屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか

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第十一部

後日譚 ~ 前編

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 後日譚 ~ 前編


 ゴガルンが引き起こした神魔大戦未遂から、四年。
 俺――ランド・コールは相変わらず、メイオール村で手伝い屋を営んでいた。とはいえ、専業というわけではなく、瑠胡たちと暮らす神殿の宮司――神父みたいなものだ――を兼ねている。
 どちらが本業で、どっちが副業かという問題は、色々と面倒なことになるから放置している。俺個人としては宮司が副業でいいんだけど……それだと瑠胡だけでなく、紀伊たち天竜族が不服を申し立ててくる。だが、実質的に神殿を取り仕切っているのは瑠胡や紀伊だ。俺は手伝い程度しかしてないから、おまけみたいなものだ。
 だが、瑠胡のつがい――夫という立場が、それを許さない。
 とまあ、そんな曖昧な立場に甘んじているわけだが、それでも日々は穏やかに過ぎていた。
 依頼だった農作業の仕事から帰ってくると、一階にいた二つの小さな影が、駆け寄ってきた。


「とーたまぁ」


 黒髪をおかっぱ頭にした、二歳の女の子だ。
 赤みがかった瞳に、白い肌。身につけた小袖は桃色で、足には草履という繊維を編んだ履き物をしている。背丈は、俺の膝下もない。
 草履も含めて、身につけているものは神糸で編み込まれている。
 俺と瑠胡の子で双子の姉、留依るいだ。留依の手には、羊皮紙を丸めて作られた棒を持っていた。
 足元まで来た留依を片手で抱きかかえると、俺は逆の手で頭を撫でた。


「ただいま、留依」


「おかえりなたい、とーたま」


 にこにこを笑顔を浮かべる留依は、俺の頬に顔を寄せてきた。
 ほっぺにキスでもしてくれるんだろうか――と思っていたら、留依と俺の頬のあいだに、柔らかいものが差し込まれた。


「これ、留依。ランドに接吻をしてはなりません。ランドに接吻をしてよいのは、母様とセラ母だけなのです」


「えー」


 俺の背後に来ていた瑠胡は、そっと留依の顔を俺から離した。


「文句を言ってはなりません。これは、母様たちの特権なのですから」


 瑠胡はそう言ってから、俺に顔を寄せた。
 俺と瑠胡が口づけするのを見て、留依は不満げな顔をした。


「かーたま、ずるい」


「ずるくはありません。留依も将来、お父様のような殿方を見つけなさい」


 瑠胡は微笑みながら、留依の頭を撫でる。そのとき、もう一つの小さな影が俺たちのところに近づいて来た。
 留依の双子の弟である玄良げんらだ。黒髪を短く切り揃えた、やや垂れ目がちな男の子だ。藍色の小袖に草履という身なりだけに、留依とは髪型以外、そっくりだ。
 玄良はトテトテと俺に近寄ると、ズボン状にしている神糸の衣の裾を掴んできた。


「とーちゃまぁ。留依ちゃん、ひどいの」


「どうしたんだ、玄良?」


「ぼくね、おままごとがしたいって、言ったの。だけど、英雄ごっこが良いって……悪い役ばっかで、つまんないの」


「……そうなのか、留依」


 俺が問いかけると、留依は澄ました表情で俺へと顔を向けた。


「だって、英雄ごっこがいいの。とーたまみたいに、強いの好きだもん」


 愛娘に俺みたいに強いのが好き、と言われるのは、なかなかに良いもだ――と思ってしまうのは、親バカなんだろうか。
 まだ二歳と三ヶ月……くらいなんだけど、男勝りの留依に、大人しい玄良。周囲からは性格が反対だったら良かったのにと言われるが、まあ……これはこれでもいいんじゃないかと思わなくもない。
 そんなことを言うと、村の人には『親バカ』と言われてしまうけど。せめて子煩悩くらいに留めて欲しいんだけどなぁ。
 子どもたちを宥めながら、俺と瑠胡は二階へと上がった。昼食の準備は、紀伊たちの手によって出来ている時間だ。
 俺が汗を拭ってから食堂に入ると、皆はもう座敷の上に座っていた。御膳は留依、玄良、瑠胡、空いているのは俺の席か――それからセラに、セラと俺の息子であるダンドの順だ。
 リリンは《白翼騎士団》で昼食だから、ここにはいない。
「ランド、おかえりなさい」
「セラ、ただいま。ダンドも、ただいま」
「とーさま。おかえりなさい」
 灰色の小袖を着て、栗色の髪と黒い瞳のダンドに微笑むと、俺は瑠胡とセラのあいだに座って、食事をとり始めた。
 そしてここには、リリンの母親であるマイアーさんも同席している。


「ランド。そう言えば、ここのところ手伝い屋の収益が減っているようですが?」


「え? ああ、そうですね。この時期は比較的、仕事の依頼が少ないですから」


「王都からの参拝者のお陰で、神殿への寄付は増えております。収益にならないのなら、神殿の責務に専念すべきでしょう」


 マイアーさんは、厳しい目を向けてきた。ここで暮らすようになってから、マイアーさんは自主的に神殿の会計を担っていた。
 ただ、その財務管理方針は、一コパル(銅貨一枚)の赤字をも許さないほど厳しい。
 その厳しさを簡潔に言うと――修羅。
 怒鳴りこそしないが、その静かな怒りは、有無を言わせぬ迫力がある。リリンの実……元実家で、最も有能と言われただけはある。 


「村人との関わりもありますし、急には難しいですが。考えておきます」


 俺の返答に、マイアーさんは無言だった。

 ……きっと、気に入らなかったんだろうな。

 そんな気まずさもあったが、昼食は終始平穏だった。、
 食事後――俺が仕事へ行く前に身体を休めている中、子どもたちは神殿の中で遊び始めていた。



「ねえ、探検しよ」


 留依の発言に、玄良とダンドは不安そうに顔を見合わせた。
 最初に口を開いたのは、玄良だ。両手をモジモジとさせながら、上目遣いに姉を見た。


「ぼくは……おままごとがいい」


「お外に出ると、とーさまたちに怒られちゃうよ?」


 気後れ気味な玄良とダンドに、留依は不服そうに口を曲げた。


「あたしがおねーたんなの! だから、探検!」


 一番の年長者だから言うことをきけ――そういう留依の主張に、弟たちは不満げだ。


「ぼく、数分しか違いがないって、とーたま言ってた」


「ぼくは、一ヶ月……」


「少しでも早ければ、一番上だもん」


 留依はそう言うと、ぷいっとドアへと向き直った。


「おうちの中だけじゃ、つまんないもん。なら、一人で行くからいいもん」


 不満からの、単独行動宣言――その切り替えの早さに、玄良とダンドは戸惑うことしかできなかった。
 なにか言わなきゃ、留依を止めなきゃ――と、漠然と思ってはいるが、それが言語化できなかった。
 あわあわと慌てる二人の前で、留依は外へ出る玄関のドアを開けようとした。だが……留依はくるりと、二人を振り返った。


「……届かない」


 ドアの取っ手の高さは、留依の背丈の二倍以上の高さにある。
 ドアを開けて欲しい――と訴えるような目を二人に向ける留依だったが、玄良とダンドの背丈も似たようなものだ。

 探検――完。

 と、普通ならここで終わるのだが、留依は諦めなかった。
 大きく息を吸うと、手を床に付けるほど身体を屈めた。


「たあっ!」


 四肢の力を解放すると、留依はドアノブに飛び付いた。ノブを掴むと、留依の体重でカチリという音がした。ドアノブが動くと、留依はドアの横にある壁を蹴った。
 金属が軋む音がして、ドアが僅かに開いた。


「開いた!」


 ふわりと着地した留依に、玄良とダンドは唖然としていた。
 留依の《スキル》は、〈跳躍〉だ。筋力でもなく、重力でもない。ただ高く、早く跳躍するだけだが――二歳にして、太い木の枝を折る程度のことはやってのける。


「いってきまーす」


 ウキウキな表情で外に出て行く留依を見送った、その数秒後――玄良とダンドはハッと我に返り、留依のあとを追いかけた。

                               後編に続く

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本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!
わたなべ ゆたか です。

長くなりましたので、二つに分けました。このあとにアップしてありますので、お時間があれば続けてご覧下さいませ。

……時間が無くても、後日に読んで頂けたら嬉しいです。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

後編もよろしくお願いします!
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