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第二章『生き写しの少女とゴーストの未練』
三章-7
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金属製のドアを開けると、先ず埃っぽさが鼻孔を擽った。
開かれたドアの中にマルドーが憑依した猫が入ると、周囲に燭台などの照明器具もないのに、家の中が急に明るくなった。
入ってすぐの部屋は居間だったらしくテーブルや椅子のほかに、なにか植物の名残が周囲に散っている花瓶や、陶器の食器なども置いてある。
自宅に戻った早々に、マルドーはエリーさんの使い魔から抜け出た。
〝資料はこっちだ〟
手招きするマルドーに、俺たちは一番奥の部屋へと案内された。ここのドアは木製だったからか、開けようとドアノブを押しただけで、蝶番のところが砕けてしまった。
……これ、弁償とかしなくていいよな?
マルドーは『仕方ない』というような素振りで、肩を竦めただけだ。責められていないから、弁償もしなくていいと思っていい……んだよね、これ。
あまり広くない室内の壁際には、本棚で埋まっていた。床には蟹かが描かれているが、積もった埃で隠れていて、正確な姿は窺えない。
「これ……すべてが魔道書や魔術の書籍なんですか?」
少し興奮気味なエリーさんに、マルドーは躊躇いがちに〝まあな〟と答えた。
〝魔術を志す者としては、少ないほうだけどな。星座に関するのは、このあたりだ〟
マルドーが左前にある本棚の書籍に手を伸ばすが、指先が背表紙をすり抜けてしまった。
〝ああ……しまったな〟
少し寂しそうに自分の手を見つめたマルドーは、エリーさんに三段目の棚を示した。
〝ここの三、四冊くらいに星座に関することが書かれていた……と思う。悪いが、調べてみてくれ〟
「ええ。畏まりましたわ」
エリーさんはかなり慎重に、魔道書に一冊を手に取った。
解読と調査は、専門であるエリーさんに任せるしかない。メリィさんは、エリーさんを手伝って次の書籍を本棚から出したり、羊皮紙に要点をメモ書きしたりしている。
マルドーは魔物の核を眺めていたが、
〝これは星座の魔術は関係なさそうだな。調べるには……詳細を探るには、魔法生物に関する書物を調べねぇと、わからないな〟
と言って、本棚にある一〇冊くらいの書籍を俺たちに示した。
調べてくれってことみたいだけど……エリーさん以外は、魔術に関しては素人だ。そのエリーさんが星座のことを調べている以上、すぐに調べるのは無理だ。
本棚から書籍だけを出して、あとはエリーさん待ちだ。
そんなわけで、俺やアリオナさんは暇になってしまった。
部屋の外と、念のためなんだとうけど、マルドーを警戒するフレディは気を張っているけど、俺はもう睡魔に襲われそうになっていた。
床に座って本棚の角に背中を預けていると、俺の右側に廻った我リアリオナさんが、窘めるような顔を向けてきた。
「クラネスくん、寝ちゃだめだよ?」
「いや……そうは言っても、暇で」
アリオナさんに答えたとき、俺は部屋の中央付近の床が、少し盛り上がっていることに気付いた。
盛り上がっているといっても、手の平に収まる程度の突起だ。なんだろう――と、腰を浮かせて手を伸ばそうとしたとき、少し慌てた様子で、マルドーが俺の前へと出てきた。
〝それに触らないでくれ〟
「ああっと……すいません。なにか、大事なものですか?」
〝いやまあ……そうだな。魔術的なものだから、触らないでくれ〟
「魔術的な……防犯用の罠とか?」
これは前世での、偏った知識なんだけど。ロールプレイングゲームとかしてると、地下迷宮の中にトラップが仕掛けられていることが多かった……気がする。
魔術的なものだから、きっとその手のものだと、勝手に解釈したんだ。だけどマルドーは、言った当人が驚くほど、大袈裟な素振りで同意してきた。
〝そうそう! そうなんだよ。怪我すると拙いから、触らないほうが、いい〟
「まあ、そういうことなら……」
ちょっと反応が怪しいと思ったけど、こっちも眠たいわけなんだ。無理に追求する気も起きず、そのまま欠伸を噛み殺しながら、また本棚に背中を預けた。
ウトウトをしてると、肩がアリオナさんの肩に触れた。
嬉し恥ずかし――と、普段なら慌てるとことだけど、今は眠気が勝っていた。
そのまま寄り添うようにしていると、パタンという本を閉じる音が聞こえてきた。
「本は調べ終えました。あとは、マルドーさんにも聞きながら、対応を考えませんと」
〝ああ、いいぜ。だが、俺も星座の魔術は専門じゃねぇ。わかる範囲で、推測混じりになるが、まあ仕方ないと思ってくれ〟
そっちから言い出した一件じゃんか――と突っ込みを入れたかったが、やめた。まあ、そういう気分だった――ってだけだけど。
俺やアリオナさんが視線を正すと、エリーさんは広げた羊皮紙へと目を落としながら、口を開いた。
「先ず、星座が魔術的な象徴ということは、マルドーさんから話がありましたから、それを前提として話を進めます。星座を魔方陣として使う場合、それ単体で使うことは少なかったようですね。水星、火星、土星、風星、樹星の各惑星、それに月や太陽といった天体が記されるようですね」
〝ああ――それは、聞いたことがあるな。惑星や太陽、月の位置が、魔力に大きな影響を与えるようだ。だから、時期によって効果が大きく上下する――らしいな〟
「はい。恐らく……なんですが。今は蛇座の影響が、強い時期になっています。彼が動いたのは……六百年の一度の今を狙ったものでしょう」
「六百年に一度?」
鸚鵡返しに問いかけた俺に、エリーさんは図柄の描かれた羊皮紙の一枚を見せてきた。そこには円の中に蛇座のシンボルが描かれていて、月と五つの惑星が記されていた。
「この星座と月、惑星の位置になるのが、そのくらいの周期なんです。それで、少しわからないのが……この星周りといいますか、ここまで強い星周りだと、ほかの十三星座を守護に持つ者への支配力も増す……と」
「……支配力?」
「はい。普通ではありえないのですが……他者の思考操作すら可能かもしれません」
エリーさんの返答に、俺は息を呑んだ。そんなことができたら、誰もフミンキーに勝つことはできない。
対峙した途端、ヤツの従僕に成り下がるだろう。そして街の――下手をすれば全人類を従えることだってできるかもしれない。
だが――マルドーは違うことに気付いたようだ。ハッと顔を上げると、怒りを露わにした。
〝そうか――ヤツの狙いがわかったぞ。街を破壊し、カレンという娘を連れ去ったあと、思考操作で恋人にするつもりか〟
あれ? 俺が考えたことより、目的が小さ過ぎる――ような。
俺はマルドーに、再確認を含めて問いかけた。
「えっと、本当にそれだけだと思います?」
〝ああ。それが、ヤツの目的で間違いがないだろう。それほどまでに、俺の恋人に粘着していたんだよ。他人の人生を壊そうが、まったく気にしないやつだ。そのくらいのことは、平気でするだろうさ〟
やってることは、確かに外道だけど。規模の小ささがなぁ……と思っていたら、エリーさんがキッと引き締めた表情をした。
「なんて酷い。そんなこと、絶対に許してはいけません! マルドーさん、共に彼の野望を阻止致しましょう」
……あれ? もしかしたら、俺がおかしいのかな?
そんなことを思っていると、エリーさんは側に居るメリィさんの手をとった。
「あなたもそう思うでしょ、メリィ!?」
「え? ええ……まあ」
メリィさんは少し戸惑いながら、ぎこちなく頷いた。
「メリィ、どうかして?」
「いえ、その……予想より、小さい目的だな……と」
あ、仲間がいた。
そこに安心してお終いにしたかったけど、エリーさんの話は終わっていなかった。
「この星座の魔術を防ぐ手段がなければ、フミンキーに勝てません。十三の星座の影響下にある人すべてを、支配下に置くようでは……」
「あれ? ちょっと待って下さい。十三星座って、どういうことですか?」
「それが書籍には十二星座ではなく、十三星座とありましたので」
〝正確には、十三星座じゃねえぞ〟
俺やエリーさんが視線を向けると、マルドーは腕を組んだ。
〝十三星座と記されているんだろうが、残る一つは星座じゃない〟
「なら、なんだというのですか?」
〝〈無〉という。守護星座は、東側に浮かぶ星座で決まるんだが……年に数日、十二月の二十五日から一月の五日あたりまで、星座が消える期間がある。それを〈無〉と呼んでいた。その期間の産まれは、十二星座の影響を受けないって、言われてた気がするが……確証となる資料はないんだ〟
「〈無〉……か」
あれ? 俺の誕生日だな、その期間。一月五日が誕生日だから……そういえば、アリオナさんも十二月三十日が誕生日って言ってなかったか?
転生者である俺とアリオナさんが、揃って〈無〉の産まれというのは、偶然なんだろうか。
そんな謎が残ったけど、ここでは星座の魔術を防ぐ手段が思いつかなかった。
時間も迫っていることもあり、数冊の書籍を回収だけして、俺たちはマルドーの家から引き上げることにした。
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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。
星座の設定の補填回……というわけではありませんが。設定の追加、そしてフミンキーの目的――推測ですが――の提示回となりました。
思考操作――洗脳みたいなヤツだと思って下さい。やろうとしていることは地味かもですが、自分がやられたら……と思うと、かなりイヤなタイプだと思います。
少しでも楽しんで頂けたら、幸いです。
次回も宜しくお願いします!
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