようですので、彼女らの捜索をせねばなりません」


「ふむ。それは我が騎士団にも捜索をさせるが――クラネスといったな。そなたらの力も借りたい」


「はい。元より、そのつもりでございます。追跡をするには時間が経っておりますが、奴らの仲間と思しき船が、港町の周囲を彷徨いておりました。我々は、海岸のある北を捜索するつもりです」


「なるほどな。わかった。騎士と兵士を数名、同行させよう。北の捜索は任せよう。ほかの騎士たちには、ほかの場所を捜索させる。我が国だけではない、周辺国の安全のためにも、動乱の種を潰さねばならん。御主らの活躍を期待しておるぞ」


 ハイン国王の言葉に、俺たちはただ、畏まったまま深々と頷いた。

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

クラネス君、てーそーのピンチでしたね。最後の部分。

最大のピンチは回避――ですが、まだ解決はしていない状況です。いやクラネスのことではなく、チャーンチ関係のことですよ?

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回もよろしくお願いします!
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