29 / 40
失った記憶の戻し方 3
しおりを挟む
一時間ほどして、魔法省長官コニーリアス・ヘイマーがぼさぼさ頭とよれよれの服で現れた。
アナスタージアはまだ目覚めない。
コニーリアスは眠ったままのアナスタージアの顔を確認したあと、その額に手を当てて目を閉じた。クリフがやったように魔力を通してアナスタージアに体に残る魔法の残滓を確認しているのだろう。
クリフはごくりと喉を鳴らし、コニーリアスの判断を待つ。
やがて、コニーリアスはそっと息を吐いた。
「どうやらあなたが自分に使った魔法と同じものがかけられていますね」
忘却の魔法です、とコニーリアスが厳しい顔で言った。
「あの魔法は一部の人間にしか知られていない。さらに言えば魔力の高い人間にしか使えません。アナスタージア夫人に魔法をかけた人間を早く捕まえなければいけません。この魔法を他者に使うことは禁忌ですし、他に被害者が出ないとも限らない。すぐに陛下に奏上し、騎士団と魔法師団を動かしなさい。アナスタージア夫人の体に残る魔力の残滓を僕が追跡魔法具に登録します。国境を封鎖し、逃がさないように。彼女はまだ目覚めないでしょうから、クリフ、急ぎなさい!」
「アナスタージアを頼みます!」
クリフは弾かれたように駆けだした。
アナスタージアに忘却の魔法が使われたと知って彼女がいったいなにを忘れたのか、それがとても気がかりだが、クリフは国王の側近だ。
コニーリアスがついているのならアナスタージアは大丈夫だろう。ただ目覚めるのを横で待つより、彼女に魔法をかけた男を捕縛する手配をかけるべきだ。
胸の中がざわざわする。
不安を振り払うように、クリフはヒューズに用意させた馬車に乗り込んだ。
国王の執務室に飛び込むと、ギルバートも心配してくれていたのだろう、強張った表情で立ち上がる。
「どうだった?」
「コニーリアス長官がついてくれています。それよりも――」
クリフがコニーリアスに聞いた内容と指示をギルバートに伝えると、彼はすぐに動いた。
「騎士団および魔法師団の団長、それから法務省の大臣をこれへ‼」
法務省の大臣は王妃イヴェットの父親だ。騎士団と魔法師団の団長は古参貴族出身だが新興貴族と縁を結んだ新興貴族派である。彼らは信用できる。
相手がアストン侯爵の息のかかった者なら、彼から妨害が入る前に速やかに行動に移さなくてはならない。
国王の執務室で開かれた緊急会議後に出された結論は、各省庁に通達されることなく、「非常時特例」の名のものに速やかに実行に移されることとなった――
アナスタージアはまだ目覚めない。
コニーリアスは眠ったままのアナスタージアの顔を確認したあと、その額に手を当てて目を閉じた。クリフがやったように魔力を通してアナスタージアに体に残る魔法の残滓を確認しているのだろう。
クリフはごくりと喉を鳴らし、コニーリアスの判断を待つ。
やがて、コニーリアスはそっと息を吐いた。
「どうやらあなたが自分に使った魔法と同じものがかけられていますね」
忘却の魔法です、とコニーリアスが厳しい顔で言った。
「あの魔法は一部の人間にしか知られていない。さらに言えば魔力の高い人間にしか使えません。アナスタージア夫人に魔法をかけた人間を早く捕まえなければいけません。この魔法を他者に使うことは禁忌ですし、他に被害者が出ないとも限らない。すぐに陛下に奏上し、騎士団と魔法師団を動かしなさい。アナスタージア夫人の体に残る魔力の残滓を僕が追跡魔法具に登録します。国境を封鎖し、逃がさないように。彼女はまだ目覚めないでしょうから、クリフ、急ぎなさい!」
「アナスタージアを頼みます!」
クリフは弾かれたように駆けだした。
アナスタージアに忘却の魔法が使われたと知って彼女がいったいなにを忘れたのか、それがとても気がかりだが、クリフは国王の側近だ。
コニーリアスがついているのならアナスタージアは大丈夫だろう。ただ目覚めるのを横で待つより、彼女に魔法をかけた男を捕縛する手配をかけるべきだ。
胸の中がざわざわする。
不安を振り払うように、クリフはヒューズに用意させた馬車に乗り込んだ。
国王の執務室に飛び込むと、ギルバートも心配してくれていたのだろう、強張った表情で立ち上がる。
「どうだった?」
「コニーリアス長官がついてくれています。それよりも――」
クリフがコニーリアスに聞いた内容と指示をギルバートに伝えると、彼はすぐに動いた。
「騎士団および魔法師団の団長、それから法務省の大臣をこれへ‼」
法務省の大臣は王妃イヴェットの父親だ。騎士団と魔法師団の団長は古参貴族出身だが新興貴族と縁を結んだ新興貴族派である。彼らは信用できる。
相手がアストン侯爵の息のかかった者なら、彼から妨害が入る前に速やかに行動に移さなくてはならない。
国王の執務室で開かれた緊急会議後に出された結論は、各省庁に通達されることなく、「非常時特例」の名のものに速やかに実行に移されることとなった――
227
あなたにおすすめの小説
捨てられた令嬢と、選ばれなかった未来
鍛高譚
恋愛
「君とは釣り合わない。だから、僕は王女殿下を選ぶ」
婚約者アルバート・ロンズデールに冷たく告げられた瞬間、エミリア・ウィンスレットの人生は暗転した。
王都一の名門公爵令嬢として慎ましくも誠実に彼を支えてきたというのに、待っていたのは無慈悲な婚約破棄――しかも相手は王女クラリッサ。
アルバートと王女の華やかな婚約発表の裏で、エミリアは社交界から冷遇され、"捨てられた哀れな令嬢"と嘲笑される日々が始まる。
だが、彼女は決して屈しない。
「ならば、貴方たちが後悔するような未来を作るわ」
そう決意したエミリアは、ある人物から手を差し伸べられる。
――それは、冷静沈着にして王国の正統な後継者、皇太子アレクシス・フォルベルト。
彼は告げる。「私と共に来い。……君の聡明さと誇りが、この国には必要だ」
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
【完結】婚約解消ですか?!分かりました!!
たまこ
恋愛
大好きな婚約者ベンジャミンが、侯爵令嬢と想い合っていることを知った、猪突猛進系令嬢ルシルの婚約解消奮闘記。
2023.5.8
HOTランキング61位/24hランキング47位
ありがとうございました!
【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!
たまこ
恋愛
エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。
だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。
【完結】今更、好きだと言われても困ります……不仲な幼馴染が夫になりまして!
Rohdea
恋愛
──私の事を嫌いだと最初に言ったのはあなたなのに!
婚約者の王子からある日突然、婚約破棄をされてしまった、
侯爵令嬢のオリヴィア。
次の嫁ぎ先なんて絶対に見つからないと思っていたのに、何故かすぐに婚約の話が舞い込んで来て、
あれよあれよとそのまま結婚する事に……
しかし、なんとその結婚相手は、ある日を境に突然冷たくされ、そのまま疎遠になっていた不仲な幼馴染の侯爵令息ヒューズだった。
「俺はお前を愛してなどいない!」
「そんな事は昔から知っているわ!」
しかし、初夜でそう宣言したはずのヒューズの様子は何故かどんどんおかしくなっていく……
そして、婚約者だった王子の様子も……?
【完結】赤い薔薇なんて、いらない。
花草青依
恋愛
婚約者であるニコラスに婚約の解消を促されたレイチェル。彼女はニコラスを愛しているがゆえに、それを拒否した。自己嫌悪に苛まれながらもレイチェルは、彼に想いを伝えようとするが・・・・・・。 ■《夢見る乙女のメモリアルシリーズ》1作目の外伝 ■拙作『捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る』のスピンオフ作品。続編ではありません。
■「第18回恋愛小説大賞」の参加作品です ■画像は生成AI(ChatGPT)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる