ボディチェンジウォッチ

廣瀬純七

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沈黙の後に

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 入れ替わってから最初の5分間は、ほぼ沈黙だった。

 互いに目を見開き、動揺と混乱、そして少しの興味と困惑が入り混じった空気が、教室に漂っていた。

 「ちょ、ちょっと……まず、落ち着こう?」

 雄太(愛)が手を前に出して言うと、自分の声の高音ぶりにビクッとした。

 「や、やめて! その喋り方、なんかゾワッとする……!」

 愛(雄太)が顔をしかめ、ぶんぶんと頭を振る。が、普段クールなはずの愛の体で、そんな挙動をされると、なかなかシュールだった。

 「……なんか、やばいな。お前、こんなに胸があったのか……」

 「ちょっと! やめてよ!!」

 愛(雄太)が顔を真っ赤にしながら、手で胸元を隠すようにした。

 「ご、ごめん、……」

 「変な事をしないで!それは私の体なんだからね!?」

 「いやでもさあ、お前も俺の体になって、なんか……無駄に肩幅広いとか、足毛が濃いとか……」

 と言って愛(雄太)は黙った。そして、

 「……ちょっとだけ。いや、かなり……思ったよ、、」

 ぽつりと呟いた。

 教室に沈黙が戻る。が、それは一瞬だけだった。

 「とりあえず、帰ろう。親にバレたら、病院に行かされるかもね、」

 「多分ね。あんた、私の家わかるの?」

 「……うーん、たぶん?」

 「ダメだこりゃ」

 というわけで、結局二人は連れ立って駅まで歩くことになった。

 道中、何度もすれ違う生徒たちに「あれ? 中島さんと……木村くん……?」と二度見されつつも、何とかごまかしながら電車に乗る。

 「ねえ、明日の朝ってどうすんの? 制服とか、ていうか……下着は?」

 「ちょっと、やめて!」

 「お風呂はちゃんと入ってね。私の体、絶対臭わせないでよ?」

 「俺だって、風呂はちゃんと入るよ!」

 気づけば、二人のやり取りは、少しずつ冗談まじりになっていた。

 愛の家に着くと、雄太は高級マンションに気圧されながらも、彼女の母親に「おかえりなさい」と笑顔で迎えられ、無事に“娘”として受け入れられた。

 「母にすっごくお腹空いた~、って言ったら、うちの母喜ぶかも?」

 という愛の指示通りに振る舞ったところ、夕飯にはステーキが出てきた。

 一方その頃、雄太の家では――

 「おぉ、今日はやけに大人しくて礼儀正しいな、お前。何かあったのか?」

 「いや……ちょっといろいろ考えることがあって……」

 と、普段はクールな愛が雄太の体で神妙な顔をして夕飯のカレーを黙々と食べていた。木村家の弟から「兄ちゃん、なんか今日女の子っぽいよね?……」と首をかしげられたが、それも無理はなかった。

---

 その夜、二人はお互いのLINEでやり取りを始めた。

 **雄太**:お前、風呂に何分入ってるんだよ。女子って長すぎだろ。

 **愛**:男子の風呂、3分で終わるってどういうこと!? 人間じゃないの!?

 **雄太**:ところで、明日、授業どうする?

 **愛**:……入れ替わってること、絶対誰にもバレたくないからね。ちゃんと私になりきって。

 **雄太**:わかった。じゃあ、愛ちゃんって呼ばれても「はい♡」って言うわ。

 **愛**:ぶん殴るよ。

 画面越しに笑いながら、雄太はふと気づいた。

 中島愛って、思ってたより、ずっと話しやすいんだな――と。

 そして、そんな“彼女の中の自分”も、今頃同じことを思っていたのかもしれない。

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