君を愛せないと言われたので、夫が忘れた初恋令嬢を探します

狭山ひびき

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失った記憶の戻し方 2

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「アナスタージア‼」

 報告を受けたクリフは、大急ぎで帰宅すると寝室に駆け込んだ。
 ベッドの上にはアナスタージアが横たわっており、その横にはドロシアとセイディがいる。
 ドロシアもセイディも青ざめており、まるで葬儀のように部屋の空気が重かった。
 執事のヒューズから城に使いが連絡にやってきたとき、クリフは耳を疑った。
 しかし白い顔でベッドに横たわっているアナスタージアの目はきつく閉ざされたままで――クリフは震えながらベッドに近づく。

「坊ちゃま……」
「ドロシア、だいたいのことは聞いたが、今一度説明してくれ。何があった?」

 硬い声で訊ねながら、クリフは力の入っていないアナスタージアの手を取った。
 手のひらに伝わって来たぬくもりにホッと息を吐き出す。
 静かに眠るアナスタージアはまるで死人のようにも見えたのだ。
 手のひらに伝わる熱に、静かに上下する胸元を確認して、ようやく喉の奥で凍っていた息が吐きだせた気がする。

「旦那様、わたくしから説明いたします」

 ドロシアが答える前に、セイディが震える声を発した。
 そちらに視線を向けると、セイディはぎゅっとドレスのスカートを握り締めて、しかしまっすぐにクリフを見た。

「本日、奥様のドレスの注文をするために仕立て屋を招きました。大奥様も懇意にしている仕立て屋のマダムです。マダムは二人の従業員の男性を伴って現れました。ドレスと布の見本を沢山運び込まれたので、荷物持ちとして連れてこられたのです。ですからわたくし共も、不審には思いませんでした」
「その仕立て屋なら知っている。だから俺も許可を出した」
「はい。……最初は何もおかしな点はありませんでした。けれど、わたくしどもがマダムとドレスのデザインについて話をしている時にそれは起きました。従業員の男の一人が奥様に近づいたのです。布の説明をはじめたようなので、わたくしも警戒しておりませんでした。ところが――」

 セイディはそこで言葉を切って、大きく深呼吸をした。唇が震えている。

「その男は、奥様の顔に手のひらをかざしました。わたくしの角度からは男が奥様に掴みかかったように見えて慌てて奥様を守ろうと向かいましたが、その前に男の手が白く光ったように見えました。おそらくあれは魔法だと思われますが、何の魔法なのかはわかりません。奥様はその直後意識を失って倒れました」
「その男は?」
「すぐにわたくしとドロシアが声を上げたので、邸の使用人が駆けつけ取り押さえようとしましたが逃げられました。マダムともう一人の男の身柄は拘束しましたが、マダムももう一人の従業員も何も知らなかったようです。その男は十日ほど前に貴族に紹介されて従業員として雇った男とのことでした」
「その貴族は?」
「……アストン侯爵家だそうです」

 クリフはぎりっと奥歯を噛んだ。

「セイディ、ヒューズに連絡し魔法省のコニーリアス長官に至急来てもらってくれ」
「かしこまりました」

 セイディが部屋を飛び出していく。
 ドロシアが蒼白な顔でクリフを見た。

「坊ちゃん……」
「ドロシアのせいじゃない。セイディのせいでもない。気に病むな。アナスタージアの体に魔力を流してみたが、命に別状はなさそうだからじきに目覚めると思う。大丈夫だ」

 クリフは大丈夫だと言いながら、心の中では「本当に大丈夫だろうか」と不安に感じていた。
 魔法を使われて何もないはずがない。
 単純に気絶させるだけの魔法だとは思えなかったからだ。あの場でそんなことをしても何のメリットもない。
 何か仕掛けられたはずだ。
 けれどクリフにはそれが何かがわからなかった。だからこそコニーリアスの力が必要だ。

(アストン侯爵家……!)

 本当は今すぐアストン侯爵家に乗り込んで侯爵の首を締めあげてやりたかった。
 しかし、男が逃げた以上、侯爵は知らぬ存ぜぬでとぼけるのが落ちだろう。
 アナスタージアに魔法をかけたという男を捕らえ、その男の口からアストン侯爵の指示だったと証言させなければ捕縛もままならない。

(もしアナスタージアに何かあったら……アストン侯爵、殺してやるっ!)

 クリフは未だ目覚めないアナスタージアの手を自分の額に押し付けて、ぎゅっと目を閉じた。


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