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小さな神社へ
しおりを挟むある日、大輔と奈々は職場近くの小さな神社に立ち寄ることになった。仕事帰り、ふと道沿いに見つけた神社の鳥居が二人の目を引いたのだ。
「なんだか、ここ…呼ばれてるみたいな気がする。」
奈々の体に宿る大輔が呟くと、奈々も頷いた。
「確かに。なんだろう、ちょっと不思議な感じがするね。」
二人はゆっくりと鳥居をくぐり、境内へと足を進めた。苔むした石段や静かにそびえる御神木が、どこか時間を超越した空気を醸し出している。
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### **神主との出会い**
奥へ進むと、簡素な社務所から年老いた神主が姿を現した。
「おや、珍しいお客様だね。今日はどういったご用で?」
大輔が少し迷いながらも、事情を説明する。
「実は…私たち、体が入れ替わってしまったんです。ある日突然…。」
神主はその話を聞くと、興味深げに目を細めた。
「ほう、それはまた奇妙な話だね。しかし、この神社に来たということは、何か心当たりがあるんじゃないかい?」
二人は顔を見合わせた。実は、この神社を訪れたのは偶然ではなかった。数日前、奈々がインターネットで「縁を繋ぐ神社」としてこの場所の噂を見つけていたのだ。
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### **神主の語る秘密**
神主は小さな社殿の前に二人を案内し、語り始めた。
「ここは『縁結び』だけではなく、『絆を試す』場所でもあるんだよ。かつてこの地に住む夫婦や家族が、お互いを深く知るために願いをかけたという話が残っていてね。」
「絆を試す…ですか?」
奈々の体の大輔が疑問の声を上げると、神主は微笑んだ。
「そうだ。君たちは、互いの立場や感覚を経験することで、本当の理解を得るために選ばれたのかもしれない。現代の人々は、互いの事情を想像することが減ってしまったからね。」
その言葉に二人は思わず沈黙する。確かに、体が入れ替わった当初は互いの苦労に気づく余裕すらなかったが、最近では少しずつ相手の生活や感情を理解し始めている自分たちがいた。
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### **願掛けと告白**
「どうすれば元に戻れるんですか?」
奈々の体の大輔が聞くと、神主は穏やかに言った。
「それは君たち次第だ。お互いを十分に理解し、相手を大切にする気持ちが強まれば、この状態は自然に解けるだろう。ただ、焦る必要はない。これもまた、君たちのご縁だ。」
その言葉を胸に、二人は小さな絵馬に願い事を書き始めた。
大輔はこう書いた。
「奈々さんの体を大事に扱う。そして、彼女の気持ちをもっと理解したい。」
奈々もまたこう書いた。
「大輔さんの苦労を知って、助け合える存在になりたい。」
絵馬を掛け終えると、二人は静かに手を合わせ、境内を後にした。
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### **帰り道の変化**
神社を出た帰り道、二人はどこか肩の力が抜けたような感覚を覚えていた。
「奈々さん、なんかさ…俺たち、ちょっとずつだけど分かり合えてきた気がするよな。」
「うん。最初は戸惑いしかなかったけど、大輔さんの気持ちや頑張りが少し分かるようになった。」
入れ替わった体を通して見えた互いの世界。それは二人にとって、これまで気づけなかった新たな絆を育むきっかけとなっていた。
「いつ元に戻れるか分からないけど、もう少しこのままでもいいかもね。」
奈々が笑うと、大輔も同じように笑った。
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