君を愛せないと言われたので、夫が忘れた初恋令嬢を探します

狭山ひびき

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失った記憶の戻し方 9

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 わたしが忘却の魔法をかけられてから、クリフ様たちはまず、わたしに魔法をかけた男の捜索を行ったそうだ。
 国境を封鎖し、コニーリアス様が作った追跡の魔法道具を用いて、騎士団と魔法師団をほぼ総動員する勢いで捜索した結果、男はアストン侯爵領で発見されたという。
 城に連行し、尋問に描けた結果、複数名の古参貴族が関与していることがわかったらしい。

 昨年、コニーリアス様の研究室に何者かが侵入した事件が起きたが、それにもその古参貴族たちの関与が認められた。
 彼等は自分たちより裕福な暮らしをし、さらには爵位を与えられた国に重用されはじめた新興貴族たちを憎んでおり、魔法を用いて害そうと企んだそうだ。

 魔力を持った人間は一握り。
 そして魔力を持っているのは貴族の中に多い。
 新興貴族たちで魔力を持っているものはほとんどおらず、魔法の知識も乏しいため、魔法を使えば簡単に害せると判断したらしい。

 新興貴族を害するために目をつけた魔法は、忘却の魔法をはじめとするいくつかの禁忌魔法だった。
 禁忌魔法の発動条件を知る人間はほんの一握り。アストン侯爵をはじめとする今回の事件に関与した古参貴族たちは誰も知らなかったため、コニーリアス様の研究室に忍び込み、禁忌魔法の発動条件を探ったそうである。

 しかし、ここで読みが外れた。
 禁忌魔法ゆえに、彼等もその魔法がどの程度の効力があるものなのかただしく理解していなかったのだ。
 例えば忘却の魔法を使えば、対象者の記憶をすべて消し去れると認識していた彼らは、その魔法の効力が期待していたほどでなかったことに失望し、その魔法を用いて新興貴族を害するのはあまりメリットがないと諦めたらしい。
 禁忌魔法は無断使用がばれたら厳重に処罰される。得られるものとリスクを天秤にかけて、リスクの方が大きすぎると判断したようだ。

 ゆえに最近まで盗み出された禁忌魔法は使用されなかった。
 だが――

「ビアトリス・アストンがその魔法を用いて君を害そうとしたんだよ」

 クリフ様が忌々しそうに舌打ちした。
 どうやらわたしは、自分が思っていた以上にビアトリス様に恨まれていたらしい。
 捕らえて尋問した結果、ビアトリス様はわたしがいなければ自分がクリフ様と結婚していたはずだと言ったそうだ。

 現王陛下であるギルバート様や、公爵で王族のクリフ様の結婚相手は、新興貴族制度がはじまるまえの慣習では、高位貴族の令嬢の中から年回りの近い女性が選ばれていた。
 ビアトリス様は侯爵令嬢。生まれた当初から、アストン侯爵家ではいずれ王妃か王族の妻になることを目されて育てられていたそうだ。
 ギルバート陛下に選ばれたのはイヴェット様だったけれど、こちらはまだ納得はできたという。彼女もまた、古参貴族の高位貴族――公爵令嬢だったからだ。

 しかし、わたしについては別である。
 新興貴族の伯爵令嬢。
 新興貴族を蔑視している古参貴族は、新興貴族を貴族と認めていない。
 ゆえに、わたしが王族であるクリフ様の妻に決まった際、ものすごい批判が集まったそうだ。

 その批判は先王陛下が、この決定に異を唱えるものは国家反逆の意思があるとみなすという強い言葉で制したため、その声が表立ってわたしの耳に届くことは少なかったが、こそこそと言われていることは知っていた。

 ビアトリス様は、幼いころからギルバート様かクリフ様の妻になると思っていたため、わたしのことがどうしても許せなかったという。
 それに加えて王妃様のお茶会でわたしに恥をかかされたと思い込んだ彼女は、わたしを害してクリフ様に離縁されるように仕向けようとしたそうだ。
 忘却の魔法もそのために使わせたという。

 コニーリアス様の研究室に忍び込んだ男はアストン侯爵家の遠縁の男だった。
 忍び込んだ時に控えた禁忌魔法の情報はアストン侯爵家に残されており、ビアトリス様は魔法が使えるものをお金で雇ってわたしの記憶を消し去ろうとしたという、
 ビアトリス様はわたしの中からクリフ様の記憶が消えれば、クリフ様がわたしを捨てると思ったそうだ。

 だけどわたしとクリフ様が離縁する気配はなく、それどころか、わたしに忘却の魔法を使った男の身柄が拘束されてアストン侯爵家に家宅捜索まで入った。
 追い詰められたビアトリス様は、死なばもろともと言わんばかりにわたしを葬り去ろうとしたらしい。

 ……なんか、わかったようなわからないような計画だわ。

 正直、なんてお粗末なのかしらと思う。
 計画はあまりにも杜撰すぎる。ばれたらどうなるかということくらい考えなかったのかしら。

 ……ああでも、王妃様のお茶会のビアトリス様の行動を思えば、何かわかる気もしなくもないわ。

 もう少し状況判断ができる人なら、このようなことにはならなかっただろう。
 わたしはあきれたが、そのせいでわたしの一部の記憶が失われたのは事実なので笑えない。

「高すぎるプライドのせいで身を滅ぼしたって感じですね」
「その通りだろうが、俺は腹が立って仕方がないよ」

 禁忌魔法を許可なく他者に使用することは重罪だ。
 最終的に国王陛下と法務省の判断になるだろうが、軽い罪ではすまない。
 そのことについて、クリフ様はどう思っているのだろうか。
 クリフ様の初恋の女性はビアトリス様だろう。
 なんでビアトリス様のような女性に恋をしたのだろうかと不思議で仕方がないが、人の感情というのは理屈じゃない。
 初恋の女性が捕縛され処罰されることになったわけだが、クリフ様は傷ついていないだろうか。

 ちょっと心配になっていたらクリフ様がそっと手を握り締めてきた。
 思わずびくりとしてしまう。
 目の前の方がクリフ様だとはわかっているのだけど、心の中に残っているクリフ様への気持ちと目の前の彼の顔が一致しないから、こうしたふれあいには戸惑いしかない。
 わたしが震えたからか、クリフ様が傷ついた顔をした。わたしの胸がちくりと痛む。

「アナスタージア、もう一つ話があるんだ」

 クリフ様は綺麗な瞳を揺らしながら、どこか不安そうにわたしを見た。

「君の失った記憶を元に戻せる可能性がある。そのためには君に魔法をかけなくてはいけないのだが……いいだろうか?」



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