リアルフェイスマスク

廣瀬純七

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川村玲奈


「さて、次は声だな。」  
彼は小型の装置を喉元に取り付けた。それは声帯の振動を調整し、女性らしい声を出せるようにするものだった。少し試すと、柔らかく澄んだ声がスピーカーから響いた。

「こんにちは、よろしくお願いします。」  
聞き慣れないその声に、彼は思わず苦笑する。「まだぎこちないな。でも、これも慣れの問題だろう。」

彼がこの変身を決意したのは、特定の女性の人生に入り込むためだった。真面目な顔を装った詐欺師たちに狙われている友人の妹――美咲(みさき)を救うため、彼は彼女の近くにいる「女友達」を演じることにしたのだ。

美咲は警戒心が薄く、怪しい投資話に乗りかけていた。そのことを兄から聞いた彼は、「男の俺では信頼されない。でも、女性なら彼女の話に耳を傾けてもらえるかもしれない」と考え、この大胆な作戦を立てたのだった。

***

数日後、彼は美咲の通うヨガクラスに「川村玲奈」という名前で登録した。長い髪を後ろで束ね、薄化粧を施した彼女――いや、彼――は、誰が見ても魅力的な新顔だった。レッスン後、美咲に近づくタイミングをうかがいながら、周囲の視線に戸惑うこともあった。

「こんにちは、新しく入ったんですか?」  
美咲が声をかけてきた。彼は一瞬緊張したが、にっこりと微笑んで答えた。  
「はい、玲奈って言います。まだ慣れないけど、一緒に頑張りましょう。」  
美咲はすぐに心を開いたようで、次第に会話が弾んでいった。

***

その後の数週間、彼は「玲奈」として美咲の生活に入り込んだ。ヨガの後にお茶をしたり、一緒に買い物をしたり、美咲の悩みを聞きながら、少しずつ彼女が抱える問題の本質に近づいていった。

しかし、ある夜、彼は一人部屋でマスクを外しながら、ふと疑問を感じた。  
「俺は、どこまでこの嘘を続けるつもりなんだ?」  
鏡に映るのは、またしても「本当の自分」――平凡な男の顔だった。その顔は、少し疲れて見えた。

「このままじゃ、彼女に真実を伝えるタイミングを見失うかもしれない。」  
彼は深い溜息をついた。

だが、その翌日、予想外の事態が起こった。美咲が突然こう言い出したのだ。  
「玲奈、最近なんだか不思議なことが多いの。あなた、どこかで私のお兄ちゃんと会ったことある?」  

その瞬間、彼は心臓が止まる思いがした。彼女の疑念をどう切り抜けるか――それが次の課題だった。

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