3 / 10
翌朝の登校
しおりを挟む
翌朝、教室のドアを開けた瞬間、木村雄太(愛)は全身に視線を感じていた。
「……おはよう」
できるだけ自然に、できるだけ「木村雄太っぽく」言ったつもりだったが、クラスメイトたちは微妙な表情で彼を見ていた。男子たちは「木村、今日めっちゃ清潔感ある……」「アイロンかかってる……!」とざわつき、女子たちは「目が合ったとき、微笑んだ……!?」とざわめいた。
「……なんか、怖い」
心の中で愛はぼそっと呟いた。
一方で、教室の奥から入ってきた中島愛(雄太)は、まるでゾンビのような歩き方で自分の席に向かった。梳かしていない髪もどこかボサついており、表情は死んだ魚のよう。女子たちがざわっとする。
「ち、中島さん、今日どうしたの……? メイクしてない?」
愛(雄太)は内心焦った。
(おい、もっとシャキッとしろって! “私”がだらしないと、噂になるんだから!)
(うるせぇ……このスカート、落ち着かねぇし、背筋伸ばすだけでなんか変に見られてる気がすんだよ……)
(気じゃなくて実際見られてるの! 私の威厳を守って!!)
そんな目で交わす会話の念話的なやり取りを心の中で交わしつつ、地獄のような1時間目、古文の授業が始まった。
「では、中島。『いとをかし』の意味を説明してくれるか?」
「えっ」
愛(雄太)の中にいる雄太は一瞬フリーズした。
(おいおい、俺、現国は得意だけど古文はまじで無理だぞ……)
(『いとをかし』くらい分かるでしょ!? 『とても趣がある』! 『風情がある』! 何度やったのよ!)
(それだ! えーと……いとをかしとは……)
彼女の口を借りて、雄太はどうにか答えた。
「……とても、おいしそう、です……?」
クラス中が、凍った。
先生が微妙な顔をしながら訂正を始めたころ、愛(雄太)の顔が真っ青になった。
(やっべぇ、俺、今日一日で“中島愛の知性”をぶっ壊すかもしれない……)
---
続く休み時間、二人は人気のない屋上に避難していた。
「アンタさぁ……“おいしそう”って何よ。“とても趣がある”って言ってたでしょ!?」
「間違えて“をかし”と“おかし”が混ざったんだよ!
口喧嘩しながらも、二人ともどこか楽しそうだった。
「それにしても、クラスのやつら、あんたに妙に優しくない? 女子たち、すごい目で見てたし……」
「え、マジ? ……あ、でも、さっき女子に『おはよう』って言ったら、めっちゃ照れてたかも」
「それだよ! そういうのやめろよ、俺の評価が爆上がりして逆に怖いから!」
---
4時間目の体育――鬼門だった。
男子はバスケ、女子はダンス。だが、今の彼らには地獄の時間である。
「お、おい……俺、スカートで飛んだり跳ねたりするの、マジで無理……っ!」
体育館の隅で、愛( 雄太)は青ざめながらも、雄太( 愛)に手を振った。
「がんばれ。お前の美脚にかかってるぞ」
「絶対に殺すからな……」
そんな不穏なやり取りをしたのち、体育の授業が始まった。
バスケでは、男子たちが雄太(愛)のプレーに驚愕していた。
「中島って……こんなにゴリゴリなプレースタイルだったっけ!?」
「ていうか、やたらスクリーンかけてくるんだけど……怖っ!」
その裏で、女子たちからはこんな声が上がっていた。
「中島さん、今日……めっちゃダンスうまくない?」
「え!? ていうか手の動きとか超しなやか……えっ、どういうこと!?」
---
こうして、入れ替わり初日の学校生活は波乱に満ちたまま終わった。
だが、その夜、LINEにはこんなやりとりが流れていた。
**愛**……あんたさ、案外いいとこあるわね。
**雄太**は? 何急に。気持ち悪っ。
**愛**今日、私の体でダンスをしてたとき、ちょっとかっこよかったわよ。
**雄太**そんなこと言うな。ドキドキするだろバカ。
**愛**……うん。ちょっとドキドキした。
そして二人の心の中に、小さな違和感と、ほんのり甘い何かが芽を出し始めていた。
---
「……おはよう」
できるだけ自然に、できるだけ「木村雄太っぽく」言ったつもりだったが、クラスメイトたちは微妙な表情で彼を見ていた。男子たちは「木村、今日めっちゃ清潔感ある……」「アイロンかかってる……!」とざわつき、女子たちは「目が合ったとき、微笑んだ……!?」とざわめいた。
「……なんか、怖い」
心の中で愛はぼそっと呟いた。
一方で、教室の奥から入ってきた中島愛(雄太)は、まるでゾンビのような歩き方で自分の席に向かった。梳かしていない髪もどこかボサついており、表情は死んだ魚のよう。女子たちがざわっとする。
「ち、中島さん、今日どうしたの……? メイクしてない?」
愛(雄太)は内心焦った。
(おい、もっとシャキッとしろって! “私”がだらしないと、噂になるんだから!)
(うるせぇ……このスカート、落ち着かねぇし、背筋伸ばすだけでなんか変に見られてる気がすんだよ……)
(気じゃなくて実際見られてるの! 私の威厳を守って!!)
そんな目で交わす会話の念話的なやり取りを心の中で交わしつつ、地獄のような1時間目、古文の授業が始まった。
「では、中島。『いとをかし』の意味を説明してくれるか?」
「えっ」
愛(雄太)の中にいる雄太は一瞬フリーズした。
(おいおい、俺、現国は得意だけど古文はまじで無理だぞ……)
(『いとをかし』くらい分かるでしょ!? 『とても趣がある』! 『風情がある』! 何度やったのよ!)
(それだ! えーと……いとをかしとは……)
彼女の口を借りて、雄太はどうにか答えた。
「……とても、おいしそう、です……?」
クラス中が、凍った。
先生が微妙な顔をしながら訂正を始めたころ、愛(雄太)の顔が真っ青になった。
(やっべぇ、俺、今日一日で“中島愛の知性”をぶっ壊すかもしれない……)
---
続く休み時間、二人は人気のない屋上に避難していた。
「アンタさぁ……“おいしそう”って何よ。“とても趣がある”って言ってたでしょ!?」
「間違えて“をかし”と“おかし”が混ざったんだよ!
口喧嘩しながらも、二人ともどこか楽しそうだった。
「それにしても、クラスのやつら、あんたに妙に優しくない? 女子たち、すごい目で見てたし……」
「え、マジ? ……あ、でも、さっき女子に『おはよう』って言ったら、めっちゃ照れてたかも」
「それだよ! そういうのやめろよ、俺の評価が爆上がりして逆に怖いから!」
---
4時間目の体育――鬼門だった。
男子はバスケ、女子はダンス。だが、今の彼らには地獄の時間である。
「お、おい……俺、スカートで飛んだり跳ねたりするの、マジで無理……っ!」
体育館の隅で、愛( 雄太)は青ざめながらも、雄太( 愛)に手を振った。
「がんばれ。お前の美脚にかかってるぞ」
「絶対に殺すからな……」
そんな不穏なやり取りをしたのち、体育の授業が始まった。
バスケでは、男子たちが雄太(愛)のプレーに驚愕していた。
「中島って……こんなにゴリゴリなプレースタイルだったっけ!?」
「ていうか、やたらスクリーンかけてくるんだけど……怖っ!」
その裏で、女子たちからはこんな声が上がっていた。
「中島さん、今日……めっちゃダンスうまくない?」
「え!? ていうか手の動きとか超しなやか……えっ、どういうこと!?」
---
こうして、入れ替わり初日の学校生活は波乱に満ちたまま終わった。
だが、その夜、LINEにはこんなやりとりが流れていた。
**愛**……あんたさ、案外いいとこあるわね。
**雄太**は? 何急に。気持ち悪っ。
**愛**今日、私の体でダンスをしてたとき、ちょっとかっこよかったわよ。
**雄太**そんなこと言うな。ドキドキするだろバカ。
**愛**……うん。ちょっとドキドキした。
そして二人の心の中に、小さな違和感と、ほんのり甘い何かが芽を出し始めていた。
---
21
あなたにおすすめの小説
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる