性別交換ノート

廣瀬純七

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なりきる?二人

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一限目が終わった休み時間。教室にはざわめきが満ちていた。
窓際の席に座る“山本渚”(中身は優斗)は、いつもよりずっと静かにノートを開いていた。ペンを持つ指先は妙にぎこちなく、字もどこか不格好だ。

(やばい……女子の字って、こんな感じだったっけ?)

頭の中で渚の字を思い出そうとするが、思い出すのは昨日のカラオケでの笑顔ばかり。
隣の席から咲良の声がした。

「渚、どうしたの? 今日なんか変だよ?」

優斗(渚の体)の心臓が一瞬止まりそうになる。咲良――渚の親友で、彼女のちょっとした表情の変化も見逃さない。

「え、えっと……別に? ちょっと眠いかな?」

“渚”の声で返す優斗。だが、その口調はいつもの渚に比べて明らかに素っ気ない。
咲良は眉をひそめて机に身を乗り出した。

「ほんとに? なんか、声のトーンも違う気がするし……それに、目つきも鋭いよ?」

「そ、そうかな? いや、ちょっと寝不足でさ」

(やばい。女子ってこんな観察力あんのか……!)

咲良はさらに追い打ちをかけるように笑った。
「まさかまた優斗くんとケンカしたとか?」

「け、ケンカ!? してないよ!」

思わず強い声を出してしまい、周りの生徒がちらりとこちらを見る。優斗(渚の体)は慌てて咳払いして誤魔化した。

一方そのころ、“佐伯優斗”(中身は渚)が同じようにバレないように必死だった。
渚は優斗の姿で男子たちの輪に混ざっていたが、話題が全然わからない。

「なあ優斗、お前昨日カラオケ行ったんだろ? 何歌ったんだよ?」

「え、えっと……内緒?」

「なんだよ、照れてんのか? まさか恋人と?」

「ち、違うし!」

男子たちがニヤニヤ笑う。渚は顔を真っ赤にして目をそらした。
(ど、どうしよう! バレる! こんなノリ無理!)

教室の向こうで、咲良がこちらを見ているのが見えた。咲良の視線が“渚(中身は優斗)”から“優斗(中身は渚)”へと動く。
その瞬間、彼女の目が少し鋭くなった。

「ねぇ……渚?」

咲良がもう一度声をかけてきた。

「な、なに?」

「今日の渚、なんか……優斗くんみたい」

「!!!」

教室の空気が止まったような気がした。優斗(中身は渚)は思わず立ち上がりかけ、慌てて机に手を置いてごまかす。

「な、なに言ってんだよ、咲良~! そんなわけないじゃん!」

語尾がわずかに男っぽくなったのを、自分でも感じて焦る。
咲良は首を傾げながら笑った。

「ふふ、冗談だって。でも、ほんとにちょっと変だよ。少しは寝たの?」

「う、うん! 寝た寝た!」

咲良は納得していないようだったが、それ以上は追及せず、笑顔で肩を叩いた。
「ま、元気出しなよ。放課後、一緒に帰ろ?」

「う、うん……!」

咲良が離れたあと、優斗(渚の体)は深く息を吐いた。
(あっぶねぇ……もう少しで終わってた)

一方の渚(優斗の体)も、男子グループから抜け出してそっとため息をつく。
(もう無理……早く戻りたい……!)

二人は休み時間の終わりを知らせるチャイムに救われるように、同時に机に突っ伏した。
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