バーチャル女子高生

廣瀬純七

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週末の楽しみ

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土曜日の朝、目覚まし時計が鳴ると同時に、山崎陽介はいつものように大きなため息をついた。都内の中堅企業に勤める35歳のサラリーマン。日々の業務に追われる彼の楽しみは、週末だけ訪れる「もう一つの生活」だった。

コーヒーを入れ、ノートパソコンを立ち上げる。画面に浮かび上がるのは、煌びやかで緻密に作り込まれたバーチャル世界「アカシア学園」。陽介がこの仮想空間で過ごすもう一つの姿——「朝比奈ひより」という女子高生のアバターが画面に現れる。

「さて、今日も頑張りますか…」

陽介は現実では出せない高めの声でつぶやきながら、ヘッドセットを装着し、仮想世界の中へと没入していった。

---

アカシア学園は、最新のVR技術を駆使した仮想空間の学校だ。学生としての生活を楽しむことができるこのサービスは、若者だけでなく、大人にも人気が高い。だが、陽介はただの「遊び」としてこの世界に参加しているわけではなかった。

**「今日の放課後は、生徒会の企画会議だったな。」**

ひより——つまり陽介——は、生徒会副会長という立場で、アカシア学園内の多くの生徒たちと接していた。現実の仕事では、無難にこなす「普通の社員」でしかない陽介。しかし、この仮想の学園では誰からも信頼され、頼られる存在だった。

「朝比奈さん!おはようございます!」

教室に入ると、他のアバターたちが元気よく声をかけてくる。陽介はひよりのキャラを崩さないように笑顔を浮かべ、「おはよう!」と答える。その振る舞いは、現実の自分とはかけ離れていた。

---

陽介がアカシア学園に通い始めたのは1年前のことだった。仕事のストレスと孤独感に押しつぶされそうになったある日、偶然目にした広告がきっかけだった。

> **「もう一度、青春をやり直してみませんか?」**

そのキャッチフレーズに心を掴まれ、彼は何も考えずに登録してしまった。それから、彼の生活は少しずつ変わり始めた。バーチャルの世界での彼は、現実では味わえない充実感を手に入れたのだ。

---

しかし、最近、陽介はこの生活に一抹の不安を覚え始めていた。

「これでいいのか…?」

現実世界での自分を顧みると、この二重生活が徐々に心の中に影を落とし始めているのを感じる。それでも、アカシア学園での時間は何よりも楽しく、手放すことはできなかった。

このままこの二つの世界を行き来する日々を続けていいのか。それとも——

陽介の物語は、この問いをきっかけに動き出すことになる。
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