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フェイスオフ
しおりを挟む彼女の言葉に、一瞬、時間が止まったように感じた。だが、彼は慌てた様子を見せず、微笑みながら慎重に答えた。
「お兄さん?いいえ、会ったことないと思うけど……どうしてそんなことを?」
美咲は玲奈の顔をじっと見つめたあと、困惑したように目をそらした。
「ううん、なんでもない。ただ、あなたが話してくれること、考え方が……お兄ちゃんに似てる気がして。」
「そうなんだ。もしそうなら、きっと私たちの波長が合うからじゃないかな。」
彼は軽く笑ってみせた。内心では冷や汗をかいていたが、美咲はそれ以上追及してこなかった。
***
その夜、彼は眠れずにベッドの上で考え込んでいた。美咲が感じ取った違和感は、確実に増している。それに、このまま「玲奈」として接するうちに、彼自身も心を揺さぶられていた。彼女の無邪気さや優しさ、そして内に秘めた脆さに触れるたび、罪悪感と同時に奇妙な愛しさが芽生えていたのだ。
「これ以上、嘘をつき続けるわけにはいかない。」
彼はそう決意した。
だが、問題はどうやって事実を打ち明けるかだった。美咲が彼を完全に信じてくれている今、その信頼を裏切ることになる可能性は高い。そして、最悪の場合、彼女が危険な詐欺グループに取り込まれてしまうかもしれない。
「どうする……?」
彼は自分に問いかけた。
***
翌日、ヨガクラスの後、二人はカフェでお茶をしていた。美咲は嬉しそうに話しながら、玲奈――つまり彼――に視線を向けていた。その無防備な笑顔を見ると、彼は胸が痛んだ。だが、意を決して口を開いた。
「美咲……実は、話したいことがあるの。」
「何?改まって。なんだか真剣な顔してるけど。」
彼は一瞬ためらったが、続けた。
「私は、少し前からあなたのことを心配していた人の依頼で、あなたに近づいたの。」
美咲の顔に一瞬で困惑の色が浮かんだ。
「どういうこと?依頼って……何のために?」
「危険な人たちに近づいていることを知って、止めたかったの。」
彼の声は震えそうだったが、なんとか冷静を装った。
「私には……いや、本当の私は、あなたを守りたかっただけ。でも、それを説明するには……これを見せるしかない。」
薄いフェイスマスクを目の前で少しずつ剥がし始めた。
美咲は驚きの表情を浮かべ、動けずにいた。彼女の目の前で、玲奈の美しい顔が消え、代わりに平凡な男の顔が現れた。
「あなた……誰なの……?」
彼女の声は震えていた。
「俺は……君のお兄さんの友人だ。」
彼は静かに答えた。
「君を守るために、この姿を借りた。嘘をついてごめん。でも、君に伝えたい。彼らに近づいてはいけない。絶対に。」
***
この瞬間、物語は大きく転換点を迎えた。美咲が真実をどう受け止めるか、そして、彼らが詐欺グループにどう立ち向かうのか――その行方は彼ら次第だった。
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