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逆ナンされる愛と香織
しおりを挟む「中村くん! 山中くん! 昼休み上がっていいよ~!」
ビーチの監視台から声がかかり、健一の姿をした香織と、秀樹の姿をした愛が日陰へと向かった。
灼熱の太陽の下、Tシャツの背中は汗で湿っているけれど、二人はどこか嬉しそうだった。
「ふー、ようやく休憩!」
「香織、飲み物は? ちゃんと水分補給して」
「ありがと、さすが愛! てか、その姿で“ありがと愛”って言うの、未だに慣れないけどね……」
そんなことを言いながら、自販機の横で冷えたスポドリを飲んでいたふたりに――
「ねえ、そこのお兄さんたち~!」
ハツラツとした女性の声が飛んできた。
振り返ると、ビキニ姿のOL風の女性が二人。
片方はサングラスを頭に乗せた活発そうなタイプ、もう片方は日傘を差したしっかり者っぽい雰囲気。
「ちょっとだけ時間あるでしょ? バレーの人数足りなくて~、助けてくれたら嬉しいな♡」
「そ、そういうの得意じゃないんで……」
と、愛(in秀樹)が軽く断ろうとしたそのとき。
「やりますっ! バレー大好きなんです~♡」
と、香織(in健一)が満面の笑みで答えていた。
(ちょ、香織!? 男の体で“~です♡”は危険でしょ!)
(いいじゃん、バレー好きだし。それに、こういう時は合わせとかなきゃ)
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#### ビーチバレー、開始!
即席で作られた2対2のビーチバレー。
香織&愛(中身は女子)、OLペア(中身はガチ大人)という構成。
最初は軽くラリーを楽しむ程度だったが――
「そっちの子たち、動きいいじゃん!」
「筋肉もあるし、若いし、これはガチでいくか!」
と、OLチームが本気モードに。
「うっわ、スパイクきた!」
「うまっ、あのOLさん、バレー経験者でしょ!」
砂浜に足を取られながらも、香織(in健一)は軽快にボールを拾い、愛(in秀樹)は冷静にコートを見て相手の裏を突くプレイで応戦していく。
汗が額から流れ落ちるたび、彼女たちは妙な高揚感に包まれていた。
(なんか……楽しいかも)
(体は男子でも、スポーツってやっぱり面白い)
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#### 問題の瞬間
そして迎えた第5ラリー。
OLが強烈なスパイクを打ち込んできた。
香織(in健一)がレシーブに飛び込んで、砂に転がりながらもボールを上げる!
「ナイス香織! 私、いくよっ!」
愛(in秀樹)が全力でジャンプし、スパイクを――
「きゃっ!?」
……着地に失敗して、尻もち。
それと同時に、隣でカバーしていた香織(in健一)も滑って転び――
「キャー! 砂が熱っ!!」
――と、**“ふたりの男子高校生の口から、あまりに可愛すぎる声が響いた”**。
一瞬、周囲の時間が止まったかのような沈黙。
次の瞬間。
「……え、今……キャーって言ったよね? しかも二人とも?」
「なんか、声かわいくない? え、男子だよね?」
ビキニのOLたちが戸惑いの笑みを浮かべる。
香織と愛(中身女子)は、砂にまみれたまま顔を見合わせた。
(……やっちゃった……)
(完全に、素が出た……)
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#### 慌てて取り繕う
「い、いや~今のキャーは……ねっ、虫! 虫が飛んできてさ!」
「そ、そうそう! ハチっぽいのがさ! びっくりしちゃって!」
「あ~虫ね! そっかそっか、男子でも虫は苦手だもんね~(笑)」
(セーフ……?)
(いや、アウト寄りのセーフ……)
結局試合は引き分けで終わり、ふたりは軽く頭を下げてその場を後にした。
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#### 休憩後
更衣室でTシャツに着替えながら、愛がため息をつく。
「香織、ああいうの控えてって言ったじゃん」
「だって、バレー楽しかったんだもん~……あと、虫ほんとに飛んできたし!」
「“キャー!”の声、100%女だったけどね……」
「うう……気をつける。でも楽しかったでしょ?」
「……まあね。バレーだけは」
二人は笑い合った。
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#### エピローグ
その日の夕方、香織のスマホ(健一の体のポケットに入っていた)に、こんなLINEが届いた。
> **知らない番号**「今日バレーしたお兄さんたち~!楽しかったね♡ また今度混ざってくれる?」
香織と愛は、スマホを見て固まった。
「……え、これ、どうする?」
「返信……どうしよう。いやそもそも、誰として返すの?」
二人は再び顔を見合わせ、声を揃えた。
「――返信は慎重に。」
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