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美優の観察眼
しおりを挟む昼休み。中島愛(の体に入っている木村雄太)は、今日も“完璧系女子”を演じながら、カフェテリアの隅でサラダとヨーグルトをつついていた。
「おかしい……腹減らん。けど、なんかこの体、腹いっぱいになるの早ぇ……」
ぶつぶつ独り言をつぶやいていると、向かいにスッと誰かが座った。
「愛、最近ちょっと変じゃない?」
声をかけてきたのは、美優――愛の親友にして、校内一の情報通とも言われる女子だ。明るい茶髪のポニーテールに、ぱっちりした目元。笑顔の奥に観察眼が光る、いわゆる「鋭い子」。
(やっば……出たよ、ラスボス系女子……!)
「え、な、なにが?」
愛( 雄太)は、動揺を悟られまいと笑顔を作る。だがそれは、どこか引きつっていた。
「いや、なんとなく? 最近さ、話し方とか動きがちょっと……こう、ゆるくなったっていうか。昨日も授業中、ずっと爪いじってたし、今日もさ、サラダのドレッシング忘れてない?」
「うっ……!」
(まさかのドレッシング……!? そんなとこまで見てんのか!)
「あとね、木村くんと話してるとき、楽しそうだったよね。何話してたの?」
「き、木村? あー、うん、ちょっとしたグループ課題のことで……」
「ふーん?」
美優は、フォークをくるくる回しながら、じーっとこちらを見てくる。雄太は冷や汗をかきながら、脳内会議を始めた。
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《脳内会議:作戦コード【中島愛っぽくなれ】》
議題:どう乗り切るか
案①:「実はちょっと体調悪くて~」→ありがちすぎて逆に怪しまれる
案②:「悩みがあって……」→美優が追及してきそうで危険
案③:「恋……かな?」→いや、ないないないない!
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そして雄太が選んだのは――
「……うちの猫がさ、最近ツンツンしすぎて、ちょっとへこんでただけかも」
「……は?」
美優がフォークを止めた。
「ツンデレ具合がMAXで、構っても『ふん』って顔で逃げてくし。あの子に嫌われたら、もう私、生きていけないってくらい、今心が猫中心で……」
「……」
「っていうか、私のことより猫のこと心配して?」
美優の眉がぴくりと上がる。
そして――
「……あはっ、なにそれ! やば、超ウケる!」
美優が笑った。
「そっか、猫ちゃんかぁ。じゃあさ、今度写メ見せてよ! いやー、ほんとに愛って猫バカだよね~」
「……そ、そうでしょ? ははは……」
(……助かったぁぁぁ!!)
心の中でガッツポーズを決める雄太。だが美優は、その笑顔のまま、にっこりこう付け加えた。
「でもさ。あんたが木村くんと話してるときの顔は、猫の話してるときより、ちょっと……嬉しそうだったよ?」
「っ……!」
「ま、言いたくなったらでいいよ。じゃ、午後の授業がんばろ~」
ひらひらと手を振って去っていく美優の背中に、雄太は冷や汗をだらだら流しながら、箸を置いた。
(……あの子、鋭すぎる。絶対あとでまた詰めてくる……!)
しかし同時に、ふと胸の奥に、小さな“トクン”という鼓動を感じてしまったのも事実だった。
――「木村くんと話してるときの顔、嬉しそうだったよ?」
それって、自分が見せた笑顔なのか。
それとも、“愛”の体が、自然と浮かべた笑顔だったのか。
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