不思議な夏休み

廣瀬純七

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混乱する四人

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 誰もが黙ったまま、部屋に響くのは心臓の鼓動と外を叩く雨の音だけだった。

 最初に声を発したのは、健一――の体に入った香織だった。

「みんな……今、なんか……おかしくなってるよね? 私、どう見ても……健一くんの体なんだけど……」

 自分の声が低く響くのを聞いて、香織は改めて恐怖を実感した。その声は、どう考えても男子のものだった。しかも、目の前で呆然とする、自分と同じ髪型・顔立ちの少女――それが、彼女自身の体だった。

 「じゃあ……俺が……お前ってことか?」

 香織の体に入った健一が、混乱気味に言った。

 「うわ、マジかよ……鏡見ても、手見ても、全部お前じゃん……っ。え、ってことはこれ、入れ替わってるってこと? そんな、マンガみたいな話あるわけ――」

 「あるんだよっ!!」

 叫んだのは、杉田愛の体に入ってしまった山中秀樹だった。彼――いや、彼女は、ベッドの上で自分の胸を押さえながら顔を赤くしていた。

 「なんで……なんで俺が女なんだよ!? しかも、愛の体とか……気まずすぎんだろ!」

 その声に、秀樹の体に入ってしまった愛も叫び返す。

 「私だってイヤだよ!! なんであんたなんかの中に入らなきゃいけないのよ!? うぅ、声も低いし、手もゴツいし、なにこの体、動きにくっ……!」

 4人は互いに見つめ合い、それぞれの現実を受け止めようとするも、まるで頭が追いつかない。香織が恐る恐る訊ねた。

 「えっと……みんな、本当に……自分じゃなくなってるってこと、認めるしかないよね?」

 誰もが小さく頷いた。

 「じゃあ、整理しよう。私は香織だけど、今は健一くんの体。健一くんは……私の体に入ってるんだよね?」

 「ああ。信じたくないけど、たぶんそうだ……」

 「で、愛は秀樹の体。秀樹は愛の体……だよね?」

 「うん……マジでヤバい……これは本当に夢じゃないの……?」

 現実味のない状況に、4人とも口数が減っていく。だが、誰かがこの異常事態を冷静に整理しなければならなかった。

 香織は深呼吸して、顔を上げた。

 「とにかく、今は病院みたいだし、先生か看護師さんに事情を話してみよう? もしかしたら、検査とかしてくれるかもしれないし……」

 だが、健一の顔をした香織の言葉に、秀樹の顔をした愛が冷静に言った。

 「話すって、どう説明するの? 『私たち、落雷に打たれて入れ替わりました』って?」

 「そ、それは……」

 「精神科送りか、親に連絡されて余計なことになるのがオチでしょ。私たち……しばらく、このままでいくしかないんじゃない?」

 沈黙。

 現実的な判断だった。でも、それはあまりにも過酷だった。

 自分じゃない体で、自分じゃない声で、自分じゃない性別で――学校に戻る? 家に帰る? そんなことが……できるわけない。

 「……夏休みが終わるまでに、元に戻れなかったらどうするの?」

 香織が、震える声で呟いた。

 その言葉に、誰も答えることができなかった。

 こうして、夏休みの初日、4人の“中身”が入れ替わった異常な日常が幕を開けた。

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