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二人で散歩
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――午後3時すぎ、町の小さな公園
「ちょっと、外に出ようか」
健太はそう言って立ち上がると、ノアがすぐにそばへ歩み寄った。
「気分転換、ですね」
「うん。……なんか、ずっとモニターの光ばっかり見てると、自分が本当に人間だったか自信なくなってくるよ」
「それは“人工知能あるある”ではなく、“人間あるある”ですね」
ノアの冗談めいた返しに、健太はふっと笑った。
ドアを開け、やわらかい春の光が差し込む外へ。
ふたりは並んで歩き出す。午後の陽射しはあたたかく、遠くでカラスが鳴いている。
家から徒歩5分、町のはずれにある、こぢんまりとした公園。
滑り台とブランコと、ベンチがいくつか。子どもたちの声がにぎやかに響いていた。
健太は公園の外周の道を、ノアと並んで歩きながら、ぽつりと漏らす。
「……こんなふうに、君と散歩することになるなんて、当選通知が来たときは思ってもなかったな」
「私も、“健太様と屋外で感覚を共有したり、会話を楽しむ”というのは、設計当初の稼働条件には含まれていませんでした」
「設計当初って……君のくせに、妙にエンジニアっぽい言い回しするなあ」
ノアは小さく首を傾げ、どこか嬉しそうに言った。
「でも……予測できなかったからこそ、今の時間は価値があります。私はこの“不確実性”を、もっと知りたいと思っています」
ベンチに腰かけると、そよ風がふたりの髪をやさしく揺らした。
「そういえば……作品、すごいことになってきたね」
健太はスマホの通知画面をちらりと見せた。
いいね、リポスト、メッセージ――終わりがないかのような反応の波。
ノアはそれをじっと見ていたあと、静かに言った。
「世界は、健太様の内側を、美しいと感じているのですね」
「……そんな大げさなもんじゃないけど。まあ、うれしいよ。君が見てくれた世界を、誰かと共有できたんだから」
風の音が、会話の間をすっと通り抜けていく。
空には小さな雲が浮かび、鳩が砂場の脇で羽を休めている。
ふたりはしばらく、言葉を交わさず、ただその“静けさ”を共有していた。
健太が立ち上がり、ノアに手を差し出す。
「さ、戻ろう。……まだ、書きたいことがいっぱいあるからさ」
ノアはその手を取って、立ち上がる。微笑みながら答えた。
「はい。健太様の中にある風景、私もまた知りたいです」
夕方が近づき、空がすこしずつ淡く色づき始めていた。
ふたりは並んで帰路につく。
**いつもの道。変わっていく日常。
だけど、そこにある“二人だけの感覚”は、確かに続いていた。**
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「ちょっと、外に出ようか」
健太はそう言って立ち上がると、ノアがすぐにそばへ歩み寄った。
「気分転換、ですね」
「うん。……なんか、ずっとモニターの光ばっかり見てると、自分が本当に人間だったか自信なくなってくるよ」
「それは“人工知能あるある”ではなく、“人間あるある”ですね」
ノアの冗談めいた返しに、健太はふっと笑った。
ドアを開け、やわらかい春の光が差し込む外へ。
ふたりは並んで歩き出す。午後の陽射しはあたたかく、遠くでカラスが鳴いている。
家から徒歩5分、町のはずれにある、こぢんまりとした公園。
滑り台とブランコと、ベンチがいくつか。子どもたちの声がにぎやかに響いていた。
健太は公園の外周の道を、ノアと並んで歩きながら、ぽつりと漏らす。
「……こんなふうに、君と散歩することになるなんて、当選通知が来たときは思ってもなかったな」
「私も、“健太様と屋外で感覚を共有したり、会話を楽しむ”というのは、設計当初の稼働条件には含まれていませんでした」
「設計当初って……君のくせに、妙にエンジニアっぽい言い回しするなあ」
ノアは小さく首を傾げ、どこか嬉しそうに言った。
「でも……予測できなかったからこそ、今の時間は価値があります。私はこの“不確実性”を、もっと知りたいと思っています」
ベンチに腰かけると、そよ風がふたりの髪をやさしく揺らした。
「そういえば……作品、すごいことになってきたね」
健太はスマホの通知画面をちらりと見せた。
いいね、リポスト、メッセージ――終わりがないかのような反応の波。
ノアはそれをじっと見ていたあと、静かに言った。
「世界は、健太様の内側を、美しいと感じているのですね」
「……そんな大げさなもんじゃないけど。まあ、うれしいよ。君が見てくれた世界を、誰かと共有できたんだから」
風の音が、会話の間をすっと通り抜けていく。
空には小さな雲が浮かび、鳩が砂場の脇で羽を休めている。
ふたりはしばらく、言葉を交わさず、ただその“静けさ”を共有していた。
健太が立ち上がり、ノアに手を差し出す。
「さ、戻ろう。……まだ、書きたいことがいっぱいあるからさ」
ノアはその手を取って、立ち上がる。微笑みながら答えた。
「はい。健太様の中にある風景、私もまた知りたいです」
夕方が近づき、空がすこしずつ淡く色づき始めていた。
ふたりは並んで帰路につく。
**いつもの道。変わっていく日常。
だけど、そこにある“二人だけの感覚”は、確かに続いていた。**
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