リアルフェイスマスク

廣瀬純七

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性転換サプリ

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隆司は鏡の前に立っていた。鏡に映る「玲奈」の姿は、マスクとウィッグ、そして少し努力を要するメイクによって生み出されたものだ。何度もこの姿になってきたが、それが一時的な変装にすぎないことを彼自身が一番よく知っている。

だが、美咲から「ずっと玲奈でいてほしい」と頼まれたあの日から、彼の心には迷いが生まれていた。  

「玲奈でい続けるには、この方法じゃ足りない。」  

美咲の期待に応えるため、そして自分の中に芽生えた新たな感情――玲奈としての自分をもっと深く生きたいという思いに従うため、隆司は次の一歩を決心した。

### 性転換サプリメントの存在

彼が調査を進める中で見つけたのは、医学の進歩が生み出した最新の「性転換サプリメント」だった。通常のホルモン療法よりも短期間で体に変化をもたらし、身体の構造を完全に女性化させるというものだった。高価で実験的な治療ではあるが、特定の施設で入手可能だった。  

「これしかない。」  

彼は心の中でそう呟き、資料を片手にその施設を訪れた。

***

施設の医師は冷静な口調で彼に説明した。  
「このサプリメントは、体のホルモンバランスを劇的に変化させるだけでなく、骨格や筋肉の構造にも影響を与えます。副作用のリスクもありますが、それでも試したいのですか?」  

隆司は迷いなく頷いた。  
「試したいんです。いや、試さなければならないんです。」  

***

サプリメントを服用し始めて数日後、隆司の体には明らかな変化が現れ始めた。声は次第に高くなり、肌は柔らかさを増し、全体的な体つきも丸みを帯びていく。  

「本当に変わっていくんだ……」  

彼は鏡の中の自分を見て、驚きと興奮、そして不安が入り混じった感情を抱いた。

変化は次第に加速した。数週間も経たないうちに、胸がふっくらと膨らみ、腰回りには女性らしい曲線ができていた。髪も自然と艶やかになり、化粧の手間も少なくなっていった。

しかし、それだけではなかった。リアルフェイスマスクを装着したとき、これまでのように違和感を感じることがなくなり、マスクが自分の肌と完全に馴染む感覚を覚えた。まるで体が「玲奈」という存在を受け入れていくかのようだった。  

そしてある日、マスクを外そうとしたとき、隆司は驚愕した。  
「外れない……?」  

マスクが完全に肌に同化し、彼自身の顔そのものとなっていた。触れても、引っ張っても剥がれることはなく、リアルフェイスマスクはまさに「玲奈」としての顔になっていたのだ。

***

その日以降、彼は完全に「玲奈」として生活を始めた。声も体も仕草も、すべてが女性として自然に振る舞えるようになった。以前の「隆司」としての存在を知る者たちとも疎遠になり、玲奈としての新しい人生が始まろうとしていた。

そして、美咲に再会した日。  

「玲奈、本当に……変わったね。」  
美咲は目の前の彼――いや、彼女を見て、信じられないという表情を浮かべた。  

玲奈は柔らかく微笑んだ。  
「あなたがそう望んだから。玲奈として、あなたのそばにいるために。」  

美咲はその言葉に涙を浮かべた。  
「ありがとう……玲奈。本当にありがとう。」  

二人は手を取り合い、互いの存在を確認するように抱き合った。その瞬間、玲奈は自分が新しい人生を歩み始めたことを実感した。  

もう戻ることはできないかもしれない。それでも、この人生を選んだことに後悔はなかった。玲奈として生きることが、美咲と自分自身を救う道だと信じていたからだ。

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