9 / 13
なりきる?二人
しおりを挟む
一限目が終わった休み時間。教室にはざわめきが満ちていた。
窓際の席に座る“山本渚”(中身は優斗)は、いつもよりずっと静かにノートを開いていた。ペンを持つ指先は妙にぎこちなく、字もどこか不格好だ。
(やばい……女子の字って、こんな感じだったっけ?)
頭の中で渚の字を思い出そうとするが、思い出すのは昨日のカラオケでの笑顔ばかり。
隣の席から咲良の声がした。
「渚、どうしたの? 今日なんか変だよ?」
優斗(渚の体)の心臓が一瞬止まりそうになる。咲良――渚の親友で、彼女のちょっとした表情の変化も見逃さない。
「え、えっと……別に? ちょっと眠いかな?」
“渚”の声で返す優斗。だが、その口調はいつもの渚に比べて明らかに素っ気ない。
咲良は眉をひそめて机に身を乗り出した。
「ほんとに? なんか、声のトーンも違う気がするし……それに、目つきも鋭いよ?」
「そ、そうかな? いや、ちょっと寝不足でさ」
(やばい。女子ってこんな観察力あんのか……!)
咲良はさらに追い打ちをかけるように笑った。
「まさかまた優斗くんとケンカしたとか?」
「け、ケンカ!? してないよ!」
思わず強い声を出してしまい、周りの生徒がちらりとこちらを見る。優斗(渚の体)は慌てて咳払いして誤魔化した。
一方そのころ、“佐伯優斗”(中身は渚)が同じようにバレないように必死だった。
渚は優斗の姿で男子たちの輪に混ざっていたが、話題が全然わからない。
「なあ優斗、お前昨日カラオケ行ったんだろ? 何歌ったんだよ?」
「え、えっと……内緒?」
「なんだよ、照れてんのか? まさか恋人と?」
「ち、違うし!」
男子たちがニヤニヤ笑う。渚は顔を真っ赤にして目をそらした。
(ど、どうしよう! バレる! こんなノリ無理!)
教室の向こうで、咲良がこちらを見ているのが見えた。咲良の視線が“渚(中身は優斗)”から“優斗(中身は渚)”へと動く。
その瞬間、彼女の目が少し鋭くなった。
「ねぇ……渚?」
咲良がもう一度声をかけてきた。
「な、なに?」
「今日の渚、なんか……優斗くんみたい」
「!!!」
教室の空気が止まったような気がした。優斗(中身は渚)は思わず立ち上がりかけ、慌てて机に手を置いてごまかす。
「な、なに言ってんだよ、咲良~! そんなわけないじゃん!」
語尾がわずかに男っぽくなったのを、自分でも感じて焦る。
咲良は首を傾げながら笑った。
「ふふ、冗談だって。でも、ほんとにちょっと変だよ。少しは寝たの?」
「う、うん! 寝た寝た!」
咲良は納得していないようだったが、それ以上は追及せず、笑顔で肩を叩いた。
「ま、元気出しなよ。放課後、一緒に帰ろ?」
「う、うん……!」
咲良が離れたあと、優斗(渚の体)は深く息を吐いた。
(あっぶねぇ……もう少しで終わってた)
一方の渚(優斗の体)も、男子グループから抜け出してそっとため息をつく。
(もう無理……早く戻りたい……!)
二人は休み時間の終わりを知らせるチャイムに救われるように、同時に机に突っ伏した。
窓際の席に座る“山本渚”(中身は優斗)は、いつもよりずっと静かにノートを開いていた。ペンを持つ指先は妙にぎこちなく、字もどこか不格好だ。
(やばい……女子の字って、こんな感じだったっけ?)
頭の中で渚の字を思い出そうとするが、思い出すのは昨日のカラオケでの笑顔ばかり。
隣の席から咲良の声がした。
「渚、どうしたの? 今日なんか変だよ?」
優斗(渚の体)の心臓が一瞬止まりそうになる。咲良――渚の親友で、彼女のちょっとした表情の変化も見逃さない。
「え、えっと……別に? ちょっと眠いかな?」
“渚”の声で返す優斗。だが、その口調はいつもの渚に比べて明らかに素っ気ない。
咲良は眉をひそめて机に身を乗り出した。
「ほんとに? なんか、声のトーンも違う気がするし……それに、目つきも鋭いよ?」
「そ、そうかな? いや、ちょっと寝不足でさ」
(やばい。女子ってこんな観察力あんのか……!)
咲良はさらに追い打ちをかけるように笑った。
「まさかまた優斗くんとケンカしたとか?」
「け、ケンカ!? してないよ!」
思わず強い声を出してしまい、周りの生徒がちらりとこちらを見る。優斗(渚の体)は慌てて咳払いして誤魔化した。
一方そのころ、“佐伯優斗”(中身は渚)が同じようにバレないように必死だった。
渚は優斗の姿で男子たちの輪に混ざっていたが、話題が全然わからない。
「なあ優斗、お前昨日カラオケ行ったんだろ? 何歌ったんだよ?」
「え、えっと……内緒?」
「なんだよ、照れてんのか? まさか恋人と?」
「ち、違うし!」
男子たちがニヤニヤ笑う。渚は顔を真っ赤にして目をそらした。
(ど、どうしよう! バレる! こんなノリ無理!)
教室の向こうで、咲良がこちらを見ているのが見えた。咲良の視線が“渚(中身は優斗)”から“優斗(中身は渚)”へと動く。
その瞬間、彼女の目が少し鋭くなった。
「ねぇ……渚?」
咲良がもう一度声をかけてきた。
「な、なに?」
「今日の渚、なんか……優斗くんみたい」
「!!!」
教室の空気が止まったような気がした。優斗(中身は渚)は思わず立ち上がりかけ、慌てて机に手を置いてごまかす。
「な、なに言ってんだよ、咲良~! そんなわけないじゃん!」
語尾がわずかに男っぽくなったのを、自分でも感じて焦る。
咲良は首を傾げながら笑った。
「ふふ、冗談だって。でも、ほんとにちょっと変だよ。少しは寝たの?」
「う、うん! 寝た寝た!」
咲良は納得していないようだったが、それ以上は追及せず、笑顔で肩を叩いた。
「ま、元気出しなよ。放課後、一緒に帰ろ?」
「う、うん……!」
咲良が離れたあと、優斗(渚の体)は深く息を吐いた。
(あっぶねぇ……もう少しで終わってた)
一方の渚(優斗の体)も、男子グループから抜け出してそっとため息をつく。
(もう無理……早く戻りたい……!)
二人は休み時間の終わりを知らせるチャイムに救われるように、同時に机に突っ伏した。
0
あなたにおすすめの小説
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる