屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)

わたなべ ゆたか

文字の大きさ
347 / 349
第十一部

エピローグ

しおりを挟む


 エピローグ


 俺が瑠胡たちとメイオール村に戻ってから、二十一日後。
 久しぶりに手伝い屋の仕事としての農作業を終えたあと、俺は神殿への帰途についていた。
 収穫のある夏期に向けて、雑草の除草や追肥などを行った。この時期に行う地味な肉体労働が、作物が育つためには重要だ。
 村の外周を囲う柵に近づいたとき、ジココエルに跨がったレティシアが近づいて来た。


「ランド、久しぶりじゃな――」


 俺の姿を見たレティシアは、最後の「いか」を言わなかった。その代わり、目を何度も瞬かせてから、戸惑いを露わにした。


「ランド……なんか、やつれていないか?」


「その話はやめてくれ。朝からイヤって言うほど、聞かれてるんだ」


 俺が溜息をつくと、レティシアは口を曲げた。


「帰ってきてからの二十日間、なにをしていたんだ?」


「だから、その話は止めてくれって言ってるだろ」


 メイオール村に帰ってきた日から――俺は約束通り、瑠胡とセラを慰める日々を過ごしていた。当初は十日間だったのが、『おかわり』で追加の十日間。
 食事と風呂の時間はあったけど、睡眠時間は一日に数十分程度だ。流石に追加の十日間は、仮眠の時間は貰えたけど。
 それでも途中、『もしかしたら命を落とすかも』という不安が渦巻いた。

 正直……よく生きてたなぁ、俺。

 瑠胡とセラの相手をしないときは、リリンが甘えに来て、一緒に本を読んだり膝枕をしてあげたりをしていた。
 そんな生活を二十日も続ければ、そりゃ少しはやつれて見えるってものだ。
 出会った村人の全員に『頬が痩けてる』と言われたりしたけどな。あと、目の隈とか充血した目とか、顔色が悪いとか、色々と言われたけど……。

 うん、あまり気にしないようにしよう。

 ふと遠い目をした俺に、レティシアは半目になった。


「なんでそんな、悟りを開いたかのような目をしている?」


「いや……なんとなく、生きてるだけで奇跡だな……と考えてた」


 俺の返答にレティシアが呆れ顔になったとき、馬車列が村に入ってくるのが見えた。
 隊商らしいが、それにしては豪華な馬車が混じってる。旅の貴族かなにかが、同行しているんだろうか?
 ミィヤスのいる隊商じゃないから、出迎える必要はない。予定では、メイオール村に帰ってくるのは、一ヶ月後だって話だし。
 もう昼も近いし、会話を終えて神殿に帰ろうとした。そのとき、レティシアが村のほうへと目を受けた。
 なにかあったのかと、俺もレティシアの視線を追った。その先には、隊商から離れたらしい馬車がいる。
 行商人が使う馬車より、豪華な馬車だ。村の外周に沿うように、だく足で進んでいる。


「駐屯地へ用があるんじゃないのか?」


「いや……そういう進路ではないな」


〝むしろ……こちらに来るのではないか?〟


 俺たちが見守る中、馬車は進路を変更して、俺たちのところへと近づいて来た。
 俺とレティシア、どちらが目当てなのか。馬車が俺たちの前で停まると、客室のドアが静かに開いた。


「お、お久しぶりです」


 淡いベージュ色のドレスに身を包んだテレサが、客車から出てきた。ドレスは貴族で流行っている上下一体となったワンピース状ではなく、上下で分かれているようだ。
 テレサは俺たちの前に進み出ると、両手でドレスのスカートを抓みながら、少々ぎこちないながらも膝を折って一礼をしてきた。


「ランド様、そしてレティシア様。突然の訪問をお許し下さい」


「いや、それは構わぬが……今日は、どのような用件で?」


 レティシアの問いに、テレサの頬にサッと朱が差した。
 ぎこちなく頭を上げると、レティシアではなく、やや上目遣いに俺を見た。


「あの……兄の件では、色々と、お世話になりました」


「いや……御礼を言われるようなことはしてませんし」


 俺の返答に、テレサは静かに首を振った。
 それから大きく息を吸うと、意を決したように俺を見た。


「あれから……家族で話し合いがありました。兄が……遺体も持ち帰られぬまま、死んでしまったことで、父は罪を購う手段を失いました。家の再興は、遅れてしまうのですが……没落する前に、わたしを嫁に出したほうが良いと両親が」


「それは……」


「ですが」


 テレサが、俺の言葉を遮った。一呼吸分の沈黙のあと、自らドレスの上の裾を捲った。
 露出した肌には、大きな傷痕が残っていた。目を見広げた俺の顔をジッと見上げながら、震える声で告げてきた。


「お腹の傷を、どなたも気にしてしまい……一〇を超える縁談も纏まりませんでした」


 この短期間に、一〇も? テレサの父であるゲルシュが、必死だったんだろうか。でもそれは、娘の将来のためなのか、それとも家の存続のためなのか――ここで考えても、わからないことだ。
 しかし、ここまで話を聞いても、テレサがメイオール村に来た理由がわからない。俺たちの顔を軽く見回しながら、テレサは赤面した。


「そ、そこで……わたしから両親に提案をしまして。ある程度の身分が保障され、人柄も信頼できる御方がいると」


 あ、そういう知り合いがいるなら安心か――と、俺が安堵した直後、テレサは俺に詰め寄って来た。


「ランド様、わたしを娶って下さい!」


「……え。…………へ?」


 テレサが告げたことの意味が、まったく理解できなかった。
 返答を待つように、彼女は上目遣いでジッと俺を見つめている。だけど、頭の中で『えーと、えーと』という言葉が渦を巻いて、なかなか返答すべき内容が決められなかった。
 数秒かけて出てきたのは、素朴な疑問だった。


「あの、なんで……俺なんです?」


「他の宗派とはいえ、神殿にお住まいですから。それに……魔族の姿となった兄を人間として扱ってくれた人……ですから」


「理由は……わかりましたけど。でも、大きな問題がありますよ。こうみえても俺は一応、妻帯者ですし」


 冷静に返答をした俺に、テレサは表情を固くしながら頷いた。


「……それは、理解をしているつもりです。ですが、ランド様はすでに、妻をお二人も娶られおります。ならば、二人も三人も誤差みたいなものではありませんか!」

 ……全然違います。

「あのですね。五割増しは、誤差って言いませんから」


「なら、わたしだけを愛して下さい!」

 いや、無茶を言うな。

 おも詰め寄ってくるテレサを説得しながら、俺はふと気付いた。

 ああ。一見、気付きにくいけれど……こういう、他人の立場や都合を考えないところは、テレサとゴガルンは良く似ている。
 そんなとき、ふと軽い足音に気がついた。


「瑠胡お姉様。やはり、ランドお兄様には、しっかりとした説得が必要です」


「ああ、例の地下室のことですね。縛り上げて――」


 いつの間に来ていたのか、瑠胡とリリンがなにやら物騒なことを話し合っていた。近くにセラもいたが、二人を止めるどころか逆に興味津々だ。

 なんだか……もう。

 俺は身の危険を感じつつ、溜息を吐いていた。
 思えば、王都タイミョンを追放されてから――このメイオール村で手伝い屋を営みながら、のんびりしようと思っていたのに……なんでこう、色々と大変なだろう。

 ……世の中って、上手くいかないものだなぁ。

 そんな思いに駆られながら、俺はテレサを王都に帰すことに専念したのだった。


                                    完

----------------------------------------------------------------------------------------
本作を読んで頂き、誠にありがとうございます!

わたなべ ゆたか です。

というわけで、エピローグとなりました。思えば11部……けっこうな話数を書きました。

さて――『屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです』、本編としては、ここで区切ろうと思います。
ここが一番、綺麗かな……と。

番外編というか、後日談は一回アップする予定です。瑠胡やセラの子どもを書きたい感じ。

お気に入り登録をして下さった方も250名を超えました。個人的最高記録でございます。本当に、ありがとうございます!

新作も書かなきゃ……ということで、そちらはこれからプロットやら作成開始です。

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

(本編としては)ありがとうございました! 後日談は、次の日曜日くらいにアップ予定で御座います。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さくら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...