最凶と呼ばれる音声使いに転生したけど、戦いとか面倒だから厨房馬車(キッチンカー)で生計をたてます

わたなべ ゆたか

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四章-3

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   3

 俺の前に立ちはだかったのは、頬に傷のある茶髪の男と、やや小太りで禿げた男だ。
 二人とも薄汚れたチェニックやズボンを履いて、革製のブーツを履いていた。町の住人にしては、手にした短剣や手斧が物騒過ぎる。


「ここから先へは、行かせねぇぜ?」


「そうそう。こんな時間じゃ、出歩いてるヤツも少ないしな。殺したって、明日の朝まではバレねぇよ」


 にやけた笑みを浮かべた〈小太り〉は、俺に丸めた羊皮紙を投げて寄越してきた。


「あの小娘を助けたければ、そこに書かれた場所に来い。それと、そこに書かれた物も一緒に――」


 俺は〈小太り〉の言葉を、最後まで聞いていなかった。
 右足で思いっきり、地面を叩き付けた。同時に、〈範囲指定〉をしながら、〈固有振動数の指定〉をされた音波を放った。
 言葉の途中で《力》を込めた音波を受けた〈小太り〉は、全身を硬直させながら、仰向けに倒れた。


「なっ――おい、どうした!?」


 相棒を振り返った〈茶髪〉の隙を突いて、俺は一息で間合いを詰めた。至近距離から、俺は指を鳴らした。
 手加減なんか、してやらない。〈茶髪〉の太股のみ影響が出るように〈範囲指定〉と〈威力強化〉、そして〈固有振動数の指定〉を複合した音波を喰らわせた。
 俺の力は音と声を操る《力》だ。距離が遠ければ、それだけ効果が落ちる。接近すれば、それだけ本来の威力を与えられる。
 俺の《力》を受けた男のズボンが、左右の太股のところで赤く染まった。音波が〈茶髪〉の太股の皮膚と肉をズタズタにしたんだ。
 両膝からしゃがみ込んだ〈茶髪〉は驚愕の表情で、俺を見た。


「て、てめぇ……なにをしやがったっ!」


 怒鳴りながら、〈茶髪〉は短剣を無茶苦茶に振り回した。
 俺は安全な距離まで離れてから、もう一度、指を鳴らした。さっきと同じ《力》が、今度は〈茶髪〉の右腕全体をズタボロにした。


「ぐああああっ!!」


 痛みに短剣を落とした〈茶髪〉から視線を逸らした俺は、舌打ちをしながら、そのまま〈小太り〉が落とした手斧を拾い上げた。
 苦悶の表情を浮かべる〈茶髪〉の目には、怒りと怯えが入り交じっていた。割合としては、二対八くらいか。
 俺は背後から手斧の刃ではなく、背の部分を男の左腕の押しつけた。


「アリオナさんを、どこへ連れて行ったか話せ」


「は!? てめえ、巫山戯てんのか? 羊皮紙に書かれた場所で取り引き――」


 俺は回答ではない言葉の途中で、手斧の刃を指で弾いた。先ほどと同じ複合の《力》が、〈茶髪〉の左腕の肉を浅く抉った。
 激痛に短い叫び声をあげた〈茶髪〉が身体を仰け反ると、俺は舌打ちをしながら、手斧の背を鼻孔に押しつけた。


「質問に答えろ」


「てめぇ……言っておくが、俺たちが戻らなきゃ、あの餓鬼はさんざんなぶった上で殺――」


「余計なことは喋るな。質問に答えないなら――」


 効果的に言葉を途切れさせてから、俺は手斧の刃を指で弾く。かなり限定的な《力》を受け、〈茶髪〉の鼻孔から鼻血が垂れ始めた。
 そして今度は、鈍い痛みに顔を顰める〈茶髪〉の頭を手で押さえながら、口に手斧の背を宛がった。


「今のヤツを喉の奥に放つ」


「な――なにを言ってやがる。意味がわからねぇぞ」


「この程度の想像力もないなら、教えてやるよ。さっき鼻血を出させた攻撃を喉に受けると、少なくとも二十日程度は、飲み食いできなくなる。なにかを飲んだり、食べたりしても、飲み込めなくなるからな。
 おまえは二十日間、ほとんど飲み食いできないまま、飢えで苦しみながら死んでいくんだよ」


 ここで初めて、〈茶髪〉の顔に恐怖が浮かんだ。


「な――そこまでできるって言うのかよ」


「鼻血を出させたのなんか、最弱の力でしかないからな。その程度なら、余裕でできる」


 もちろん、これは嘘だ。
 ただし、嘘というのは『最弱』の部分だけど。威力はそれこそ、肌で感じない程度から、最大で高さ一〇ミクン(約九メートル八〇センチ)以上もある岩石を、粉々にするまでは経験済みだ。
 昏倒した相棒、そして自分の両脚と両腕、それに鼻血と、俺の《力》を目の当たりにした〈茶髪〉が、生唾を飲む音が聞こえてきた。
 俺は感情を押し殺した声で、尋問を続けた。


「素直に話せば、命だけは助けてやる。最終的には、町の兵士に引き渡しはするけどな。飢えで苦しむよりは、マシだろ。わかったら、さっさと話せ」


「本当……なんだな?」


「ああ。その代わり、嘘を言ったら容赦しない」


 俺の返答に、〈茶髪〉は躊躇いつつも喋り始めた。


「あの女は……ホマ山にある、大昔の砦跡だ。そこが俺たち《血の女豹》のアジトになってる。かなり目立つから、行けばわかる」


 答えたあとで大きく息を吐いた〈茶髪〉から、俺が手斧を離したとき、隊商側からフレディが駆け寄って来るのが見えた。


「――若っ!」


 来るのが遅い――と思いたかったが、護衛の傭兵たちだって夕食や仮眠は必要だ。それに盗人の警戒はしていても、町中の騒動にまで気を配るのは難しい。
 俺はフレディを振り返ると、短く告げた。


「この二人を拘束して」


「なにがあったんですか?」


「……アリオナさんが、連れ去られた」


 俺は短く答えてから、舌打ちをした。アリオナさんを連れ去った馬車は、もう〈舌打ちソナー〉でも捉えきれない距離まで行ってしまった。
 俺は〈茶髪〉動きを封じながら、〈舌打ちソナー〉で馬車の位置を確認してた。そのときにはもう、走っても追いつけない距離だった。
 だから俺は〈茶髪〉を気絶させることから、尋問に切り替えたんだ。


「フレディ。二人を馬車の後ろに繋いでおいて」


「……町の衛兵に引き渡すのでは?」


「それは、この男の言ったことが真実か、わかってからだよ。嘘を言っていたら、即座に殺すから。あと、馬を貸して」


「若……なにをなさるおつもりですか?」


 もう俺のすることを察しているらしく、フレディの表情は固かった。この先の言動まで容易に想像ができるが、だからといって意志を曲げるつもりはない。


「もちろん、アリオナさんを助けに行く。明日の朝、フレディはユタさんと隊商を率いて、予定通り次の町へ行って」


「若――その指示には従えません。アリオナ嬢の救出へ行くなら、わたくしも参ります」


 多分、俺を怒鳴りつけたかったんだと思う。フレディの声は、強く感情を押し殺したように聞こえた。
 でも、その提案を飲む訳にはいかなかった。この件は、俺の油断と不手際が招いたことだ。ほかの商人たちに、不利益を強いる訳にはいかない。
 俺はまっすぐにフレディを見据えながら、やや早口に指示を出した。


「駄目だ。商人たちの商売に悪影響を出す訳にはいかない。それに、俺一人のほうが動きやすい」


「しかし若――っ!」


 フレディが反論を述べようとしたとき、数人分の足音が近づいて来た。
 騒ぎを聞きつけた衛兵かとも思ったが、振り返ってみれば足音のヌシはアランたち一行だった。
 冒険者の店も近かったから、野次馬に来たのかもしれない。
 酒を飲んでいるのか、やや赤ら顔のアランが、俺を見て怪訝な顔をした。


「なんだよ、おまえらか。なにかあったのか?」


 俺が簡単に事情を説明すると、アランは呆れた顔をした。


「だから気をつけろって言ったろ」


「……わかってる。責任は俺にあるから、一人で助けに行くんだ」


「駄目です! 若を一人で、山賊どものアジトになんて向かわせられません」


 フレディとのやりとりは、平行線を辿りそうだ。なにか横からの一撃を加えないと、時間の浪費にしかならない。
 なにかないか――と考えると、俺の脳裏に一つの閃きが差し込んだ。


「なら、アランたちを雇って、一緒に行って貰う。それなら良いよね」


「な――」


「はぁ?」


 驚くフレディと、目を点にしながらぽかんと口を開けるアレン。俺はアレンたちへ向き直ると、腰から革袋を外した。


「アリオナさんを救い出すため、山賊のアジトへ行く。アランたちには、その援護を頼みたい。これは、前金。成功報酬に、銀貨五〇〇枚を払うけど、どう?」


「若、それは借金の返済用では――」 


 俺はフレディの発言を手で制すと、アランたちの返答を待った。


「わたしは構わんぞ。婦女子を護るというのも、神の思し召しだろうて」


「あたしも。クラネス君が冒険者を雇うなんて、こんな珍しいこと滅多にないもの」


 チューイとマリーは即座に賛成してくれた。グラガンはそのあと、無言で小さく頷いただけだ。これは、賛成ってことでいいと思う。
 アランはちょっと迷ってから、大きく肩を揺さぶった。


「ま、いいだろ。貸し一つを込めて良いなら、乗ってやるさ。フレディさんよ、それでいいか?」


 アランに問われ、フレディは躊躇うような表情を浮かべながら、大きく息を吐いた。


「若が……それでいいと仰有るなら」


 渋々といった感は否めないけど、言質は取れた。
 俺は急いで長剣などを準備すると、厨房馬車の御者台へと上がった。

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

冒険者との共闘ルート突入です。これから、ラスボス戦へ突貫することになります。

どうか、最後までお付き合い下さいませ。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

次回も宜しくお願いします!
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